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執事とお嬢様の魔法五重奏《マジカルクインテット》  作者: 幻馬
第一章 リヒテンベルクの人々
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キッチンメイド、エレン

「そうですか、それでレオン様はこの屋敷に」

「様は不要です。急なことだったのでまだ全然馴染めて無いのですが」

「ふむふむ。それじゃあ手始めに、ボクとお近づきになりませんか?」


そう言ってボーイッシュなメイドは皮をむいたニンジンをこちらに向けてくる。


「よろこんでお引き受けします。『風よ――』」


そのニンジンを風の刃で乱切り。うん、よく切れる。


「お見事。レオンさんのおかげでかなり捗りましたよ」

「ありがとうございます、エレンさん」


マグダに説教をされてからおよそ一刻。

食堂に行く前に厨房で用意をしようと思ったのだが、そこでヘルプを頼まれてしまった。

どうも、色々な都合で普段より二人少ないメンバーで厨房を回さなければならず、困っていたらしい。

料理はある程度の心得があるので、エレンさんに言われるがまま食材を切り、煮込み、その間にまた別の食材の下処理をし……といった風に、大忙しだった。

今はお嬢様方の料理を配膳し終わり、ひと段落ついたのでメイド用の夕食を作っているところだ。


「メイド用の夕食、とは言っても随分と豪華ですね」

「まぁ食材はどれも一級品だからね。……っと、失礼しました」

「話しやすい喋り方でいいですよ。入りたての新人ですので」

「そう言って貰えると助かる。いやぁ敬語ってなれないんだよね。あ、レオンさんも敬語なしでいいよ?」

「じゃあお言葉に甘えて」


メイド、と一口に言っても職種は様々だ。

まずはハウスキーパー。メイドたちのとりまとめ役だ。

次にレディースメイド。主人のお世話をするのが主な仕事だ。

これはカティアなどが該当する。

そしてキッチンメイド。その名の通り、厨房で料理をする専門のメイドだ。

これに該当するのがエレン、というわけだ。

上司や主人に対して敬語を使わないわけではないが、同僚に対しての敬語は重視していない役職だ。

他にもパーラーメイドやランドリーメイドなどがあるが……今は割愛しよう。


「で、話を戻すけど、ここってお嬢様が五人もいるだろう? 好みに合わせて献立を変えてるから食材がけっこう余るんだよ」

「なるほど。で、その食材を回してるワケか」

「そういうこと。あ、そろそろいいんじゃない?」

「お、そうだな」


コトコトと煮込んでいたスープをおたまですくい、味見する。

上出来だ。


「それじゃあボクも……ん、美味しい!」


エレンの太鼓判も出たし、大丈夫そうだ。


「それにしても君、料理上手いんだね。クリームシチューって言ったっけ?」

「よく学校の寮で作ったんだ。隣人が好きでな」

「へー。今度レシピ教えてよ」

「ああ。と言っても簡単な庶民料理だけど」

「いいのいいの。お嬢様方に出すわけでもなし。じゃあ一足先に食べようか」

「他のメイドを呼ばなくていいのか?」

「まぁそこは役得ってことで、どう?」


どう? って言われたら仕方ないか。



まぁその後、食べてるところを他のメイドに見つかり、「レオンさんとエレンだけズルいです~!」やら、「……自分たちだけ、ズルい」などのお叱りを受けてしまったのだが、これも仕方のないことだろう。


1日で100PVありがとうございます!

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