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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第一章 リヒテンベルクの人々
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期待

「しっかりしてください!」


急いで意識のない二人に駆け寄る。

服の所々に血痕があり、激しい戦闘があったのだろうと推測できる。


「『大地よ、癒しをもたらせ』」


一先ず外傷の治療が優先だ。

それから――


「レオンさん、ですね」

「! オスカルさん!」


良かった。意識は戻ったようだ。


「……面目ない。ローゼンクイーン様をお守りすることが、出来ませんでした……」

「そんなことは……!」


オスカルは元来戦闘向きの魔法使いではないはずだ。

それでも身を挺してローゼンクイーンを身体を張って守ろうとしたのだから、何も謝るようなことではない。


「いいえ。警備システムの復旧が間に合わず、馬車の不調にも気づけなかった私たちの落ち度です」

「警備システム……それって!」


俺が初日に粉砕した、アレか?

もしそうだとしたら、この惨事は俺の――


「貴方のせいでは、ありません。それに、貴方がするべきことは私たちの治療ではないでしょう……?」


そうオスカルが言う。

俺がするべきこと、それは……


「『いま出来る最善の対応』……」

「野盗は八時の方向に向かいました……頼めますか?」


それは、ローゼンクイーンの救出に向かうと言うことだ。

オスカルは珍しく息を荒くさせ、体力を振り絞っている。

治療を辞めたら、自分が危険なことは分かっているだろうに、それでも主人の事を優先しろと言うのだから恐れ入る。


「……承りました。ですが」


ローゼンクイーンを救出するのはもちろん大事だ。時間は一分一秒でも惜しい。

だが俺は、どうしても目の前の二人を助けないわけにはいかなかった。


「これだけは、許してください」


左手で懐から一枚の紙きれを取り出した。

紙には特殊なインクを用いた魔法陣が書いてある。

魔法陣は使い捨てだし、紙の値段も安くない。

だが、こう言う時間のない時に膨大な魔法を行使する時には都合がいい。


「『大いなる大地よ、この地に根付く人々に祝福をもたらせ』」


この家一帯への治療魔法だ。

本当は一人一人をじっくりと治療するべきなんだが、仕方ない。

ついでに俺の右腕も治療して、再び魔法を行使するべくあるもの(・・・・)を拾い、魔力をナイフに込める。


「まったく……甘い奴だね」

「マグダさん!」

「私なんかにかまけてないで、さっさと魔力を編んじまいな」


マグダも目を覚ましたようだ。

少し安心した。


「礼はまだ言わないよ。アンタがすべきことを果たしたらいくらでも言ってやるさ」


マグダらしい一言。

実際、俺は執事として失格なのかもしれない。


「だから、お嬢様を――ローゼンクイーン様を頼むよ」


頼む。

それは少し意外な台詞だった。

少しは俺を認めてくれた、ということだろうか?


「期待には応えます。必ず」


必ず、ローゼンクイーンを救って見せる。

そして俺は、詠唱を開始した。

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