エメラダの答え
翌日。放課後の修練場。
昨日はエメラダとローゼンクイーンの事について考えていたせいでよく眠れなかった。
持つ力を制御出来ない者と、制御するだけの力すら持たない者。
相反する二人をどのように導くか。いくら考えても足りない問題だ。
気を取り直して、今は目の前のエメラダに向き合うことにしよう。
「エメラダ様。答えは出ましたか?」
「……昨日から一日、考えたですよ。レオンの言ったことについて」
「ええ。それで?」
「正直、よく分かんないです。私がどうするべきか、なんて」
……中々的を射ている答えだ。
自分が何をするべきか。信念、目標、欲求。行動原理は人それぞれだ。
不知の物を知る機会を得て、いきなりその行動原理を決めろ、と言うのは難しい話だ。
「……でも、昨日レオンと話したおかげで思い出したんです。私が、どうしてこの学校に来たのかを。大嫌いな貴族に囲まれて、大嫌いな魔法を学ぶ意味を」
昨日の話を思い出す。
あの話おかげで、エメラダがよく他人に向ける敵意のある眼の正体がよく分かった。
あれは――貴族と言う立場に対する眼だったのだろう。
嫌悪や憎悪、そして侮蔑。あれだけの事をされたのだ。友好的な感情なんて、持てるはずがない。
「私は、守れなかったんです。大好きだった家族を。自分の居場所を。そして、自分自身を」
彼女は家族を失い、暖かな居場所を失った。
そして貴族になり、農家に生まれた平民の彼女はいなくなり、『エメラダ・フォン・リヒテンベルク』という一人の貴族になった。
……つまり、彼女は彼女自身すら失った、ということだ。
「今の居場所だって、私が望んで手に入れたものじゃないです。成り行きです」
エメラダは続けてそう言う。
彼女はすべてを失い、そして手に入れたものは何もないと。
……普通の人間なら、そこで絶望しても、全てを諦めてしまう可能性すらあった。
だが、彼女の眼はまだ何も諦めていない。
「だから、今度は私の手で、私の居場所を手に入れて、それを守るです。それが、私の目標です」
エメラダは、過去を振り切るようにタクトを掲げ、俺にそう宣誓する。
今まで見た中で、一番いい眼をしている。
「良い目標です」
「その目標を達成するためなら、何でも利用してやるです」
黒い表情を俺に見せるエメラダ。
その表情は、エメラダの心からの表情な気がした。
「じゃあ、レオン」
「はい、何なりと」
改めてエメラダに向き合う。
その後に続けるであろう彼女が出した答えは、聞くまでもなく予測できた。
「――空魔法を、私に教えてください」
「ええ、勿論」
エメラダと握手を交わす。
『エメラダ・フォン・リヒテンベルク』と言う人間がここから始まるのだ。
ようやくここまで来れました。
次回からエメラダの魔法訓練が始まります。
そして、もう一人も……?




