エメラダの気持ち
教室内がザワザワしている。
通常、座学を踏んでから実技と言う流れを取るのが一般的だと生徒も知っているからだろう。
それを会ったばかりの教師がいきなり実習をする、と言えばどよめくのも当然だ。
「オイオイ、いきなりなんだよセンセー、アンタの授業に付き合う気は……」
「ジスト君、あなたの意見は聞いていませんよ。返事は?」
「チッ! なんだと!」
ジストが椅子を蹴り飛ばしながら立ち上がる。
手にはタクトを持っている。
室内で魔法を打つつもりだろうか。
「じ、ジスト。それは流石にマズいんじゃ……?」
「うるせぇっ!」
取り巻きがジストを諫めようとしているが、頭に血が上っているジストは聞く耳持たずだ。
俺は袖に手を当て、少しだけ敵意を乗せた魔力を開放し、威圧する。
「返事は?」
薄い魔力の波が講堂内に広がる。
「ッ! わ、わかったよ!」
気絶とまではいかないが、血の気は引いたようだ。
……ほかの学生も少し青い顔をしているような気もするが。
ジストが取り巻きを連れて講堂を出ていく。
それを見たからか、他の生徒は特に何も言わず講堂を出て行った。
*
「エメラダ様」
講堂から最後に出ていこうとしたエメラダに声をかける。
俺に向ける顔は先ほどまでの弱々しい顔ではなく、いつも通りの若干不機嫌そうな顔だった。
「……なんですか、こんなところにまで来て、臨時講師なんて。お前、執事です」
「それはそうなのですが……」
まさか有事の際にすぐに護衛できるように、とは言えない。
「まぁいい、です。お前、どう思ったですか?」
「そうですね……」
中等部とは言え、ここは貴族院のはずだ。
もう少し気品のある雰囲気があってもいいと思っていたが……。
本質的なところは普通の学校とあまり変わらないのだろう。
そんなことよりも、エメラダの扱いだ。
暴言を吐いていた生徒もそうだが、そのエメラダを庇う素振りを見せた生徒は一人もいなかった。
……貴族は弱者を守るものだろうに。
「よく、頑張りましたね」
「……なんですか、それ」
エメラダの頭を撫でる。
……昔、妹も良く撫でてやったっけな。
「や、やめるです」
顔を赤らめて俺の手を払うエメラダ。
主人を妹扱いするのは流石に良くなかったな。
「全く……お前は私の従者なのですか? 教師なのですか? それとも、別の何かですか?」
「勿論、私はエメラダ様の執事であり、教師であり、友人ですよ」
これは本心だ。俺は姉妹全員とそうありたいと願っている。
「っ! じ、自分の立場を弁える、です!」
「まぁ、お前はいいです。少しは信用してるです。平民ですし、あんな貴族どもとは違うです」
「…………」
少し、心が痛い。
「貴族なんて、どうせ皆あんなものです」
エメラダのその目から……悲哀? 諦念? 悔恨?
色々な感情が彼女にはあるのだと、そう感じ取れた。
「ほら、早く修練場に行くですよ」
そう言って講堂を出るエメラダの後に続いて、修練場へと向かった。
少し短いですが、テンポ重視で




