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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第二章 セントリア魔法貴族院
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弟子は師匠を超えてこそ

「……昨日の夜、中庭で何をしてたですか」


ローゼンクイーンとの魔法の練習から一夜開けた翌日の放課後。

俺は修練場でエメラダに昨晩の事を問い詰められていた。


あの後、荒れてしまった中庭を直せる範囲で元に戻したが、当然隠しきれるわけもなく。

そもそも魔法同士が激突したときに響いた轟音は土台隠せるものではなかったため、屋敷の人間には『レオンが新しい魔法の開発に失敗した』と言う理由を付けて皆に説明した。


納得のいかない人もいるだろうな、と思っていたが、マグダとオスカルが根回しをしてくれたようでメイド達からの質問は驚くほど少なかった。

お嬢様方も、ローゼンクイーンはそもそも気を失っていて、今日は大事を取って学院を休み。

ソフィアは『レオンの言う事を疑いなんてしませんわ』、と深くは聞かないでくれた。

……今度の休日に時間を作るように、と言われてしまったが、安いものだろう。

アンはそもそも気づかずに爆睡していた。


で、残ったのは朝から俺を睨みつけるエメラダだけだった。


「少し、魔法の修練をば。制御を誤ってあのような事態になってしまいましたが……」

「フンッ、見え透いた嘘はやめるです。どうせ、ローゼ姉様が休んだのと関係あるんです」


バレバレである。しかし、ローゼンクイーンの事を安易に話すべきではない。

どうしたものか……。


「まぁ、いいです。とっとと、今日の練習に入るですよ」

「よろしいのですか?」


と、もっと問い詰められるかと思ったが、あっさりと折れてくれた。

今までのエメラダだったら、答えを聞くまで諦めなかったと思うのだが。


「答えが返ってこないのは知ってるですから。今の私に必要なのは、もっと別の事です」


予想以上にハッキリとした答えをエメラダが答える。

……やけに割り切りがいいな。


「それで、今日は何をするです?」

「では、前半は先日の続きを。後半はそれをもう一段階難易度を上げたことを行います」


気持ちを切り替えて、エメラダへの指導に集中する。

昨日のローゼンクイーンの様なことはもう御免だ。より一層身を引き締めないといけない。


「では、まずは十分を目標に。できますか?」

「望むところ、です!『虚無の魔力よ、繋ぎ止める力を、断ち切れ』!」


エメラダが魔力を込め、ボールを宙に浮かせた。



「ぐぬぬ……」

「惜しかったですね。でも、明日には達成できそうですよ」


修練場脇のベンチに移動し、二人で座って休憩を取る。

エメラダがボールを宙に浮かせられた時間は八分弱。

いいペースで成長している。元々適性がある上、魔法のコントロール力も悪くないが故の結果だろう。


「……お前に言われても嫌味にしか聞こえないです」

「いえいえ。まだ時間はありますから、このペースでなら十分早いですよ」

「時間がある……? レオン、何を目標にしてるです?」


そう言えばエメラダに、何を目標に魔法を教えているのかを言っていなかった。

まぁ、そこまで大したことではないのだが……


「私の中等部への授業もあと三日。最終日に初日に行った実習をもう一度行います」

「アレをまたやるですか……どうせ、私たち全員をボコボコにして――」

「そこで、私に一撃当てて見せてください。それが目標です」

「は?」


初日に行った、中等部の生徒に俺の実力を見せつけ、指導の方針を固めるために行った百対一の実技演習。

生徒たちの成長は目まぐるしく、恐らく初日とは少し違う結果になるであろうと予想できる。

勿論、エメラダも例外ではない。


「勿論、先日と同様に手加減なんてしません。全力でお相手いたします」

「……レオン。私が本当に、お前に一撃当てられると思ってますか?」

「ええ、勿論です。私の(せんせい)がよく言ってました。『弟子は師匠を超えてこそだ』、と」


俺本人がそれを達成できたかと言われると怪しいが、(せんせい)に認めてもらったのは確かだ。


「……分かったです。その方法を本人であるお前から教わるのは不服ですけど、やってやるです。休憩は終わりです」


エメラダは両手をパンパン、と払い立ち上がる。

英気は十分に回復したようだ。


「では、次の段階ですが――」

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