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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第一章 リヒテンベルクの人々
22/73

空中散歩

「なんと言うことだ……!」


翌日。

心機一転、気合も十分に望んだのだったが、朝のブリーフィングでオスカルから衝撃の事実を聞いてしまった。


「それと、休みもあけましたのでお嬢様方は学校に行かれます。学校の方には私とメイド隊が行きますので、レオンさんには屋敷内の業務を引き継いでもらいます」

「……は?」


と、思わず口から素っ頓狂な声を上げてしまったほどだ。

そもそも、冷静に考えれば気づいたことだ。

二日間の休日を挟んだら、そりゃあ学校に行くだろう。


「まさかそんなことにすら気づかないとはな……」


少し視界が狭まっていたのかもしれない。

反省だ。


「よし、気持ちを切り替えよう。まずは、と」


映像スフィアに内蔵されているスケジューラーを確認すると、そこには『アン様の講師』と書かれていた。

そうか。アンはまだ学校に行っていないから屋敷にいるのか。

気合を入れ直して、アンの部屋へと向かう。



――コンコンコンッ


「は~い。どなたですか~?」


ドアをノックすると、のんびりとした返事が返ってきた。

この声は恐らくカティアか。


「レオンです。アン様の講師に――」

「レオンなの!」

「ゲフッ」


バン! と開いたドアからアンがタックルしてきた。

なんとかアンを受け止めたが、正直吹き飛ばされてもおかしくなかった。


「ア、アン様……」

「おはようなの!」


アンが元々いたと思しき場所からここまで約五メートル弱。

恐るべき身体能力だ。


「おはようございます」


なんとか表情を整え、アンに挨拶を返す。


「レ、レオンさん大丈夫ですか~?」


遅れて、部屋の中からカティアが顔を出す。


「まぁ、なんとか」

「レオン、痛かったの?」


腰にぶら下がってるアンが上目遣いで心配してくる。

そんな瞳を向けられたら、痛かったとは言えないな。


「いえ、全然平気ですよ」

「よかったの!」

「それでカティアさん。私は何をすれば?」

「あ、はい~。え~っと……」

 


「なるほど。魔法の制御ですか」


カティアから大まかな説明を受け、場所を中庭に移した。


「アン様は魔法自体は問題なく使えるんですけど、制御がきかないみたいで~」

「この年でアレだけの魔力を持ってれば制御出来ないのも仕方ないですよ」

「私たちも色々頑張ったんですけど、全然ダメで~」

「善処します。ところで……アン様?」

「なの!」


俺に肩車で乗っているアンへ話しかける。

移動中も腰にぶら下がっていたのだが、器用に俺の体をのぼって、なぜかこの形で落ち着いてしまった。


「アン様、魔法の練習をしますよ?」

「レオン、行くの!」


指でビシッと前方にある木を示す。

俺は執事で教育係だ。

本来ならば、ここでしっかりと指導しなければいけないのだろう。

しかし、だ。


「お任せを! 『天翔ける風よ』」


先日も使用した風魔法を使用し、一直線に地を翔ける。


「すっごく早いの!」

「まだまだ行きますよ! 『大いなる風よ』」


風を脚に纏う量が増え、身体が更に浮き上がる。


「あはは! レオンすごいの!」

「と、飛んでます~!」


アンと一緒に天を翔ける。

喜んでくれたようで何よりだ。


「このまま屋敷を一周しましょうか?」

「ごーごー! なの!」



「……ねぇレオン」

「どうされました?」


およそ半周したところで、テンションが少しさがった声でアンが話しかけてきた。


「アンも、レオンみたいにちゃんと魔法使えるかな?」

「アン様……」


普段のアンからは見たことのない真剣な表情で俺にそう聞いてくる。

アンはどうやら、自分の魔法の制御が上手くいかないことが分かっていたようだ。


「勿論です。私が約束します」

「……ありがとうなの!」


アンに再び笑顔が戻った。

この笑顔は、守らないとな。

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