ローゼンクイーンの秘密 1/2
コンコンコン
「どうぞ、開いてるよ」
「失礼します」
貴族院からお嬢様方と一緒に帰り、一日の業務を終えたその日の夜。俺はマグダの部屋を訪れた。
昼間、貴族院で見たものの裏付けをするためだ。
扉を開けると、ベッドに腰かけて今日一日の日報を読んでいるマグダの姿があった。
「なんだ、アンタかい。怪我で早く休もうと思ってる老骨を労わろうという気持ちは無いのかい?」
「いえ、そう言う訳では……」
ローゼンクイーンの悪態癖はこの人から来ているのではないだろうか……?
「まぁいいさ、アンタには貸しもあるからね。何の用事だい?」
「ローゼンクイーン様のことなのですが」
「お嬢様の? 学院で何かあったかい?」
正直、これを聞くことで俺の身が怪しくなるかもしれないが、見て見ぬふりは出来ないので覚悟を決めて質問する。
「……ローゼンクイーン様の、出自はどちらでしょう?」
「……ハァ」
質問をすると、マグダは深くため息をついた。
その反応だけで複雑な事情を抱えていることが見て取れた。
「アンタがどこで何を見聞きしたのかは知らないけど、それは必要なことかい?」
「ええ。この国を揺るがしかねないほどには」
「……そうかい」
そういうと意を決したようにこちらに向き直った。
「そもそも、「この家の姉妹に血の繋がりはない」ってことは知ってるかい」
「……なんとなくは」
やはりそうか。
この家の姉妹は魔法の系統、性格、髪の色から何までバラバラだ。
血のつながりがないのであれば納得がいく。
「この屋敷の主――アレキサンダー様は変わり者でね」
要約すると、全国各地で厄介払いされて行き場のなくなった娘を養女にして居場所を与えているらしい、とのことだった。
「あぁ、四女のメアリライト様だけは実の娘だよ。勘違いしないどくれよ」
「メアリライト様……まだお会いしたことがないのですけど」
「随分と変わった娘でね。アンタとは気が合いそうな気もするけど……まぁ、それはまた別の話さね」
俺と気が合う……どんな方なんだろうか。
「レオン、アンタは今の王族の構成を知ってるかい?」
「ええ。国王ヴィルフリート様と正妻ルイーゼ様、側室のドロテア様。第一王子のフリードリヒ様。第二王子のヨーゼフ様。第三王子のアルベルト様。そして第一公女のヴァルデマール様と第二公女のゾフィー様……」
王族の構成については一度しっかり調べたことがあるから自信がある。
「勤勉なことさね。じゃあどうして私がこの話を振ったか、分かるかい?」
問いかけるようにマグダが俺の目を見据える。
これまでの話の内容を顧みると、答えは一つしかない。
「まさか、ローゼンクイーン様の実の父親は……」
「そのまさかさ。現国王陛下。ヴィルフリート様だよ」
「……つまり、公にされてない王女であると?」
頭の中で俺の仮説が形を成していく。
彼女が王族なら、今日見たものにも辻褄が合う。
「しかも、ルイーゼ様の嫡子でもドロテア様の庶子でもない」
だが、マグダの話はそこで終わらなかった。
「かつてヴィルフリート様に仕えていたメイド、ローゼマリアとの、不義の子なのさ」
マグダはそう、ゆっくりと告げた。
王族の名前がしっかり出てくるのは結構後なので覚えなくても大丈夫です。




