1話
私の名前は春野華美。
今年の春から大学一年!
好きなものは美味しいもの!
そして、今年からなんと一人暮らしなのです!!大家さんも優しそうなおばあちゃんで上手くやって行けそう!
「はい、じゃあ華美ちゃんコレ409号室の鍵ね。」
「あ、ありがとうございますっ」
そういうと大家さんは帰ってしまった。
あー、どきどきするなぁ……
荷物は全部運んであるってお母さん言ってたし。角部屋だから上の部屋と下の部屋と隣に挨拶して……
あ、とにかく部屋に入らないと
ガチャ
さぁはじまりますよ!こんにちは!憧れの学生ライフ!!!
「!?」
扉を開けるとそこには手が浮いていた。しかも片手じゃなくて、両手……
バタン…
扉を閉め、もう一度開けると手は何やらくねくねと動いている…………
「き、きゃぁぁんぐっっっ!!」
叫ぼうとした瞬間、手は慌てて私の方へ飛びかかり口を押さえた。
手は私のポケットからメモ帳とペンを取り上げ、何かを書き始めメモ帳を私に向けた
『大声出したら周りに迷惑でしょ!』
「始めの一言がそれですか……」
とりあえず怖い気持ちを抑え、落ち着くことにした。すると手は安心したのか、またメモ帳に何かを書き始めた。
『はじめまして!僕は半藤輝樹。さっきはいきなり驚かせちゃってごめんなさい。
手話で会話しようとしたんだけど、わからなかった?』
意外にも可愛い丸文字で自己紹介を始めた。
なるほど、先ほどのくねくねした動きは手話なのか。
「いや、わからないy……ですよ」
すると手はまた書き始めた
『そうだよね(汗)あ、メモ帳勝手に使っちゃってごめん…』
「あー、それは別にいいですよ。会話もそれないと成り立たなそうだし。っていうか半藤さん…?はなんで私の部屋に居るんですか?」
『僕はもともとここの住人でね、まぁ色々あってこの部屋に住んじゃってるんだ』
「その!色々が!気になるんですよ!!
もしかして、ここ…事故物件?」
『あー……あはは』
半藤さんの反応を見るからにそうなのだろう
早急に親に電話してみたところ
「あーそうそう!なんか異様に安かったのよww。まぁあんたそんなの気にしなそうだし、出たら出たで面白いでしょ?あ!もしかしてなんか見た?!写真!!写真送ってよ〜」
会話途中だが私の怒りが爆発しそうなので遮断させていただいた。
我が母ながらなんと軽いことか…昔からノリとテンションで生きてる人だとは思っていたが、まさか娘の初一人暮らし先を事故物件にするとは……
ピンポーン
インターホンが鳴り開けて見ると大家さんが居た。
「あのね、いい忘れてたけどたまにここ出るから、出たら仲良くしてあげてね?」
oh my god!!
もっと早く言ってくれ大家さん!!!
そして、それを伝えると足早に帰ってしまった。
『いやー、君みたいな子は初めてだよ。普通みんな家出てそのまま帰ってこないで引っ越しちゃうからね』
いや、そりゃそうでしょうよ。既に膝ガックガクですから!!
「半藤さんはその…幽霊…なんですか?」
『んー、そうなのかな?妖怪ってのもおかしいし、怪異とかでもないからね。ところで君名前は?』
「名前言ったら魂抜かれたりします?」
『しないよ?!』
「春野華美です……」
『華美ちゃんかぁ〜!可愛い名前だね!
