その意志は誰のものか
エメラダが話し終わるころには、淹れた紅茶もすっかり冷めてしまった。
力なき平民。貴族に見捨てられ、家族を失い、貴族に飼い潰され、結果、貴族になった少女の物語。
淡々と、感情なく話される物語を、俺はただ聞き続けた。
「私の話はこれで終わりです。どうでしたか?」
「……一つほど、よろしいですか?」
「ええ、許すです」
聞きたいことは山ほどあった。
山ほどあったが……俺が聞くべき事は一つでいい。
「何故、その話を私に?」
「……そうですね。何故、と聞かれたら……」
俺はエメラダに、理由を聞きたかった。
その話を俺にする理由が、分からないからだ。
彼女が元平民で、俺が貴族ではないからだろうか。
それとも、俺の事を自分の過去を話していいと判断できるまで信頼してくれたのだろうか。
……正直、なんとなくという答えでもよかった。
エメラダの考えを知れれば、それでいい。
そう、思っていた。
「君が、私に似てると感じたからだよ」
「ッ!」
が、その瞬間に、俺の考えは瓦解した。
全身に悪寒が走る。
袖のナイフに魔力を交わし、戦闘態勢を取る。
これはマズい。
「……紅茶とホットドッグ、美味しかったです。おやすみなさい、レオン」
「え、えぇ。おやすみなさいませ、エメラダ様」
先ほどまでの圧はどこへやら。
次の瞬間には、いつものエメラダに戻っていた。
エメラダは俺に挨拶すると厨房から出て行った。
「……今のは、誰だ」
……その答えを得られるのは、当分先の事になりそうだ。
*
「……あれ、どうして私は、レオンにあんな話をしたんでしたっけ」
寝る準備を済ませ、自室に戻った私は不思議に思っていた。
寝る前に少し、何か食べようと考え厨房に行き、食料を探しているうちにレオンに会ったところまではしっかり覚えている。
そこで食べたホットドッグの味もだ。
……そこでふと、私はレオンになら自分の過去を話してもいいと考えた。
彼なら、自分の味わった苦しみを、共感してくれると思った。
……本当に? 私は、自分の意志で?
「まぁ、いいです。今日はなんだか疲れたですね……」
でも、心は軽くなったのは確かだ。
明日からは、レオンに魔法を……
横になり、目を閉じると、暗闇が訪れる。
疲労感からくる眠気が、エメラダを夢へと誘う。
夢と現実の狭間。
この世ならざる何かが現れるとしたら、恐らくこの時なのだろう。
「早くエメラダを成長させてね、■■■さん」
眠りについたエメラダの口から発せられたその声を聞き届ける人は、誰もいなかった。
前回の話はたくさんの人に読んでいただけたようで、嬉しいです!
これからもお付き合いのほどをよろしくお願いします!




