期待
「しっかりしてください!」
急いで意識のない二人に駆け寄る。
服の所々に血痕があり、激しい戦闘があったのだろうと推測できる。
「『大地よ、癒しをもたらせ』」
一先ず外傷の治療が優先だ。
それから――
「レオンさん、ですね」
「! オスカルさん!」
良かった。意識は戻ったようだ。
「……面目ない。ローゼンクイーン様をお守りすることが、出来ませんでした……」
「そんなことは……!」
オスカルは元来戦闘向きの魔法使いではないはずだ。
それでも身を挺してローゼンクイーンを身体を張って守ろうとしたのだから、何も謝るようなことではない。
「いいえ。警備システムの復旧が間に合わず、馬車の不調にも気づけなかった私たちの落ち度です」
「警備システム……それって!」
俺が初日に粉砕した、アレか?
もしそうだとしたら、この惨事は俺の――
「貴方のせいでは、ありません。それに、貴方がするべきことは私たちの治療ではないでしょう……?」
そうオスカルが言う。
俺がするべきこと、それは……
「『いま出来る最善の対応』……」
「野盗は八時の方向に向かいました……頼めますか?」
それは、ローゼンクイーンの救出に向かうと言うことだ。
オスカルは珍しく息を荒くさせ、体力を振り絞っている。
治療を辞めたら、自分が危険なことは分かっているだろうに、それでも主人の事を優先しろと言うのだから恐れ入る。
「……承りました。ですが」
ローゼンクイーンを救出するのはもちろん大事だ。時間は一分一秒でも惜しい。
だが俺は、どうしても目の前の二人を助けないわけにはいかなかった。
「これだけは、許してください」
左手で懐から一枚の紙きれを取り出した。
紙には特殊なインクを用いた魔法陣が書いてある。
魔法陣は使い捨てだし、紙の値段も安くない。
だが、こう言う時間のない時に膨大な魔法を行使する時には都合がいい。
「『大いなる大地よ、この地に根付く人々に祝福をもたらせ』」
この家一帯への治療魔法だ。
本当は一人一人をじっくりと治療するべきなんだが、仕方ない。
ついでに俺の右腕も治療して、再び魔法を行使するべくあるものを拾い、魔力をナイフに込める。
「まったく……甘い奴だね」
「マグダさん!」
「私なんかにかまけてないで、さっさと魔力を編んじまいな」
マグダも目を覚ましたようだ。
少し安心した。
「礼はまだ言わないよ。アンタがすべきことを果たしたらいくらでも言ってやるさ」
マグダらしい一言。
実際、俺は執事として失格なのかもしれない。
「だから、お嬢様を――ローゼンクイーン様を頼むよ」
頼む。
それは少し意外な台詞だった。
少しは俺を認めてくれた、ということだろうか?
「期待には応えます。必ず」
必ず、ローゼンクイーンを救って見せる。
そして俺は、詠唱を開始した。
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