僕のことは輝樹でいいよ!』
なんかチャラくないかこの人…
「半藤さんはその……成仏しなくていいんですか…?」
『んー、できたらここには居ないよね笑』
「まぁ、それもそうですね…」
『とりあえず、荷物開ける?手伝うよ?』
「あ、助かります」
この異様な雰囲気の中、もう色々ツッコミたい気持ちを諦めて私と半藤さんは荷物の片付けを開始した。
幽霊でもモノに触れるらしく、そういえばさっきからペンで文字書いて会話をしてたなぁ…
っていうか、半藤さん本当テキパキしてる…
気がつくと山になっていたダンボールたちが開封されただの板状になり、縛られている…
だが、時間もいい頃だし、なにより無言の作業が耐えられない。
「半藤さん、なにか飲みます?」
『僕、手だけだから、飲んだり食べたりできないんだよ…』
「あ!ご、ごめんなさい!つい…」
『いや、普通の人扱いしてくれて逆に嬉しいよ?ありがとうね華美ちゃん』
「半藤さんってこの部屋からは出れないんですか?」
『何回か試して見たけど、まず、壁抜けとかできなかったし、家空けて誰か入ってきたら嫌だから遠出はしたことないなぁ…
マンション内ならどこでも行けるよ』
あぁ、マンション内探検とかしたのね…
はたして見られていないのだろうか……
『猫がたまに来るから絶対もうやらないけどね』
猫に加えられて連れ去られる半藤さん…
絶対周りが見たらホラーだよ…
「えっと…見られたりは…」
『多分霊感?ある人しか見えないんじゃない?まぁ、ここに来る人はみんな見えてたけど…』
うん、絶対みんな見えるやつだこれ。
「外出はやめた方が良さそうですね……」
『猫怖い…』
トラウマになってるわこの人……
「物とか見えるんですか?」
『バッチリ見えてるよ』
「ってことはさっき私の下着も見たわけですね……」
『いや、あれちゃんと渡したよね?!』
「見たんじゃないですか……」
私だって乙女ですから!下着とか男の人に見られるのはかなり抵抗あります。
『あ、そろそろお昼じゃない?僕何か作るよ?華美ちゃんはそのまま作業してて』
「話逸らしましたね…」
半藤さんは逃げるように
台所に行った。
「あー、カップ麺とかしかないですよー?」
『了解』メモと共にピースをして湯を沸かし始め、私はもくもくと作業を続けた。
話してみると半藤さんっておじさんとかお父さんっていうよりお兄ちゃんって感じがしてちょっといいかもしれない。
まぁ、手だけっていうのにはまだ慣れないけど……
トントンと肩を叩きカップ麺ができたことを教えてくれる。食事中半藤さんは手を組んで嬉しそうにしている。
「暇じゃないですか?」
『いや?』
「そ、そうですか…」
食事が終わり荷物もだいたい片付けることができた。テレビやベットの設置など、半藤さんと相談しながら決めたお陰か、正直私1人で考えたのよりもかなり良い。可愛らしい女の子の部屋って感じにすることができた。
時計を見ると短針が6時を過ぎている。
そろそろ夕ご飯の買い出しに行くとするか…
「私、そろそろ夕ご飯の買い出しに行ってきますね!」
『わかった!気をつけてね』
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帰宅すると、半藤さんは本を広げて多分あれは読んでいる…のかな?
『おかえりなさい』
既に書いていたらしく、手元のメモを見せてきた。
「ただいま!」
椅子に座りテーブルに今夜の夕食を広げた。
メニューは大好きなとんかつにコロッケ
コーラにご飯!おやつは後で食べたいので冷蔵庫に入れる。
「いただきまーすっ」
『ちょっと待って』
「ん?」
『えっと……これは?』
「ご飯だよー、初日から作ったりなんてできないでしょ!」
『それはわかるけど、あまりにも偏り過ぎじゃない?冷蔵庫なんてお菓子でほぼいっぱいだし……』
「う゛……返す言葉もございません…」
『明日はこれ買って来てね。』
そう言って半藤さんは店の名前とその隣に買うものが書かれた紙を渡して来た。
『時間なかったらスーパーとかでもいいけど、ここの店のなら安いし良いのあるから!』
「半藤さん、なんでこんな詳しいの…」
『生きてた頃は僕もお金がたくさんあったわけじゃないかったからね、切り詰められるとこ切り詰めてたんだよ』
半藤さん、主婦っぽい!!
その後、半藤さんがお風呂の用意までしてくれて居たらしく、お風呂に入り出る頃にはお布団の用意までして居てくれた。
なんか、半藤さんに頼りっぱなしになって申し訳ないなぁ……
それにしても、私も今日出会ったばかりのしかも幽霊に対してかなり慣れてしまったというか…自分の神経の太さは母譲りなのかもしれない………
『おやすみ、華美ちゃん』
「お休みなさーい!あ、そういえばこれよかったら使って!」
『ん?ホワイトボード?』
「ほら!メモよりも書いて消せるこっちの方がいいかなって!」
『なるほど!ありがとう。大切に使うよ』
そう言ってホワイトボードを受け取った半藤さんはどこか嬉しそうに見えた。