ピクニック
ソフィアに連れて来られたのは貴族院内に併設されている庭園だった。
その一角に設置されているベンチにソフィアは腰かけた。
「どうぞ、おかけになって?」
ソフィアが自分の隣を指す。
「その、一応私はソフィア様に仕える身分なのですが……」
「今ここにいる貴方は私の執事ではなく、この学院の臨時講師なのでしょう?」
ニコニコした笑顔で俺にそう問いかける。
……退路はないようだ。
「では、失礼して」
諦めてソフィアの隣に腰かける。
「そんな顔をしないでくださいレオンさん。今は咎める者は誰もいませんわ」
「そうでしょうか?」
無視しても問題ない範囲ではあるが、周囲に魔力を感じる。
敵意は感じないが……
「もし居たとしても誰にも手出しはさせません」
ふふっと笑みを深めるソフィア。少し怖い。
「それで、どうして私をここへ?」
「それはですね……」
ソフィアは脇に置いていたランチバスケットを開けた。
中には……
「……ハンバーガー、ですか?」
「ええ。ピクニックにはハンバーガーなのでしょう?」
そこは普通サンドイッチじゃないのか……?
「お嫌いでしたか?」
「いえ、好物ですよ」
「それは良かったですわ」
ソフィアからハンバーガーを受け取る。
まだアツアツだ。
「神に祈りを」
「いただきます」
二人で別々の感謝の言葉をささげ、ハンバーガーにかぶりつく。
まだアツアツのバンズ。
かぶりついたところからあふれてくる肉汁。
シャキシャキで新鮮な野菜。
それらを引き立てるソース。
美味い。
「美味しいですね」
「ええ、とても」
そのまま二人で談笑しながらハンバーガーを頬張る。
晴天の下、心地よい風を受けながら庭園で食べるハンバーガーは格別だった。
「ふふっ、レオンさんとこうして二人っきりでハンバーガーを食べたい、とずっと思っていましたのよ?」
「ありがたく思います」
と、そこでソフィアの頬にソースが付いていることに気づいた。
「ソフィア様、失礼します」
ハンカチを取り出し、ソフィアの頬に付いたソースを拭う。
「ん……」
「取れましたよ」
そこでふと、頭に過去の記憶がよぎった。
昔……どこかで、そう、草原で。ハンバーガーを、誰かと……?
……ダメだ。昔のことを思い出そうとするといつもノイズが入る。
今度フィーネにでも聞いてみるか。
「…………まだ、気づきませんか」
ソフィアが小声でボソボソと呟く。
「どうなさいました?」
「……なんでもありませんわ」
少しムっとした顔を見せるソフィア。
先ほどまで上機嫌だったのだが、どうやら不機嫌にさせてしまったようだ。
さっきの行動は流石に迂闊だったか。
「申し訳ございません。出過ぎた真似を……」
「いえ、その、先ほど行為は嫌ではありませんでしたよ」
「ではどうして……?」
「……内緒、ですわ」
女性は、やはり難しい。




