馬車にて~ローゼンクイーン編~
「まぁ、私を選ぶのが当然よね?」
最初に約束していたのはローゼンクイーンだった、と言うことで俺はローゼンクイーンの馬車に同乗した。
先日まで乗っていたローゼンクイーン専用の馬車は先日の事故での修繕が済んでいないため、今日は屋敷の汎用馬車での通学だ。
内装は当然豪華絢爛……と言うわけでもなく、ある程度豪華なものの機能性を重視しているため、落ち着いた雰囲気の内装になっている。
「しかし、宜しかったので?」
「なにがよ」
「明日明後日は、ソフィアお嬢様とエメラダお嬢様に付き添ってもいいとの仰せでしたが」
当然二人が納得するわけもない、と言うことで明日はソフィア、明後日はエメラダの馬車に乗ることになっていた。
もちろん、ローゼンクイーンの許可あっての事だ。
「ソフィアとエメラダだって、一回同乗すれば満足するでしょ。それに……」
「それに?」
「……それじゃあ、貴方を独占しているみたいじゃない」
ローゼンクイーンが小声でそう言う。
本当はバッチリ聞こえているが、ここは聞こえないふりをするのが従者としての務めだろう。
「どうかされましたか?」
「なんでもないわ!」
顔を赤くしてソッポを向いてしまうローゼンクイーン。
このお嬢様、別に人が嫌いなわけでは無く、人付き合いが絶望的に下手なのだというのが最近の見解だ。
「……ところで貴方、中々の魔法の腕を持っているんでしょう?」
「ええ、それなりには」
「あの野盗たちを一人で撃退しておいて『それなり』は嫌味でしかないわよ」
「それは失礼しました」
『中々』と言われたので『それなり』と返したが流石に皮肉が過ぎたようだ。
「あの時、どうやって私の居場所が分かったの?」
あの時、と言うのは昨日ローゼンクイーンが攫われた時だろう。
「説明しないといけませんか?」
「この私が必要としているのよ?」
「……かしこまりました」
あまり良い魔法ではないのだが……仕方ない。
「ローゼンクイーン様を追跡した魔法は、行ってしまえばタダの感知魔法です」
「感知魔法? 基礎の基礎じゃない」
魔法を使える者なら誰でもできる、感知魔法。
魔法と言っても、魔法を使っている気配を感じることが出来る程度のものだ。
「ええ。ですが……」
袖口からナイフを取り出し、ナイフの柄を回して中に入っていた赤い髪の毛をローゼンクイーンに見せる。
「私の髪の毛?」
「そうです。先日、ローゼンクイーン様が攫われた際に部屋に落ちていたものです」
これが無かったら恐らく手遅れになっていた。
「これに魔力を込めて霊脈に接続することで得た魔力痕を沿うようにアンカーを……」
「……わかりやすく説明してもらえる?」
おっと。つい饒舌になってしまった。
「つまり、この髪の毛触媒にしてお嬢様の魔力を辿った形です」
「そんな魔法の使い方、聞いたことも無いのだけど……」
「最近考案された魔法ですので」
これは全くの嘘だ。
そんな個人の位置を安々と特定できるようになる魔法を大衆に広めるのは良くない、と言うことでごく一部の人間だけ知っている魔法だ。
そもそも、この魔法の起源はセントリア王国ではない。
「さて、そろそろ着くころですか。改めて、今日のご予定を」
「露骨に話を逸らしたわね……まぁいいわ。その話はまた後日にしてあげる」
「確か、今日の講義内容は魔法の実技演習と座学がメインだったと記憶しているのですが」
「……ええ」
ローゼンクイーンは苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。
そう言えばローゼンクイーンの魔法を見るのは初めてか。
どんな魔法を使うのだろう。




