お嬢様方、帰宅
「オスカルさん、こちらは終わりました」
「ありがとうございます。差し支えなければ、こちらもお願いできますか?」
「了解しました」
そろそろ日も沈もうかという午後五時。
俺は執務室でオスカルと一緒に書類を片付けていた。
「いやはや、助かります。これまでは私一人で片付けていたものですから」
「この量を一人で?」
茶会の誘いや食事会の招待と言った無視できないものから、庭木の剪定の勧めや新しいドレスのお知らせと言った無視できるもの。
これに加えて各メイドからの報告書や食材などの発注書。
「ええ。ご主人様は多忙なお方ですので、基本的にこういった仕事は私の仕事なのです」
「それはまた大変ですね……」
そう言えばここに来てからこの館の主人にはまだ会っていない。
……元気にしているだろうか。
「ですが、レオンさんのおかげで今日は早く終わりそうです」
「そう言っていただけると幸いです……この舞踏会の誘いはどうしましょうか」
「お断りしてください。基本的にそう言った招待状は全て断ってしまって構いません」
貴族なのにそれでいいのだろうか? とも思ったが、色々な思惑が交差する社交会に、あのお嬢様方がわざわざ出向く必要もないか。
引き出しから便箋を取り出し、断りの手紙を書き始める。
しかし、勝手に招待してきたのに断りの手紙を送らなかったら送らなかったで難癖をつけられるのだから非常に面倒だ。
*
その後、一刻ほどオスカルと作業を進めたところでコンコン、とドアが叩かれた。
「どうぞ」
「失礼します、オスカル様。レオン様」
入ってきたメイドは……確か初日に会ったことのある人だ。
「どうされましたかロミルダさん」
そのメイドはロミルダ、と言うらしい。覚えておこう。
「お嬢様方が帰宅されましたので、お出迎えをお願いします」
「おや、もうそんな時間でしたか。すぐに伺います。レオンさんもよろしいですか?」
「はい。ひと段落着きましたので」
部屋を出て、少し速足で廊下を歩く。
玄関ホールに着くと、ローゼンクイーン、ソフィア、エメラダが丁度帰ってきたところだった。
「お帰りなさいませ、お嬢様方」
「フン。行くわよマグダ」
「かしこまりました」
ローゼンクイーンはこちらを一瞥すると、鼻を鳴らして去ってしまった。
気難しい人だが、いつかはちゃんと接することが出来るようになるだろうか。
「ふふっ。お出迎え嬉しいわレオン」
そんなローゼンクイーンとは打って変わって、笑顔をこちらに向けてくるソフィア。
「ソフィアお嬢様、お疲れさまでした」
「今日はとても調子が良かったの。これもレオンのおかげね」
「いえいえ、日々の努力の賜物でしょう」
「謙遜しちゃってもう……また今夜、付き合ってくださる?」
「よろこんで。一緒になにかお菓子でもお持ちしましょう」
「嬉しいわ。それでは、また夜に」
優雅に一礼して、機嫌よく玄関ホールを去るソフィア。
さて……何を作ろうか。
「……何をニヤニヤしてるです」
「おっと、エメラダお嬢様。失礼しました」
と、思考に耽っていたらエメラダにジト目でツッコまれてしまった。
「随分とソフィア姉さんに気に入られたですね」
「ソフィアお嬢様は誰にでも優しいですから」
「……誰にでも? 学園でのソフィア姉さんは……」
「?」
「……なんでもない、です」
エメラダが目を背けてそう言う。
学園でのソフィアを知らないが、どんな感じなのだろうか。
「……それよりも、お菓子をどうするですか? 何か買ったです?」
「いえ、特には。なので簡単に作ろうかと」
「お前、お菓子作れるですか?」
普段の少し気だるそうな目とは打って変わって少し目を輝かせているエメラダ。
「ええ。嗜む程度ですが」
寮生活時代、フィーネが事あるごとにお菓子を要求してきたから、数だけは作ってきたつもりだ。
「私も一緒に行くです」
「え?」
「ほら、急ぐですよ」
かなりの速足で玄関ホールを出ていくエメラダ。
一緒に……って、キッチンにか?




