前編
「うわー、すごいすごい・・いっぱいだー!」
薬草採取をしていた私は森の中で珍しい花が一面に咲いている場所を見つけました。
「この森にこんな場所があったなんて・・・」
うれしくなった私は一人花畑で小踊りした。
ガサッ
突然の音に振り返ると、少し年上の男性が森から出てきました。
「やあ、妖精さんここで何をしているのかな。」
男性は優しい笑顔で私に問いかけてきます。
身なりからして高位貴族のかたでしょう。
「ごきげんよう。わたくしはミィリシェア・ウィサビィラと申します。珍しい薬草のお花畑に少々舞い上がってしまいましたの。」
男性は急に顔を赤くした後に、今度はやや暗い顔をされました。
「すまない、名前を名乗れないんだよ。ゆるしてほしい。」
そんな顔をしないでください、なぜかこちらが悪いみたいに思えてきます。
「そうですの、では騎士様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、そうですね。そう呼んでください。ウィサビィラ嬢、・・・ところで、この花はどんな薬になるのですか?」
「リュシーの花は魔術で調合して、毎日飲むことで体質改善と毒素の中和が出来ますの。採取後半時以内に飲まないと効果がでないので、とても貴重なのですわ。」
――――――――――――――――――
私は花畑で舞う、かわいい妖精に出会った。
まだ、十歳くらいに見える彼女に見とれていると、急に彼女がこちらを振り向いた。
どうする、何か話しかけなければ・・・
「やあ、妖精さんここで何をしているのかな。」
しまった、思っていたことが口に出てしまった。妖精などと呼んでは警戒されてしまうではないか。
「ごきげんよう。わたくしはミィリシェア・ウィサビィラと申します。珍しい薬草のお花畑に少々舞い上がってしまいましたの。」
彼女はそんな私のどうようには気付かずに挨拶をかえしてくれた。
私は返事をしようと思ったが、身分がばれてしまうので名乗ることが出来ない。
「すまない、名前を名乗れないんだ、ゆるしてほしい。」
「そうですの、では騎士様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
こちらが名乗らないことを気にしていないかのように彼女は笑いかけてくれた。
「ああ、そうですね。そう呼んでください。ウィサビィラ嬢、・・・ところで、この花はどんな薬になるのですか?」
彼女は薬草学や魔術薬に詳しくいろいろな話をした。
特にリュシーの花のことは私にとってすばらしい情報だった。
私の毒の後遺症は、これまで色々な薬や魔術薬を試したが良い結果が得られなかったが、これは試してみる価値がありそうだ。
しかし、それを抜きにしても彼女と話すのは楽しい。
ふと会話が途切れたときに彼女は少し顔を赤らめて私の目を見た。
「わたくしの光の神になって下さいませんか?」
これは最高神である光と闇の神になぞらえて、強い結びつきを望むときに使われる言葉である。
私は友達になってほしいと言われてうれしくなって彼女に微笑んだ。
「ああ、よろしくお願いするよ。私の闇の神」
私の言葉に彼女はうれしそうに笑った。
「わたくしのことはシェアとお呼びください、騎士様」
「わかったよシェア」
私はこの森で暮らすようになって初めてできた友達に微笑み返した。
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私は十二歳になったので王都の学園に入学します。
この学園は遠方の貴族ご令息やご令嬢を受け入れるための寮も完備されていて、しかも無料で入寮出来るのです。
本当に無料なのです。三食きちんと食べられるし、冬も薪の心配をしなくていいのですよ。
さあ、この世の楽園に出発です。
ああ、なんてすばらしいのでしょう。学園に薬草園も完備しているなんて。
「見てあの方、あんな美しくないお花を見てうっとりなさっていますわ。」「ずいぶん個性的な方ですわね。」
他のご令嬢たちが私から離れていきます。
む、この黒くてどろっとしたお花は貴重な薬草なのですよ。この価値がお分かりにならないなんて、なんて残念なのでしょう。
しかし、長い間薬草を見ていたのが悪かったのでしょう。私はお友達作りに失敗してしまいました。
くすん・・・
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今日は私の生活を支えている薬草の取引をいたします。
「最高神たる闇の神の眷属セレネよ、我を隠したまえ。」
取引場所はいつもの路地裏です。
「いつもどおりいいブツだ。来月は少し多めでたのむぜ。」
木箱に入った魔術薬を確認し下級貴族の商人はお金を置いて去っていきました。
商人が立ち去るのを確認してから、お金を回収して家に帰ります。
取引場所がなぜ路地裏なのかとか神のご加護で姿を隠しているのかなどは私を育ててくれたばあやの時代から引き継いだもので別にやましい事があるわけではありません。
