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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第二章 セントリア魔法貴族院
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魔法の詠唱


「それでは改めて、講義を始めましょうか」

「「「よろしくお願いします」」」


ところ同じく修練場にて。俺は休憩している生徒たちの前に立つ形で講義を再開した。

見渡すと、生徒たちが俺を見る目が変わったように思える。


「まずは……そうですね。まずは基礎のおさらいから」


自分の中の基礎と生徒たちが教わってきた基礎が同じとは限らない。

まずは擦り合わせるところから始めよう。


「皆さんもご存じの通り、基本的な魔法は三節使って詠唱されます」


袖の短剣に魔力を込め、魔法を行使する。


「『風よ、矢となり、その力を示せ』」


俺が魔法を唱えると、集約された風が用意されていた的に突き刺さった。

その的が今の魔法のデータを表示する。

威力は……1000弱か。この魔法であれば、その程度だろう。


「『風よ』、この部分は属性部。魔法の属性を示します」


まずは属性部を詠唱する。俺の眼前に渦巻く風が現れる。


「『矢となり』、ここは魔法の性質や状態を変化させる効果があります」


その風が若干形を変え、一本の矢のような楕円形の形に変化する。


「『その力を示せ』、ここで魔法がどう作用するのかを決めます」


そう唱えると、矢は再び勢いよく的に突き刺さった。

今の一連の動作を見てなるほど、と納得した生徒も見受けられた。


「今回、私が特に講義する部分は最後の一節です。『その力を示せ』、とは確かに汎用性の高い詠唱ではありますが、その詠唱だけ覚えるのではあまり意味がありません」

「先生、具体的にその詠唱では何がいけないのでしょう?」


と、そこで生徒から質問が入った。非常に良い質問だ。


「分かりました。少し、例を見せましょう」


改めて的に向き直り、ナイフを構える。


「『風よ』」


まずはこの詠唱だけで現れた風の塊を的に当てる。

特に詠唱破棄して唱えた魔法、と言うわけでもなく、ただの属性を伴った魔力の塊である。

威力は50程度。


「『風よ、矢となれ』」


次に魔法へ形を与えてやり、先ほどと同様に的に当てる。

形こそ成っているものの、勢いがまるでない。

その威力は250程度。


「『風よ、矢となり、その力を示せ』」


そして、最後までちゃんと詠唱した風の矢魔法を放つ。

先ほどと同じように矢の形となった魔法が、これまで以上の威力を伴って、的に突き刺さった。

威力は1500。少し集中した分、威力も増したようだ。


生徒たちはこの結果にも驚いているようだが、これはまだ前座に過ぎない。

本当に見せるべきはこの後の魔法だ。


「『疾風よ、高速の矢となり、あの的を射貫け』」


右手を掲げ、先ほどの魔法よりも薄く、細い風魔法を生成し、放つ。

その矢は常人の目では追えないほど速く、鋭い。

ドスっ、と的に刺さる音が響き、的が今の魔法のデータを表示する。

その音で、初めて魔法が放たれたことに気づいた生徒も少なくなかったようだ。


「『烈風よ、無数の矢となり、あの的に降り注げ』」


次に、矢魔法を上空に大量展開して、複数ある的全てを対象にした魔法を放つ。

以前、屋敷でソフィアが使っていた魔法の風版だな。

風の矢が降り注ぎ、全ての的に命中する。

が、何本かは的を外れて近くの地面を軽く抉っていた。


それでも生徒たちには刺激だったようで、それぞれが色めきだった声を上げている。

じゃあ最後の締めと行こう。


「『暴風よ、巨大な矢となり――』」


両手ナイフに魔力を込め、一本の荒れ狂う風の矢を生成する。

そして両手を前に突き出し、的をしっかりと狙う。

こればかりは、外すと少々マズいことになる。


「『――あの的を撃ちぬけ』!」


その詠唱と共に、轟音を響かせながら矢――もはや槍のような大きさだが――が射出される。

ドゴォッ!


「……やりすぎ、です」


小規模な爆発音が響き渡る。

的は半壊。辛うじて動いているスフィアが表示したデータによれば……9000近い威力が出ていたようだ。


「と、まぁ詠唱によって効果が変わることは分かっていただけたと思います……皆さん?」


その光景をみた生徒たちは、もはや声すら上げられずに呆然としていた。

魔法測定用の的が壊れる、などとは夢にも思わなかったのだろう。正直、俺も壊れるとは思っていなかった。


……あとで学長に呼び出されたりしないだろうな。

今回も説明回です、テンポが悪くて申し訳ない。

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