心の内の温度差と行き違い
「戦場での食料はそれだけでいいのか? 何日滞在するか分からんのだぞ? 傭兵ならば大体半日で帰還する決まりとしているが、正規軍はその戦いでなるべく勝利するまで戦場に居続けることも多々ある」
「……でも俺は目的達成を失敗したら処分して俺の件は終わりでしょ? 別に近衛兵達や団長が気にするようなことじゃないですよ。今までとそんなに変わりないですよ。使い捨ての便利屋。ただそれだけの事ですよ」
命を有効に捨てる。意味のある死に方をする。しかし無理して生き延びようとはしない。
彼はそんな思考なのかと、食糧調達のために本部の中庭に同行したケイナは考える。
仲間達からの報告と調査の結果を思い返す。
彼はほぼ毎回無傷で生還している。
そしてそのことに誰も気付いていなかった。
なぜなら、彼の身につけている装備や衣類にみずぼらしさと貧相さが目立つため。
団長の言う通り、この者の戦力は相当高い。
それでも周囲の蔑みに殉じている。
自分の強さに気付いていないのか。もしそうなら、自分の強さに気付いた時、周りに抵抗を始めた時、この国が転覆しかねないのではなかろうか。
そんな恐れも彼女の中に生まれてくる。
「次は道具を補充したいのですが」
「……?! き、貴様反抗するのか?!」
ケイナは自分の発想に浸るあまり、ギュールスの次の行動がそれと混ざり軽い混乱を起こす。
「は? あぁ、道具補充の不許可ならそれでもいいですけど」
「……あ、いや、すまん。少しボーっとしていた。討伐用の道具なら……」
ケイナは弁解するが、その彼女の横を通り過ぎるギュールス。
「おい、貴様どこに行くつもりだ? 一人で勝手な行動はまだ許されていない」
「……さっきの部屋に戻るだけですよ。道順は覚えてますから」
一瞬ケイナの思考と行動は止まる。
そして穏やかならぬ思いが湧き出る。
「……嫌味か? 貴様ッッ! 今のはただの失言だろうが! それに貴様の言葉の不足も責められることだぞ!」
「……そんな興奮しないでください。あ、今ここで自分を処分というなら別に気にしませんが……。あ、そうか。青い体が気持ち悪いのか。それもそうだ。目の前でちらちらしてたら」
ギュールスは困惑した顔。
道具を揃えようとしたら反逆の意があると捉えられ、それに従うと彼女の気持ちを害する。
気に食わなければ息の根を止めてくれれば済むはずなのに。
そんな疑問を持つ。
「……討伐本部や町中ではぶん殴られて放置されてそれで終わりだったんですがね。ここでも好きなように扱ってもらう覚悟はあるんですが、振る舞いの仕方が分かりません。この中庭なら食べる物も困りませんし、水分補給なら真ん中の噴水……」
「バカ言うな! ……道具の補充が必要なら倉庫に移動するぞ。必要な物を持って行け。それでいいな? 準備がすべて整ったら待機室に戻る。分かったな?」
噴水の水を飲み水に使用する者が、どの世界にいるだろうか。
それだけ一般常識から無理矢理離れさせた生活を強要されたのだろうとは簡単に想像できるが、それを矯正するには頭痛が起きそうなくらい苦労しそうに思える。
一方ギュールスは、その指示通りにさせてもらえるかどうか疑っている。手にする直前で取り上げられ、準備させてもらえないなら待機室に移動する方が無駄がないのだから。
だが疑い始めたらキリがない。とりあえずケイナの問いかけに黙って頷く。
倉庫に案内してもらったギュールスは更に困惑している。
欲しい道具はたくさんある。
しかしその効果がどれほどの物か分からない。
試用した分数も減る。効果を知りたいが知る手段がない。
「自分には扱いが危険そうなのでやっぱりやめます」
ケイナはもう唖然とするしかない。
ギュールスとの問答はこちらの神経も磨り減らす。
足早に待機室に連れて行ったあと、団長室に報告に向かった。