家に着いたら必要分だけお金を取り出し、残りは秘密の隠し場所に入れておきます。
「ばあや、ただいま。今回もいつも通り取引が出来ましたわ。」
わたしは小さいころ描いた、ばあやの似顔絵に話しかける。
「わたくしは、元気です。あんしんしてくださいね。」
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今日は学園内を散策です。
広い学園内には、ところどころに林や茂みもあり少しだけですが薬草が自生している場所もあるのです。
うわっ、林の中で逢引している人と遭遇してしまいました。
こちらには気付いてはいないようです。
「その件であれば、お父様と相談中ですわ。」
「まってくれ、それはいささか性急ではないか。」
困りました、ずいぶん深刻な話のようです。
私は、耳をふさいで二人がいなくなるのを待ちました。
しばらくして、二人は別々の方向に歩いていきます。
「ふぅー、私も今日は帰りましょう。」
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――林の外で(第一王子派の学生)――
「何か変わったことはあったか。」
「コルネウス様、今日の密会では見慣れぬご令嬢が一人参加していました。
「む、それが誰か分かっているのか。」
「たしか、制服の色は一年生の物でしたが、詳細は把握していません。」
「ジルベリア、君が少し探ってみてくれ。」
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「誰もいませんね。」
今日は薬草採取のために、いったん家に帰ります。
「最高神たる闇の神の眷属セレネよ、我を隠したまえ。」
貴族でありながら、私は平民街に住んでいます。
母が亡くなりばあやとともに伯爵家を追い出された私たちは貴族街に住むことが出来なかったからです。
安全のために、ばあやにこの家のことは隠すように言われています。
家で採取用の服に着替えた私は王都から半日の場所にある森へと向かいます。
「ばあや、いってきます。」
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――ジルベリア(第一王子派)――
「ばかな・・確かにこの路地に入ったはず、尾行に気付いたのか。これは本格的に調べて見る必要がありそうだ。」
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コンコンコン
「ごきげんよう、騎士様」
「久しぶりだね、シェア。」
薬草採取のときは森の中にある騎士様の家に泊まって、翌日の午前中に薬草採取をして学園寮に帰ります。
護衛騎士様が準備してくれたお茶を騎士様と二人でいただきます。
このお屋敷には侍女やメイドはいらっしゃらないため、いつも護衛騎士様が準備してくださいます。
「学園の中でも薬草が自生している場所があって助かっています。」
「こまったな、それではシェアがここに来る理由がなくなってしまうね。」
「そんなことはございませんわ。騎士様とのお話しするのは楽しいですし、王都の近くで質のいい薬草が取れるのはここしかございませんもの。」
騎士様はなぜかにがわらいをしています。
「そうか、そうだね、この森の薬草は種類も豊富だからいつでも遊びにおいで。」
「ありがとう存じます。」
薬草採取には騎士様とその護衛騎士様も付いてきて下さいます。
最近は、騎士様も薬草が見分けられるようになったので、私の採取を手伝ってくれるようになりました。
そして、はじめてお会いしたリュシーの花畑でお昼をいただきます。
この花は冬以外一年中咲いているので、いつきても青色の絨毯のようです。
「この花の青は私をいつも優しく包み込んでくれる。シェアと同じですね。」
難しい言い回しは苦手ですが、きっと私の青い瞳を褒められたのですね。
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手紙で学園の裏庭に呼び出されました。
“貴様の秘密をばらされたくなければ、昼食後裏庭に来られたし”
絶対行きたくないのですが、もし森の秘密が知られてしまったのなら黙っていてくださるようにお願いしなければなりません。
「フッ、おとなしく来たようだなミィリシェア・ウィサビィラ」
「わたくしを呼び出したのはあなたですか。」
まずはこの人が何に気付いたのか確かめなければ・・・
「そんな口をきいていられるのも時間の問題だ。貴様が裏で毒物を作っていることは調べが付いている。」
え・・
「黙っていてほしかったら俺様のためにしびれ薬を調合しろ。」
はあ~?
「婚約者のイザベラは手以外を触らせてくれぬ。」
そうなのですか・・
「紅茶に一服盛って髪やほほを触らせてもらうのだ。」
興奮した男はどんどん近づいてくる。
うわっ、どうでもいいですから近づかないで!
