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皇国の守護神・青の一族 ~混族という蔑称で呼ばれる男から始まる伝説~  作者: 網野ホウ
ギュールス=ボールドの流浪 ロワーナの変革期
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ギュールス、四面楚歌での立ち回り

「さてさて。方々から疑惑の視線が注がれてます。何をどう言っても人の話を聞かない方から説得するしかないのですが……」


「ふざけるのもいい加減にしなさい! 上の部屋は私達オワサワール皇国の軍が制圧してます! 全員、我々に投降しなさい!」


「だそうですよ。ニューロス王。このお嬢さん方が怖いので私は降伏しますが」


 ロワーナ達もニューロス達も、ギュールスの反応に呆気にとられる。

 あまりにも軽々しすぎる無責任な言動。

 これまでの彼の態度は一体何だったのか。

 今度はロワーナが激昂する。


「ギュールス! お前の行動に振り回されるのもこれ以上勘弁ならん! 貴様から」


「その前に、この部屋から宮廷内に響き渡る緊急信号などを止めるのが先ではないでしょうか? 少しは落ち着いたらいかがです?」


 ギュールスの言葉に我に返ったニューロスは、非常ベルのボタンを押す。

 しかし何の反応もない。


「ニューロス王。その発信はついさっき私が止めてます。それ、ただのお飾りですよ?」


「なっ……。お前……ギュールス! 一体どういうつもりだ! いや、そもそもそのロワーナ王女とは、前々から面識があったな?!」


 ギュールスの名を呼ぶロワーナの様子を見れば、誰でもニューロスと同じ思いを持つだろう。

 せっかくならもう少し初対面のふりをする方が良かったのだろうが、たまりにたまった感情のこともある。そして事態はそれを大きな問題としないところまで行きついている。


「その通りだ! ミラノス王女にはそのような話は既にしていたがな。だがお前に話が通っていないことと、この部屋の中を彼女は知らないことを合わせて考えれば、やはりお前達だけを抑えればすべての世界的危機は未然に抑えられるということだ!」


「ま、その情報をニューロス王に届かないようにした俺の小細工も殊勲賞並みだよな」


「なっ!」


「なぜ、そんな?!」


 ロワーナはニューロスと同時に驚く。

 ギュールスはレンドレスのために動いているとばかり思っていたが、これではまるでこの研究室を孤立させようとする意志を持っているのは明白。

 ギュールスの意図が理解できない。


「……この国に来て、いろんな見方があることを実感しました。『混族』が侮蔑の対象である世界の中で、尊敬、敬愛の対象であることを知ってから、有り得ない見方や可能性も馬鹿に出来ないことを知りました」


 何のことかとニューロスは問い詰める。

 ロワーナも、ギュールスが何を言いたいのかその真意はまだ掴めない。

 研究員や親衛隊達もなおさらである。

 ギュールスはその研究員達に視線を向けた。


「数々の自分への人体実験には本当に感謝しています。こんな未知の魔族の体を吸収する実験をさせてもらえたのですからねぇ。地、水、火、風、雷、そして光と影の魔法属性の研究対象として俺自身を提供したから当然でしょうか。しかしあまりにもあなた方は間抜け過ぎました」


 完全に研究員達を、そして遠巻きにニューロスを馬鹿にした言い方である。

 研究員達は戦闘態勢をとる。

 ニューロスの顔は赤くなり、怒りに震えている。


「だってそうでしょう? 自分達の知っている魔法や魔力は俺の体の中でどうなっているか、それを調べてたのに、俺の体の中全てをそれだけで知ったつもりでいるんですから。……ロワーナ王女。この背中の傷、覚えてます?」


 ギュールスの三度目の討伐のときに、救助を求めてきた傭兵の攻撃を受けた傷である。

 現場は見ていないが、報告は受けている。


「……それがどうした。今更昔話か? 懐柔させようとしてもそうはいかんぞ!」


「……あなたを最初にここに連れてきた時、あんなクラスの魔族を吸収する実験をお見せしましたよね? 今日まであの実験を、全部で三回したんですよ。そしたらこんな魔法を使えるようになりましてね……。皆さんのお腹立ちはごもっともですが、こちらをご覧ください」


 ギュールスはそう言うと、ガラス窓の方を見る。

 ギュールスの目から光が発せられ、ガラス窓がスクリーンの役目を果たし、何かの映像が映る。


「その傷を受けた時の様子です。自分が体験したんですから、自分の視界に入った物を映すとばかり思ってたんですが、自分が体験した様子を第三者に分かりやすく見せる力を得たようなんですね」


