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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第二章 セントリア魔法貴族院
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レオンは鬼畜?

「……つ、疲れたです」

「お疲れ様です、エメラダ様」


学院での練習を終え、屋敷に戻ってきた俺とエメラダ。

彼女はぐったりしながらメイド達の出迎えを受けていた。


「エメラダ様、荷物をお持ちしますね」

「ん……ありがとう、です。エマ」


鞄をエマに預け、解放された、と言う風に伸びをするエメラダ。


「随分お疲れのご様子ですね、そんなにレオンさんの指導はきち……厳しいのですか?」

「ええ。今日から学び始めた人間に教える教え方じゃないです。鬼畜です」

「あぁっ! 可哀想なエメラダお嬢様っ! 一体、どんな指導を……」

「誰が鬼畜ですか、全く……」


あの程度の指導で鬼畜と言われる筋合いはない。

本当の鬼畜的指導と言うものを受けたことのある俺が言うのだから間違いない。


これ以上この話題を続けると不利になる気がしたので、別の話題を振ることにしよう。


「今日一日で五分も浮かせられるようになられましたね。お見事です」

「世辞は結構、です。まだレオンの納得するレベルには達していないです」

「本心ですよ。この調子なら、そう遠くないうちに実用段階まで登れますよ」

「むぅ……」


褒められたことを自覚したのか、少し顔を赤くして俯くエメラダ。

……意外と、純粋に褒められることに慣れていないらしい。


「(あぁ……照れたエメラダ様もカワイイ)」

「そこ、邪な目でエメラダ様を見ない」

「いたっ!」


軽くエマを注意しておく。

このメイド、興奮すると何をやらかすか分かったものではない。


エマがあの性格の悪いエメラダの侍女を務められるのは被虐気質(マゾヒスト)だからではないか、と言うのがここ最近の見解だ。


「……ちなみに、お前はあのボール、どのくらい浮かせられるんです?」

「丸三日から先は数えたことがありません」

「ふざけてやがる、です」


魔法がもはや生活の一部になっている俺はボールを浮かし続ける程度なら意識せずとも魔力の続く限り浮かし続けられるような気がする。


と、そんな雑談を交わしながら、俺たちは玄関ホールから階段に出た。

今日はここまでだろう。


「今日はもう疲れたです。それじゃ、また明日です」

「ええ、また明日。」


エメラダと別れ、俺は執事業へと戻る。

先日の襲撃の影響も少なくない。疲れてはいるが、休まず働こう。


「さて、それでは食事の準備の手伝いを……」


と、この後の仕事について思いふけりながら廊下を歩いていると、


「レオンなのー!」

「ゲフッ」


天真爛漫をその全身で表したかのような幼女の高速タックルをノーガードで受けるハメになった。


何とか倒れずに踏みとどまったが、体力を大分持っていかれた気がする。

まさか俺の感知よりも先に攻撃をキメてくるとは……予想だにしなかった。


俺の感知はそもそも敵意に対する感知なので、善意百パーセントの攻撃には反応できなくても仕方ない、と言い訳したい。


「あ、アン様、ご機嫌麗しゅう……」

「元気なの!」


受け止めたアンはそれはそれは元気な様子で俺に笑顔を向けてくる。

……こんなアンに対して、タックルは辞めてくれとは言えない。

後で対策を考えることにする。


「ど、どうされたので?」

「アン様がレオンさんと遊びたいそうで~」


離れたところからのんびりとカティアがやってくる。

もはや見慣れた光景、と言わんばかりに俺への心配はない。


本来なら、家の業務を手伝うべきなのだが、主人たっての願いとあれば聞かないわけにもいかない。


「疲れているところ申し訳ないのですが~、アン様も最近レオンさんと遊べていないのが不満なようでして~」


確かに最近学院への付き添いでアンと遊べていない気がする。

学院組ばかりに気を取られていたが、執事として主人全員の要望に応えなければいけないだろう。


「それでは夕食までの時間、少し遊びましょうか」

「なの!」


そうして俺とアンとカティアの三人で鬼ごっこをして遊ぶことになった。



……のだが。



「あははは! 待つの!」


土属性の身体強化を全力で使って追いかけてくるアンと、


「逃がしませんよ~!」


同じく、土属性の身体強化でアンの動きをフォローするかのように俺を追い詰めてくるカティアと、


「捕まって……たまるか……!」


五歳児との追いかけっこで捕まりたくない、と言うかあの全力タックルを日に二度も食らいたくないので全力で逃げる俺の声が中庭に響いた。


それはもはや遊びのレベルを超えていた、と個人的に思わざるを得なかった。

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