「断らないよな。」
肩をつかまれた私は手を払いのけると同時に足払いをかけて、後ろに引き倒し髪飾りを抜いて首元に突きつける。
「気安く触らないでください。」
男は驚愕のまなざしで私を見る。
「そこで何をなさっていますの。トリアレス様から離れなさい。」
後ろを振り向くと怒った様子のご令嬢がこちらを見ています。
「イザベラ・・・」
男はご令嬢の名前を呟きました。
あれ、そのお名前は先ほどの話で聞いた、この人の婚約者様で、たしか子爵家のご令嬢です。
それに、トリアレス様と言うことは、この変態男は侯爵家の三男ですか。
どうしましょう今の変態的なことを婚約者様にお話して破談にでもなったら後々困ったことになるかもしれません。
「トリアレス様、わたくしの不注意でぶつかってしまい、ご無礼いたしました。急いでおりますので失礼いたします。」
とりつくろった言い訳をしてその場を立ち去りました。
あとはお二人で話してくださいませ・・・・
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学園は長期休暇です。
私は薬草の宝庫である魔獣の森に採取に向かいます。
いつもの通り、神のご加護で姿を隠して家へと帰り、採取用の服に着替えて旅の荷物を持って出発です。
魔獣の森は徒歩で三日の距離です。
節約のため辻馬車に乗らず徒歩で移動します。
「あ、あそこに生えているのはプレンス草です。」
街道を少し外れた場所に香草を発見しました。
これをお肉に振り掛けると美味しさが増し、場末の宿のお肉がちょっとだけ高級になるお得な香草なのです。
「さいさきがいいです。」
ばあや、今日も私は元気です。
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採取は予定以上の量が確保できました。
今は、魔獣の森近くにあるビアラス男爵邸の調合室で薬草の調合中です。
ここの男爵邸の調合室は料金を払って借りることができます。
「ほう、若いのになかなか腕前だね。」
「ごきげんようビアラス男爵、わたくしはミィリシェア・ウィサビィラと申します。お褒め頂き光栄ですわ。」
「お、これはシリカゲ草ではないか、こんなにたくさん良く手に入ったな。」
この人も薬草に詳しいみたい。こんな立派な調合室があるくらいだから、そうかもしれないと思ってはいたけど間違ってなかったのね。
「ウィサビィラ嬢、すまないがこのシリカゲ草を少し分けては貰えないかな。」
魔獣との戦闘で深手を負った騎士を手当てするのにも必要でしょうし、今回は少し取りすぎてしまいましたから
「かしこまりました、半分であればお渡しできますわ。貴族にも有効な強い効果が獲られますものね。」
「ほう、薬効についても良く分かっているようだね。君のことは覚えておこう。」
「もったいないお言葉ですわ。」
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――ある屋敷の一角で(第一王子派の学生)――
「ジルベリア、ミィリシェア・ウィサビィラの件で有力な情報が手に入った。姉上が偶然に南の街道沿いで旅人に扮した彼女を見かけた。だが馬車が近づくと急に街道から外れて身を隠したそうだ。」
「南といえばビアラス男爵領がございます。やはりあの者は第三王子派でしたか。」
「まだ確証は持てぬが影を確認に行かせたので、この件は報告待ちだ。」
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ビアラス男爵はシリカゲ草以外の薬草や魔術薬も高値で買い取ってくださいました。
そのお金で香草を買い、騎士様への贈り物として調味料を調合しました。
王都に帰る途中で騎士様のところに調味料をお渡しするために立ち寄ります。
「最高神たる闇の神の眷属セレネよ、我を隠したまえ。」
森の手前にある町から神のご加護で隠れて移動します。
少し前に変態に呼び出されたこともありましたし、念には念を入れないといけません。
「ごきげんよう、騎士様」
「歓迎するよシェア」
よっぽど退屈だったのか、騎士様は満面の笑みで迎えてくださり、すぐにテラスにお茶が準備されました。
「四日後には商人に頼んでいた珍しい異国の食材と調味料が手に入るのだけど、シェアと一緒に食べたいな。それまで滞在してもらってもいいかな。」
学園の長期休暇はまだまだあるし、異国の料理にも興味があります。
「ええ、大丈夫ですわ。よろしくお願いいたしますね。」
あ、忘れていました。
「騎士様、こころばかりの品ではございますが、受け取ってくださいませ。」
私は調合した調味料を渡しました。
「気にしなくていいのだよ、シェアが来てくれただけで私はうれしいからね。」
