閑話 ローゼンクイーンの決意
夜遅く。
レオンがマグダと情報交換している丁度その頃、ローゼンクイーンが一人屋敷の中庭で魔法の練習に勤しんでいた。
「『炎よ、矢となり、その力を示せ』!」
ローゼンクイーンが構えるタクトの前に赤白い炎が現れる。
そのままタクトを眼前の的に向けて振りかざすが、
「っ!」
発射される事なくその場で四散してしまった。
「……また、失敗ね」
タクトを握る手の力が強ばる。
彼女は先日のローゼンクイーン誘拐未遂で自分の非力さを痛感していた。
大切なマグダを守ることもできず、属に対しても虚勢を張ることしかできなかった。
そんな彼女を助けてくれたのは、リヒテンベルク家に来てから日の浅いレオンというただの執事だった。
「そんなに歳も違わないはずなのに、どうしてあれ程の差があるのかしら……」
ローゼンクイーンは考える。
レオンの操る魔法は多彩だ。三属性の魔法を操れれば超一流、とされるこの世の中で五属性全ての魔法を高水準で操る魔法使いなどそうはいない。
ローゼンクイーンには彼がどうやって数多くの賊を撃退するだけの魔法を会得したのか、それだけの魔法を持ちながらどうしてこの屋敷で執事などをしているのかは分からない。
だが、これはチャンスなのだと。自分が変わる切っ掛けになるだろうと言う予感はあった。
「『炎よ、矢となり、その力を示せ』」
再びタクトをかざし、魔法を行使する。
だが、今度は赤白い炎が一瞬現れただけで、一瞬で消えてしまった。
「……そうよね。今の私は、簡単な魔法も扱えない非力な人間よ」
タクトを腰のホルスターに収め、天を見上げる。
その日の夜空は、星がほとんど見えない漆黒の夜空だった。
「見て見ぬふりはやめるわ。二度と、あんな思いはしたくないもの」
ローゼンクイーンは夜空に一つだけ浮かぶ月に向かって決意した。
言葉だけじゃない。真の強さを手に入れるために。
彼女の決意は、奇しくもレオンの誓いと同じ時間だった。