 ギュールスが背中に傷を負った時の映像が流れている。

 スケルトンの集団を抑えに行くギュールス。

 一人の男が、無警戒のギュールスの背中に向けて斜めに一閃。

 地面に倒れたあとその男に踏みつけられている。


「……!?」


 いくら裏切り行為をしている者とは言え、かつて味方だった者が救助を要する者から足蹴にされて黙って見られるほどロワーナは非情ではなかった。

 ニューロスも研究員達も、そして親衛隊の全員も、まさかそのような仕打ちをされていたなどと思っても見なかった。


「あぁ、自分がどんなひどい目に遭ったかを見せたかったんじゃないんですよ。あの武器、前にも申し上げましたが、痛みを与える能力を持ってるんですね」


「傷を受けたら痛みを感じるに決まっているだろう。それがどうした!」


「傷跡は残ってますが、痛みも入院してからは少しは和らいだんですがね……」


 ギュールスの目から光が消え、映像も消える。

 そしてニューロスを真っすぐに見る。


「でも痛みはあまり変わってないんですよ。ロワーナ王女にも伝えましたがね、痛みを与える武器だったんですよ。いつまでもいつまでも残る痛みです」


「何が言いたい? それが今この現状でのことにどうつながるのだ」


「痛みは、痛いという感情に繋がります。体を動かしちゃまずい、体を休ませないとまずい、という本能にも繋がるんですよ。そして気付きました」


 なかなか話の結論に結びつかないギュールスの話し方に全員がイライラしてくる。

 それでも平然と話を続ける。


「魔族ばかりではなく、物が持つ能力もひょっとして吸収しているのではないか、そしてそんな魔法が存在するなどと夢にも思わないその三人が自分を鑑定しても、その力があること自体分からないのではないか、とね」


 ロワーナには相変わらずギュールスが何を言いたいのかは分からない。

 しかし風向きが自分に有利に吹き始めているのを感じている。


「そこで考えましたよ。ニューロス王と後ろの……シェイガーさん、ジェイムさん、ヴィールさんでしたか。この研究の果てに望むものは一体何だろう、とね」


 ロワーナはギュールスの話に聞き入り始めた。

 そのせいか、研究室の中、空間のあちこちでキラキラと輝く何かが現れ始めているような気がした。


「この研究により、魔族の持つすべての力を手に入れること」


「そして自由自在に扱えるようになること。そして希望する者に伝授できるようになることだ」


「そしてこの世にあらわれる魔族を支配すること!」


「ニューロス王。あなたはどうですか? せっかくの機会です。その願いを宣言されてみたらいかがです?」


 気のせいではない。

 ロワーナが感じた輝きの粒が次第に大きくなる。

 しかし誰もそのことを指摘しない。

 何かが変だ。

 何かがおかしい。

 そう感じ声を出そうとしたが、背中越しにギュールスが手のひらをロワーナに見せる。

 何も言うなという指示らしい。


「この魔族の力を誰よりも多く大きく我が物とし、この世界を征服することだ!」


 ニューロスは声高々と宣言する。

 やはり彼の本音はそこにあった。

 この男をここで止めなければならない。

 腰に携えた剣に手をかける。

 それよりも先に、ギュールスが、ニューロスよりも大きく響く声を揚げた。


「そなたらの願い! 今、既に叶ったり!!」


 ギュールスの声と共に、研究室の中でとてつもない白い閃光が炸裂した。

 その光に耐え兼ねたロワーナは両腕で目を覆う。

 ロワーナの後ろではうめく声が聞こえた。

 親衛隊達もおそらく同じ感覚に襲われたのだろう。


 しばらくして視力が回復したのを見計らい、目を覆っている腕の隙間から研究室の様子を見る。

 真っ先に目に入った異変。

 それは、この上ない幸せに浸っているような顔のニューロスと研究員三人。

 ロワーナ達とギュールスに対して向けられた、怒りの感情は完全に消え失せていた。


「……一体……これは……」


「……ロワーナ王女、親衛隊の皆さん。彼らと共に一旦王の部屋に戻りましょう。すべて、お話ししますよ。……いろいろとご心配かけました」


 ギュールスからの言葉に、まだ信頼できないとばかりに睨みつけるロワーナ。

 親衛隊からも、同じような視線を浴びている。


「自業自得。因果応報。痛いくらい身に染みてますよ。ただ話は王妃とミラノスにも聞いてもらう必要がありますから。さ、参りますか。……ニューロス王、それからその三人も。一緒に行きますよ」


 先頭を歩くギュールスに続いてロワーナ達、そして言われるがままにニューロス達がその後に続いて、長い螺旋階段を上り王の部屋に向かった。


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