騎士様はビンを見て少し困ったような顔をされました。
「え、ああこれは調味料かな・・うれしいよ、大切に使わせてもらうね。」
「申しわけございません、男性がどのような物を好まれるのかが分かりませんので、魔獣の森付近でのみ採れる香草を調合してみたのですが・・・」
男性の方への贈り物として調味料は微妙なのかもしれませんが他に用意できるものを思いつかなかったのです。
それに、装飾品は高位貴族の方に贈れるほどの物を用意できないのです。
「違うんだ、ただ私では中身が良く分からなかっただけで、シェアからもらえる物ならなんだってうれしいよ。本当だからね。」
騎士様は必死に否定してくださいます。これ以上この話を続けても雰囲気が悪くなるだけです。
「わかりましたわ。今度はあっと驚くような物を探してまいりますね。」
お話の区切りの意味をこめて笑いかけると、騎士様も優しく笑い返してくださいました。
「この白と黄色が混ざったも甘い物と不思議な味のするスープはとても美味しいですわ。」
初めて食べる異国の料理はとても美味しいです。王都でも見たことがありません。
「これはオルベリアス帝国北部の料理で黄色っぽいのが“くりごはん”でスープが“みそしる”だよ。最近、ローズマイヤー王国の商人が陛下に献上したものなんだ。」
騎士様は公爵か侯爵に連なる方なのかしら、そんな貴重な物を手に入れることができるなんて。
私が顔を赤らめて空のお皿を見つめていると、護衛騎士様がそっとあたらしい“くりごはん“をテーブルにおいてくださいました。
「あ、ありがとう存じます。」
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――ある屋敷の一角で(第一王子派の学生と影)――
「それで、報告せよ。」
「申し訳ございません。ミィリシェア・ウィサビィラがビアラス男爵邸から出てきたところは確認したのですが、王都への途中で姿を見失いました。今も部下には探させております。」
「コルネウス様、これはもうあの者が第三王子派に属していると見て間違いありませんね。」
「そのようだな、今後は監視を強化したほうよさそうだ。」
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――森の屋敷の二人(?)――
「しかし、騙してまで引き止めたのに、何も進展がないなんてどんだけだよ。」
「う、うるさい!」
「そうかい、一ヶ月前から食材も準備して計画していたのに、結局何も出来ないなんて。このままじゃ、学園で誰かに取られてしまうかもしれませんよ。」
「シェアは物じゃない、そんな表現をするな。」
「はいはいそうですね、でもこのまま良い兄のような立場でよろしいのですか。それとなく、学園に気になる男性がいないことを確認はしておりますが、そろそろお話が出てもおかしくない年頃だと思いますよ。」
「わかっている!・・・次の計画を練る。」
俺は去っていく主を見て当分無理だろうとあきらめた。
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学園で変な噂が流れています。
いわく、私が侯爵家三男のトリアレス様を誘惑したらしいのです。
へ・・・・
なぜ私が婚約者に一服盛ろうとしていた変態を誘惑しなければならないのでしょうか。
噂の根源であるトリアレス様にきちんと否定していただかなければなりません。
トリアレス様がいる教室に向かいます。
「恐れ入ります。トリアレス様はいらっ「あなた、ここに何しに来たの!」」
私が戸口近くにおられた方に話しかけると、教室の奥からかんだかい声がしてそれをさえぎりました。
「トリアレス様に何の御用ですの。貴女と話すことなんてないはずよ。」
困りました、トリアレス様の婚約者であるイザベラ様に直接お話しするわけにもまいりません。
「ごきげんよう、わたくしミィリシェア・ウィサビィラと申します。何か誤解「この性悪女が、貴女と話すことなんてありません帰ってくださるかしら。」」
困りました、これでは話が進展しません。
彼女の少し後ろにトリアレス様はいらっしゃいました。
「トリアレス様、貴方から真実をお話してください。」
その言葉にトリアレス様はそっぽを向いてこちらを無視しています。
こうなったら最後の手段です。
「わたくしからこの場の皆様にあのことをお話してもよろしいのですか。」
「ま、まて・いや待ってください。それだけは・・・」
一応、あのことが問題だとわかってはいたのですね。貴方のことは変態からやや変態に変更しておきます。
しかし、周囲の方々はなぜか、きょうがくの視線を私に向けてきます。
「貴女、侯爵家を脅すおつもりですの。」
