実技演習
『講義をして貰えるなら一応臨時講師って名目が利くようになるからねぇ。今日のところはひとまず僕の客人ってことで通しておくから、よろしく頼むよ』
とのことで、来賓用の腕章を付けて学内を回る。
センテルム魔法大学校の更に1.5倍ほどの規模を誇るセントリア魔法貴族院。
学内には初等部、中等部、高等部、大学部が併設されており、国内でも有数の教育機関となっている。
エメラダは中等部、ソフィアは高等部、ローゼンクイーンは大学部に所属しているはずだ。
『――では、これより演習を開始する! 準備はいいか!』
『『『ハイ! 教官!』』』
向こうの修練場と思しき場所から声が聞こえる。
「あちらを見学しても?」
「ええ。学長からは自由に回ってよいと申し付けられていますので」
この厳つい顔をした男はケヴィン教官。
俺が学内を回るにあたって学長が付けてくれた案内役だ。
「貴族院なのに随分と体育会系な授業なんですね」
「貴族といえどこの学校にいる間は平等な生徒。であれば上下関係はハッキリさせておくべきだ、と言う考えの元です」
「なるほど」
一部の貴族が親の威光を振りかざして増長すると言うのは若い貴族によくある話だ。
将来的に見ても当主になるにしろ騎士になるにしろ役に立つはずだ。
「今日の演習は、魔法の命中精度を高める演習だったはずです」
演習場内では20~30メートル先の的に対して魔法を打つ生徒の姿があった。
的は魔法を当てるとその威力、速度、中心からの距離などのデータが瞬時に表示される最新式の物だ。
論文で読んだことはあったが、現物を見るのは初めてだ。
「流石貴族院ですね。設備も最新式だ」
「世の最先端を走る学院ですから」
生徒が次々に魔法を的に当てる。
なるほど。平均の威力は200前後か。
と、そこでローゼンクイーンの番が来た。
「確か、貴方は彼女の従者だとか?」
「ええ。敬愛する主の一人です」
「『炎よ、矢となり、その力を示せ』!」
ローゼンクイーンが放ったのは一番簡単な炎の矢を飛ばす魔法。
通常なら、掲げたタクトから炎の矢が現出して的に突き刺さるはずだが……
「っ!」
ローゼンクイーンが顔を歪める。
その理由は一目瞭然だ。
炎がタクトの前で渦まき、矢の姿に変わることなく打ち出されたからだ。
その威力はおよそ50程度。
「正直なところ、彼女にはあまり才能を感じません。勉学の出来は非常に良いのですが、実技の出来が悪いのです」
隣からそんな声が聞こえてくるが、俺にその言葉は入ってこなかった。
恐らくこの場で彼女の魔法の異常性に気付いているのは自分だけだ。
「…………白い炎? 固有魔法? いや、違う。あの反応は属性が本来の属性と乖離して……」
そうだ。あの現出の仕方。そして魔力の流れ。まるで魔法の指示を根本的に間違えているかのような――
「……どうかされました?」
「ッ! なんでもないです」
そこで思考の渦から現実に帰ってくる。
「先ほどの言動が不適切でしたら、謝罪します」
「い、いえ。別のことを考えていただけですので」
先ほどの言動、とやらが分からないのでそう誤魔化すしかなかった。
その後も多くの生徒が各々の魔法を打っていたが、いまいち見学に身が入らなかった。




