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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第二章 セントリア魔法貴族院
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セントリア魔法貴族院 中等部


『それでは講義を始める』

『『『よろしくお願い致します。先生』』』

ここはセントリア魔法貴族院中等部内にある大講堂前。

中で中等部の生徒たちが講義を受けている。

今日はここで講義を行う予定だ。


「とは言っても、受け入れてもらえるだろうか……」


ここで一つ、重要なことがある。

それは、ここが貴族院ということだ。

簡単に説明すると、貴族院で教えられる魔法の大半は貴族的に振るわれる魔法だ。

妙に格式ばった魔法だったり、所作を重視したり、歴史を重んじたり。

それが悪いことだとは思わないが、その魔法は実用性が非常に低い。

言わば儀式的な魔法である、ということだ。


対して俺が習得してきた魔法の多くは実践的な魔法だ。

型に捕らわれない、これまで研究されてきた最先端と言ってもいい魔法であったり、そもそもこの国にはない魔法を使ったりもする。

どれも費用対効果が高く、優秀な魔法だ。


だが、それ故に貴族からは嫌われている。

魔法とは歴史あるものだ。故に、礼儀を持って振るうべきである、などという頭の固い貴族も多い。


まぁ、ソフィアなんかは例外中の例外だろう。

魔法の同時制御、触媒なしでの魔法行使、実践的な魔法の数々。

それらを何のためらいもなく行使する貴族なんてほとんどいない……


いや、そう考えると彼女は一体どこで、誰に教わったのだろうか。

彼女に関する謎が一つ増えた。


『――と言うわけで今日はクリストフ学院長が直々に指名なさった特別講師をお招きしている。それでは、入っていただこう』


などと関係のない思慮を巡らせていたら、俺が入る段取りのところまで来ていたようだ。


「失礼します」


扉を開けて講堂内に入る。

中には百人に満たない程度の多くの学生がいた。

少し見渡すと右奥の後方に見慣れた深緑の髪をした気の強そうな女子生徒が――


「……うん?」


そこにいたのはとても気の弱そうな女子生徒だった。

俺に気づくと彼女は驚いたような、怯えるような表情を浮かべ、教科書に顔を埋めてしまった。

……別人か? いや、そんなはずは……


「どうされましたか?」


と、少し呆けていると若い男性の先生が心配そうに声をかけてきた。


「いえ、何でもありません」


エメラダの事は後にして、今は目先のことに集中する。


「レオン先生はセンテルム魔法大学校で主席になられたこともある魔法使いです。しっかりと講義に取り組むように」


授業の段取りや内容は俺に任せる、という通達を受けているのだろう。

引継ぎや注意事項などは無く、それだけ言うと教室から出ていった。


さて、いきなり授業と言うのも生徒が混乱するだろうし、まずは自己紹介から。


「ではまず最初に簡単に自己紹介をさせていただきます」


黒板に名前を書く。

チョークを使うのも久しぶりだ。


「本日から三日ほどこちらで講義を行わせていただくレオンと申します。皆さん、よろしくお願いします」


顔を下げて軽く一礼する。

チラホラと生徒たちから拍手が聞こえた。


「紹介にも合った通り、以前はセンテルム魔法大学校に所属していました。教鞭をとったことは過去に後輩たちに数回と……一ヶ月ほど、とある学校で臨時講師をした程度の若輩者です」


アレを臨時講師と呼ぶのは無理がある気がするが……経歴が全くない人間から教わるのも不安だろう。

ひとまずそういうことにしておく。


「趣味は魔法の研究と……あと料理ですね。特技は汚い部屋を五分で片付けることです」


まぁこんなところだろう。

当たり障りの無い自己紹介をすませ、生徒たちに向き直る。


「最後に、なにか私に質問のある生徒はいますか?」

「センセーは貴族なんですか?」


と、生徒達に問いかけると、先ほどから頬杖をつきながら俺の自己紹介を聞いていた男子生徒がぶっきらぼうに聞いてきた。

難しい質問だな……


「うーん……まぁ高貴な血は流れていませんよ」

「貴族じゃねーのに俺たちに魔法を教える、なんておかしな話じゃないですかセンセー」


が、その答えを聞いた生徒は半笑いで俺にそう言った。

言いたいことはよくわかる、がその態度からは俺のことを下に見ている事がひしひしと伝わってきた。

お世辞にも貴族院で勉学を教わっている生徒には見えない。


「そもそもセンテ何とかって学校で主席っつったってこの学校よりもレベルが低いんだろ? だったらこの授業、ムダじゃね?」


クスクス、と笑う男子生徒。

その周囲に座っている取り巻きのような男子生徒も同じように笑っていた。


「ちょ、ちょっとジスト君! レオン先生に失礼ですわよ!」


流石に見かねたのか、女生徒が男子生徒――ジスト、というらしい――を注意した。

真面目な生徒もいるようだ。良かった。

だが、その注意もジストには意味がなかったようだ。


「いいだろ、庶民なんだから。それにそのカッコ、センセーはどっかの執事でもやってんの?」

「ええ、普段はリヒテンベルク家で執事として働いていますよ」

「リヒテンベルク……」


仕方ないので仕えている家名を出す。

この国の貴族なら、リヒテンベルク家は知らない者のいない高名な家だ。

流石に態度を改めると思うのだが……


「「「ギャハハハ!」」」


が、ジストと取り巻き一同は大笑いし始めた。

どういうことだ?


「あの弱虫ミドリのところで働いてるのかよ!」

「おいおい、正気かよ!」

「あんな弱虫に仕えてるってことは、アンタも対したことないんだろうな!」


察するに、弱虫ミドリと言うのはエメラダの事だろう。

もしかしてエメラダは、あの連中にイジめのような扱いを受けていのだろうか?

そう考えると、このクラスに入ってきたときの反応にも納得がいく。


が、そんな話はエメラダから聞いたことがない。

以前、軽く学校の話を聞いたことがあったが、その時には『楽しいですよ』と言っていたはずだ。


つまり、エメラダは一人でこのことを抱え込んで、気丈に振舞っていたわけか。

……血は繋がっていないはずなのに、あの燃えるように紅い髪の姉によく似ているな。


「なるほど。よく分かりました」


頷いて、クラスを改めて見渡した。

俺を舐めてみている者が三割、不信の者が二割、残りの者はまだ判断を決めあぐねている、と言ったところか。


「一時限目は実習にしましょう。全員、修練場に来なさい」

五十話目です!

ちょっと嬉しい。

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