キッチンメイド、エレン
「そうですか、それでレオン様はこの屋敷に」
「様は不要です。急なことだったのでまだ全然馴染めて無いのですが」
「ふむふむ。それじゃあ手始めに、ボクとお近づきになりませんか?」
そう言ってボーイッシュなメイドは皮をむいたニンジンをこちらに向けてくる。
「よろこんでお引き受けします。『風よ――』」
そのニンジンを風の刃で乱切り。うん、よく切れる。
「お見事。レオンさんのおかげでかなり捗りましたよ」
「ありがとうございます、エレンさん」
マグダに説教をされてからおよそ一刻。
食堂に行く前に厨房で用意をしようと思ったのだが、そこでヘルプを頼まれてしまった。
どうも、色々な都合で普段より二人少ないメンバーで厨房を回さなければならず、困っていたらしい。
料理はある程度の心得があるので、エレンさんに言われるがまま食材を切り、煮込み、その間にまた別の食材の下処理をし……といった風に、大忙しだった。
今はお嬢様方の料理を配膳し終わり、ひと段落ついたのでメイド用の夕食を作っているところだ。
「メイド用の夕食、とは言っても随分と豪華ですね」
「まぁ食材はどれも一級品だからね。……っと、失礼しました」
「話しやすい喋り方でいいですよ。入りたての新人ですので」
「そう言って貰えると助かる。いやぁ敬語ってなれないんだよね。あ、レオンさんも敬語なしでいいよ?」
「じゃあお言葉に甘えて」
メイド、と一口に言っても職種は様々だ。
まずはハウスキーパー。メイドたちのとりまとめ役だ。
次にレディースメイド。主人のお世話をするのが主な仕事だ。
これはカティアなどが該当する。
そしてキッチンメイド。その名の通り、厨房で料理をする専門のメイドだ。
これに該当するのがエレン、というわけだ。
上司や主人に対して敬語を使わないわけではないが、同僚に対しての敬語は重視していない役職だ。
他にもパーラーメイドやランドリーメイドなどがあるが……今は割愛しよう。
「で、話を戻すけど、ここってお嬢様が五人もいるだろう? 好みに合わせて献立を変えてるから食材がけっこう余るんだよ」
「なるほど。で、その食材を回してるワケか」
「そういうこと。あ、そろそろいいんじゃない?」
「お、そうだな」
コトコトと煮込んでいたスープをおたまですくい、味見する。
上出来だ。
「それじゃあボクも……ん、美味しい!」
エレンの太鼓判も出たし、大丈夫そうだ。
「それにしても君、料理上手いんだね。クリームシチューって言ったっけ?」
「よく学校の寮で作ったんだ。隣人が好きでな」
「へー。今度レシピ教えてよ」
「ああ。と言っても簡単な庶民料理だけど」
「いいのいいの。お嬢様方に出すわけでもなし。じゃあ一足先に食べようか」
「他のメイドを呼ばなくていいのか?」
「まぁそこは役得ってことで、どう?」
どう? って言われたら仕方ないか。
まぁその後、食べてるところを他のメイドに見つかり、「レオンさんとエレンだけズルいです~!」やら、「……自分たちだけ、ズルい」などのお叱りを受けてしまったのだが、これも仕方のないことだろう。
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