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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第一章 リヒテンベルクの人々
23/73

最初の一歩

「それでは、始めていきましょう」


残りの半周もアンとの空中散歩を十分に楽しみ、中庭に降り立って本命の講義を開始することにした。


「よろしくお願いするの!」

「よろしくお願いします~」


アンの元気な返事と一緒に、カティアの気の抜けた返事も帰ってきた。


「……なぜカティアさんも?」

「これほどの魔法使いに直接教わる機会なんてそうそう無いですから~」


現金なメイドだ。しかし、アンと同系列の魔法を使えるのだから手本には丁度いいか。


「お二方がどこまで魔法の事をを知っているのか分からないので、簡単なおさらいから」


袖口からいつものナイフを取り出す。


「そもそも、魔法は大別して三種類あります。まず一つ目は詠唱魔法」

「えーしょー魔法?」

「『大地よ、その力を、この手に』」


ナイフの上に小さな土の塊が現れる。


「かわいいの!」

「一番メジャーな魔法がこの詠唱魔法です。と言うよりも、他の二種類が普及していないのですが」

「え~っと、確か精霊魔法と記述魔法でしたっけ?」

「そうですね。精霊魔法は担い手が僅かしかいないので謎が多い魔法とされています」


まぁ、知らないわけでもないのだが。今回は割愛してもいいだろう。


「記述魔法もあまり使う人はいませんが、よく目にすると思いますよ」

「そうなの?」

「アン様、あそこにありますよ~」


カティアは中庭にある噴水を示す。


「噴水なの?」

「正確には『水を出しているスフィア』に記述魔法が使われています」


つまり、スフィアとは魔石に記述魔法を用いて、魔力を流すだけで魔法が発動するようにした物ということだ。


「……よくわかんないの」

「まぁあまり重要ではないので、覚えなくてもいいです」

「わかったの!」


切り替えの早いことだ。


「それでは実際にやってみましょう。アン様、復唱して下さい」


ナイフを仕舞い、目を閉じる。


「『土よ、その力を、この手に』」

「『土よ、えっと、どーん!』」


どーん。

目の前に巨大な土くれが現れた。


「……復唱してください?」

「ごめんなの!」


ゴホン。


「『土よ、その力を、この手に』」

「『土よ、その力を、この手に』!」


俺の手のひらには小さな土くれが。

アンの目の前には、巨大な土くれがもう一つ出来上がっていた。


「ど、どうなの?」

「そうですね……」


アンを少し視てみるが、魔力がほとんど減っていない。

恐ろしい魔力量だ。


「では、こうしましょう」


アンの正面に座り、手を重ねる。


「どうするの……?」

「魔力は私が制御します。アン様は先ほどと同じように詠唱してください」

「なの……」


声に元気がない。

露骨に不安がってしまっているようだ。

このままだと成功しないだろう。


「大丈夫ですよ、アン様」


重ねた手をギュッと握り、優しくアンに語り掛ける。


「私も昔は、魔法が使えなかったんですから」

「レオンも……?」

「ええ。ですから大丈夫です。きっと上手くいきます。私を信じてください」

「……わかったの!」

「その意気です!」


アンの目にやる気がともる。


「『土よ、その力を、この手に』!」


アンの詠唱に合わせて俺の魔力を通わす。

膨大な魔力を堰き止める、水門のような役割を果たしてくれるはずだ。


そして、


「や、やったの!」


アンの手のひらに、小さな土くれが現れていた。


「おめでとうございますアン様!」


カティアも手をたたいて喜んでいる。


「レオンのおかげなの!」

「大したことはしていませんし、むしろこれからです」

「これから?」

「先ほどの感覚を何度も何度も繰り返して、身体で覚えなければいけません」

「何度も……毎日なの?」

「ええ。できれば毎日……」

「毎日レオンと遊べるの!」


わーい、と手放しで喜ぶアン。

そしてアンから感じる魔力の高まり。

どーん。


「……まだまだ先は長そうですね」


喜ぶアンと、三個目となった巨大な土くれと、オロオロするカティアを尻目に、これからの事を思わざるを得なかった。

更新遅れてすみません。

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