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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第二章 セントリア魔法貴族院
38/73

出発

「と、言うわけでレオンさん。お嬢様方の学校に付き添って頂いてよろしいでしょうか?」


ローゼンクイーンの誘拐から一夜明けた。

屋敷はいつも通り……と言うわけにはいかず、少なからず混乱していた。


まずは家令のオスカルと筆頭メイドのマグダ。

治療はしたものの、この二人は先日の襲撃で受けた傷が治り切ってはいない。

休むようには言ったのだが、両者ともに杖をつきながらも業務をこなしている。

大した根性だ。


そしてガスの影響で倒れたメイド多数。

彼女らは体が怠い、眠いなどの症状が少し残る程度にまでは回復していた。

だが、大事を取って休みを取ったメイドもいたようで、普段よりもメイドの数は少ないように見えた。


そして、なによりローゼンクイーン。

ローゼンクイーンは大きな外傷こそなかったが、精神面にダメージを負っているのではないか? と懸念していた。

だがしかし、ローゼンクイーンは、

『学院? 行くわよ。これで私が行かなかったら、あの盗賊どもに負けた気がするじゃない』

と、学院に行く気満々だった。


だが、普段ローゼンクイーンに付き従っているマグダもオスカルもどちらも怪我を負った身。

昨日の今日で振動の大きい馬車に乗るのは流石に酷だと言うのはローゼンクイーンも理解していた。


そこで、矢面に立ったのが俺だ。

昨日の一件で少しは認められたらしく、朝の給仕も俺が最初から最後まで行うことを許された。

『まぁ、少しは貴方を信用してあげるわ。感謝なさい?』

と、完全にいつも通りのペースに戻っていたが、それでも俺の事を信じてくれると言うことは、進歩したのだろう。


つまり、普段マグダやオスカルが行っている「お嬢様方の付き添いのまとめ役」を俺が行うことになった。

朝食の後、緊急の会議がオスカルの部屋で行われ、基本的な業務内容や注意事項を教えてもらった。


「それは承りますが……屋敷の防備は大丈夫なんですか?」


昨日襲撃があった後だ。

流石にないとは思いたいが、気を付けておくことに越したことはない。


「ええ。システムの方は今日中に修理してもらいますし、今日だけは中央騎士団の方が警護に来て下さることになっています」

「なるほど。それなら平気そうですね」


と、口では言うが、よりにもよって中央の連中か……顔見知りではないことを祈るばかりだ。


「……レオン様、オスカル様。お嬢様方の出発の刻限です」

「おや、もう時間ですか。仕方ありません。レオンさん、困ったらこのメイドを御頼り下さい。きっと助けてくれることでしょう」

「……ロジーナと申します。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします。それと、敬語は不必要ですので」

「……変わった人ですね、貴方。それで、今日の予定だけど――」

ロジーナと段取りの確認をしながら階段を降り、玄関ホールへと向かう。

「遅いじゃない。もう出発の時間よ?」

「申し訳ございません、お嬢様」


玄関ホールに出ると、ローゼンクイーン、ソフィア、エメラダの三人が既に準備を終えて俺たちを待っていた。


「全く……貴方と学院へ行かなければいけないなんて、飛んだ迷惑だわ」

「ふふっ、そうは言っても先ほどから身だしなみの心配ばかりしているではありませんかローゼ姉さま?」

「そ、そんなことないわよ」

「……朝から騒々しい、です」


少し顔を赤らめるローゼンクイーン、姉をからかうソフィア、うるさそうに顔をしかめるエメラダ。

ローゼンクイーンの態度が少し柔らかいことを除けばいつも通りの光景だ。


「……なにニヤニヤしているのよ。気持ち悪い」

「おっと、失礼いたしました」


どうやら顔に出てしまっていたようだ。注意注意。

「ローゼ姉様と仲良くなれて嬉しいんですわよね、レオン?」

「それは勿論にございます」

「なっ! ……全く、行くわよ!」


ローゼンクイーンは怒って玄関ホールを出て行ってしまった。

怒ってと言うか、アレは照れ隠しな気もするが。


「それはそうとして、昨日は大活躍だったそうではないですか?」

先に出て行ってしまったローゼンクイーンと同じ馬車へと向かおうとしたところで、ソフィアに引き留められた。


「いえ、主犯格は逃がしてしまいましたし……」


それに、元はと言えば自分のせいでもある。誇れることではない。


「謙遜なさらないでください。レオンがいなければ、ローゼ姉様だけでなく、私たちも危なかったかもしれません」

「そう言って下さると、助かります」

「それで、昨日の話をじっくりゆっくり聞きたいのですが……私の馬車に一緒に乗りませんこと?」


そういうとソフィアは俺の右腕に身体を絡めてきた。

むにゅり。


「……お嬢様、当たってます」

「当ててるんですよ?」


全く、この悪戯好きお嬢様は……

「……聞き捨てならねぇ、です。それならレオンは私の馬車に乗るです。丁度昨日の帰りに買った美味しいお茶菓子があるです」


と、俺がどうにもソフィアを振りほどけないでいると、眉間にしわを寄せたエメラダが話に加わってきた。


「あら、あらあら? エメラダも随分とレオンに懐いたみたいね?」

「そう言うんじゃない、です! レオンはその……そう、丁度いいお茶くみ、です」

「なら、カティアでもよいのではなくて? 彼女もちょうどいい塩梅の紅茶を入れるでしょう?」

「それは、確かにそう、ですけど……」


エメラダはぐぬぬ、と言った表情で俺を睨んでくる。

そこで俺を睨まれても……


「遅い! なにしてるのよ!」


と、そこへ先ほど玄関ホールを出て行ったローゼンクイーンが戻ってきた。

ここはローゼンクイーンに諫めてもらおう。


「申し訳ございませんお嬢様、実は――」

「実はレオンには私の馬車に乗っていただこうと考えておりまして。お姉さまも、先ほど『飛んだ迷惑』、と言っておられましたし、丁度いいですよね?」


更に燃料を投下するソフィア。投下された燃料は、当然ローゼンクイーンと言う火種に着火する。


「なっ、レオン貴方! 主人であるこの私を差し置いてソフィアについていくつもり!?」

「そうは言ってません!」


余計にややこしくなった。

誰か助けてくれ。


「……お嬢様方、そろそろ出ないと、遅刻されるかと」


と、そこへロジーナのフォロー。ありがたい。


「……ですので、早くレオンさんが誰の馬車に一緒に乗るのかを決めて下さい。文句は言わせません」


どうしてそうなる。

だが、俺の意に反してその提案に三人は乗り気のようだった。


「レオン? 当然、この私よね?」

「ふふっ、悪いようにはしないわ?」

「レオン、一緒に行かないですか……?」


三人の目が怖いが、こうなったら、決めるしかない。

俺は――


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