エンカウント 青の小悪魔
それから初等部、中等部、高等部を軽く見て回ったが、不審な人影は見当たらなかった。
「次はどちらに行かれますか?」
「そうですね、次は――」
と、次の行先を言いかけたところで目の前のカフェから俺に笑顔で手を振る少女がいた。
遠目から見ても分かる端麗な容姿。それが笑顔を振りまいていたら、否が応でも目立つ。
「お知り合いで?」
「ええ、その、主人の一人です」
それはどうみてもソフィアだった。
俺がここに来ていることはまだお嬢様方には伝えていないはずだ。
「そう言えば彼女もリヒテンベルク家の人間でしたか。呼ばれているようですし、行かれてはいかがですか?」
「そうさせて貰います」
「それでは、また」
そう言って一礼するとケヴィンは去っていった。
「……何を言われるやら」
*
カフェに入るとそのまま給仕にソフィアと同じ席に案内され、紅茶と簡単なお菓子を頼んでから座った。
「こんなところで会うなんて奇遇ね?」
「ええ、全くです」
奇遇、と言うのも怪しいものだ。
学内に複数あるカフェの中で高等部に一番近いところではなくそれぞれの学部の丁度中央に位置するカフェで待っていたのも作為的なものを感じる。
「そんな疑うような顔をしないでレオン。実は、『若くてカッコいい黒髪のお客様が学内を回っている』って噂を聞いて、ちょっと見てみたくなったの」
いつの間にそんな噂が……。
閉鎖的な学校という空間に見知らぬ人物が歩いていたら目立つのも仕方ない……のか?
「主人を疑うような真似はしませんよ。ただ……」
「ただ?」
「……ソフィアお嬢様、講義は?」
昼時を過ぎたこの時間、多くの生徒講義中のはずだ。
そんな時間にソフィアがここにいる、と言うことは……
「ふふっ、今日の講義は体調が優れなかったので休ませていただきましたの♪」
なるほど、確信犯か。
「お待たせしました。紅茶とクッキーです」
と、そこで給仕が頼んだものを運んできた。
「ありがとうございます」
「それと、ソフィア様が頼まれたものはお帰りになられる際にお渡しすればよろしいでしょうか?」
「ええ。それでお願いするわ」
ソフィアは他にもテイクアウトで何かを頼んだようだ。
お互いに紅茶を口につける。
うん。美味しい。
「さて。それじゃ聞かせてもらおうかしら」
「何を、でしょう?」
一応分からないフリをする。
「言わなくても分かるでしょう? どうしてここにレオンがいるのかしら?」
まぁ、そうだろう。最もな質問ではある。
「隠していたわけではないです。ただまぁ、ちょっとした仕事でして」
「へぇ、そう。どんな?」
「具体的に言えば、お嬢様方の警護。それと、まぁ下見です」
「下見?」
はぐらかそうとしたが、そうもいかないようだ。
「実は今度、こちらの学校で講義を行うことになりまして――」
ソフィアに今回の成り行きを簡単に話すことにした。
目ざといソフィアのことだ。言わなくても自分で事情を調べてしまうだろう。
それならいっそ話してしまった方が良いように思えた。
「まぁ! それでは学院でもレオンの講義を受けられるのね!」
「ええ。ですが、貴族院で私の講義が受け入れられるかは微妙なところですが……」
貴族院で教えている魔法は型にはまった格式を重視した魔法が主だ。
対して、俺が主としているのは従来の理屈を鼻で笑うような最先端の魔法。
正直、受け入れてもらうのは厳しいと思う。
「大丈夫よ! レオンの講義を理解できないような愚鈍な……いえ、頭の固い生徒は極一部ですもの」
「そうだと良いのですけど……」
一瞬ソフィアの別の顔が見えたような気がするが、気のせいだろう。
それから他愛ない話をした後、昼八つを告げる鐘が鳴り響いた。
「あら、もうこんな時間ですか。ところでレオン、もう昼食は取りまして?」
「いえ、まだ取っていませんが」
「なら丁度良かった。ちょっとこの後、付き合ってくださる?」
……こんな流れを前にも見たような
お待たせしました。
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