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ギュールスと共に近衛兵団第一部隊が災難と遭遇

 用事を済ませて対策本部から出てきたケイナの目に入ってきた者は、ギュールスの普段の姿だった。


「……どうした? その格好……。お前、装備は?」


「えーと、そのー……」


「口ごもってる場合ではないだろう! 皇国から賜ったも同然の装備だぞ? 私のツケにした服はともかく、鎧などはどこにやった!」


 ケイナの怒りは誰が見ても明らか。当然怒りの表情を隠すこともせず、その怒声は街の一角に響き渡った。

 通行人や商店街の従業員達は、何事かと二人の方を注目する。

 そばにいた通行人の何人かはその瞬間ギュールスに飛び掛かった。


「な、何をする、お前ら!」


「近衛兵様! こ、この『混族』が大変失礼なことをしまして、我々一般の国民がこいつに代わってお詫びを申し上げます! あ、こいつは斬首するなりなんなりと」


「待たんか! お前ら!」


 ケイナは全く想像しない目の前の現実に慌てている。

 そこに輪をかけてギュールスが


「あ、自分は気にしないので、この人たちの言う通りに」


「黙れ! 『混族』がっ! 何をしたのか知らんが、死んで詫びろ!」


 彼を押さえつける通行人達がそんなことを言いながら、さらに力を入れて押さえつけるため、ギュールスは発言も途中で押さえつけられた。


「どうした……って、何だこの騒ぎは」


「ケイナ、何があったの?」


「……何でギュールスが昨日と同じ姿になってるの?」


「わ、分からん。対策本部に用事があって、そこから出てきたらギュールスはこの格好だ。思わず怒鳴ったらこの有様。私もいったい何があったのか……」


「近衛兵様、何の話をされているのか分かりませんが、ひとまずこいつを……」


「いい加減にしろ、お前ら! 彼を解放しろ!」


「できません! 『混族』ですよ?! 手を離した途端何をしでかすか分からないやつですよ?!」


 ケイナも通行人達も頭に血が上っている。

 合流した三人は、『混族』という存在がどれだけ一般の者達に憎しみを掻き立てているのかをようやく理解できた。

 『混族』に対しては、理屈ではなく、憎しみの感情で動いている。

 一度気持ちを整理させる必要がある。


「お前たちの言う『混族』とはこいつの事なのか?」


 エリンは冷静な声で、ギュールスを抑え込んでいる者達に尋ねた。


「もちろんです! 青い体をしている奴は『混族』の証ですよ?!」


「その『混族』はお前達に何か危害を加えたか?」


「放ってはおけないでしょう! 押さえを解いたら何をやらかすか分かったものではないですよ!」


「そいつの名前、立場などは知っているのか?」


「そんなこと知る必要はありません! 『混族』、それだけで十分です!」


 抑え込んでいる者達は口々に答え、答えない者達は誰かの答えに激しく頭を上下に振り同意している。


「我々は何者かは知っているか?」


「そりゃもちろんです。街中の治安を守ったり、魔族を討伐してくださる近衛兵の方々ですよね?」


「うむ。そしてその抑え込まれている男は、我々の仲間だ」


 ギュールスを抑え込んでいる者達から怒りの表情が消え、代わりに明らかにそれを疑う顔で互いに見合わす。


「もう一度言う。すぐに解放しろ。でなければお前たちのその行為は国家、皇帝陛下への反逆罪と受け止めるぞ?」


 互いに見合わしていた通行人達の顔には驚きの表情であふれかえる。

 そんな中、ギュールスを抑え込んでいた一人が声を上げる。


「構いません! 恐ろしい『混族』一人と命を引き換えに討伐できるなら、これに勝る光栄は」


「光栄はないっ! お前たちが抑え込んでいるのは近衛兵の一人、ギュールス=ボールドであり、『混族』という人物ではない!」


 エリンがはっきりと言い切る。怒りの感情はなく、多くの者に宣言するかのような辺りに響き渡る聞き心地のいい声で。


 通行人たちは恐る恐るギュールスから離れる。

 『混族』を斬るのであれば、栄誉ある死を迎えることになるだろうが、『混族』なのに処罰されないのであれば、彼らにとってのそれはただの犬死である。


「あ、あの……」


 通行人が彼から離れる動きと同じように、ギュールスも恐る恐る立ち上がる。


「ギュールス。余計なことは言うな。お前の感情もいらない。お前が身に付けていた衣類と近衛兵師団の第一部隊に定められた装備一式はどこへやった? なぜ自分の体から外した?」


 予め釘を刺してから問いかけるエリン。

 流石のギュールスもその雰囲気には逆らえない。


「え、えっと、自分を呼び止める者がいて、自分にはふさわしくないからということで取り上げられ……」


「その者とは誰のことだ?」


「え、えっと、多分確か、以前魔族討伐に登録して、一緒の隊になった者と思いますが……よく覚えてないです……」


「お前から装備を外した後、その鎧などはどう扱っていた?」


「自分の体に付けてました……」


 アイミとティルは、頭痛を抑えるかのように頭に指をあてている。


「装備一式か? ほかの誰かと分けたなどということは」


「その人物一人だけです」


「エリン、アイミ、ティル! 手分けして探せ! 反応によっては切り捨てて構わん! 大事な仲間を愚弄したのだ! 国賊も同然だ! 私はギュールスを警護する! 体型はギュールスと違う可能性もあることも忘れるな! お前達もここから去れ! 探索の邪魔だ!」


 三人は弾かれる様にその場から走り去り、ギュールスがしていた格好をしていると思われる人物を探し始めた。


「お、俺は……」


「私と共にここで待機だ! こいつを抑えようと近づく一般人は、こいつから鎧を奪い取った者と同罪として扱う!」


 ケイナはエリンよりも激しい怒りの表情で、さらに声高々に周囲に知らしめた。


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