なにを真顔でおっしゃっているのでしょうか、そんなつもりはこれっぽっちもありませんよ。
「申し訳ない、ウィサビィラ様、噂についてはこちらで必ず対処いたしますので、どうかご内密にお願いいたします。」
トリアレス様はそう言って私に頭を下げられました。
上位の男性にここまでされたのですから、ここは引くべきでしょうね。
「わかりましたわ。わたくしもお騒がせして、まことに申しわけございません。」
=====================
あれからしばらくして、噂も消えていきました。
トリアレス様はあれでも信義を重んじる、きちんとした高位貴族だったようです。
私は先生に頼まれた薬草を取りに薬草園に向かっています。
パサリ
すれ違った先輩がハンカチを落としたので拾ってあげました。
ですが、先生から渡された薬草のメモも一緒に渡してしまったようです。
先輩の姿はもう見当たりません。
薬草の分量は覚えているのでメモをなくしたことは問題ないのですが、今後は気を付けましょう。
=====================
――ある教室の片隅で(第三王子派の学生)――
「先ほど通路でミィリシェア・ウィサビィラからこのようなメモを受け取った。」
「これは、薬草の名前のようですが・・・わかりました、これは暗号です。」
「ほう、どういう意味なのだ。」
「この薬草は北部でしか取れない薬草です。つまり、北のアートン侯爵を示しています。他の者に奪われたときの事を考慮してこのような書き方をしたのでしょう。」
「そうか、ビアラス男爵も彼女からいろいろなものを提供されたといっていたな。つまり、我々の協力者ということだ。」
「そのようです。最近ではアートン侯爵家のトリアレスを脅し何事かの、じょうほを引き出したと聞いております。」
「おお、それはすばらしいな。」
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――ある教室の片隅で(第一王子派の学生)――
「くそ、ミィリシェア・ウィサビィラめ、なんと忌々しいことか。」
「コルネウス様どうなさったのですか。」
「弟のトリアレスがあの者とかかわるのを止めてほしいと言ってきた。だが、理由を聞いても何も答えてくれぬ。どうも、なにか弱みを握られているようなのだ。」
「なんと・・・」
「ああ、おまえがここに来たということは何かあったのだな。」
「はい、ミィリシェア・ウィサビィラがトロイアス侯爵家のケントレプスと接触し何かメモを渡しておりました。」
「またしてもあの者か!」
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手紙で学園の裏庭に呼び出されました。
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ミィリシェア・ウィサビィラ様へ
貴女様にぜひともお願いしたいことがございます。
放課後にどうか学園の裏庭までお越しください。
プラシラス伯爵家三男オルベウラス
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前回と違い脅迫ではないようですが行きたくはありません。
ですが伯爵家の方に、にらまれると困るので、とりあえず行ってみましょうか。
「フッ、おとなしく来たようだなミィリシェア・ウィサビィラ」
あれ、なぜか前回と同じ言葉が聞こえてきます。
「ごきげんよう、プラシラス様」
ああ、かえりたいです・・・
「そなた、かなり高位の神のご加護が得られるそうだな。」
はあ、たしかにそうですけど・・
「俺が愛をささやいても婚約者のロミリアは表情一つ変えぬ。」
そうなのですか。
「そこで、俺に美の女神の加護を祈ってほしい。そうすれば、ロミリアも顔を赤らめて恥ずかしがってくれるはずだ。それにちょっとだけあの二つの大きな頂に触れさせてもらえるかもしれぬ。」
男は私のある部分を見て嘲笑する。
「断らないよな。」
肩をつかまれた私は手を払いのけると同時に足払いをかけて、後ろに引き倒し髪飾りを抜いて首元に突きつける。
つい本当に刺してしまいそうになりました。
「「・・・・・・・・・」」
男は驚愕のまなざしで私を見る。
「そこで何をなさっていますの。オルベウラス様から離れなさい。」
ああ、なぜこうも狙ったように婚約者様(予想)が現れるのでしょうか。
また噂になってはいけません。
「わかっていらっしゃいますよね。変な噂が立ったらわたくし、今日のことを誰かに話してしまうかもしれませんわよ。」
相手がうなずくのを確認してこの場を離れます。
「それではごきげんよう。」
後ろで口論が聞こえてきますが無視です。私だって怒るときがあるのです。