いま出来る最善の対応
深夜。
一日の業務を終え、とある部屋の前に立つ。
呼吸を整え、ドアをノックする――
「どうぞ、鍵は開いてますので」
――ノックしようとしたところで声をかけられた。
気づいていたか。いや、どこから気づかれていたか。
まぁ今はそんなことはどうでもいい。
「失礼します」
ドアを開けて、部屋に入る。
本棚、机、ベッドと基本的なものがあるだけのシンプルな部屋だった。
「それで、どのような用事ですかな?」
その言葉で部屋を見るのをやめ、目の前の家令、オスカルと向かい合った。
「今日の業務についてです」
「なるほど。初日なのにしっかりと業務をこなせていた、とメイドから伺っていますが」
「伺った内容でなく、オスカルさんが実際に見た意見をいただいても?」
その言葉でオスカルの眉が少し上がる。
どうやら予想は正しかったようだ。
「……ふむ。たった一日でそこまでとは。センテルム魔法大学校は随分といい生徒を育てたようですね」
「いえ、半分ハッタリです」
オスカルの魔法。それは恐らく視覚を飛ばす魔法だ。
それも恐らく複数に飛ばすことのできる類だろう。
常人がそんな事をすれば、情報を処理しきれずに昏倒してしまうほどの魔法だ。
「それでも十分です。私の魔法の一端に触れることが出来たのは、この屋敷では貴方が三人目ですから」
三人目か。一人は見当がつくが、もう一人は誰だろうか。
「さて、それでは私の所見ですが……」
そうだ。ここに来た目的はオスカルの魔法を見破ることではない。
今日の行動を顧みることだ。
そして、お嬢様の事をより深く知るためだ。
「まずはローゼンクイーン様について――」
*
「こんな夜遅くまでありがとうございました」
時刻は既に三時を回っている。
が、オスカルは真摯に教えてくれた。
「いえ、そもそも事前知識も研修もなしに『完璧な対応』など、出来るわけないのです」
「それは……」
「大事なのは『いま出来る最善の対応』をすることです」
「『いま出来る最善の対応』、ですか」
「レオンさんは現状でも十二分に『いま出来る最善の対応』が出来ていますよ。明日からの……いえ、もう今日ですか。今日の業務も期待しています」
「はい!」
それだけ言ってオスカルの部屋を去った。
やれることはやったはずだ。
後はなるようになるさ。
「はて、そう言えば今日はお嬢様方の登校日ですが、レオンさんはご存知でしたでしょうか……?」
なぜかオスカルの名前と敬称が別の作品と混同していたので統一しました。




