マグダの本音
「んー……少し堪えた」
マグダが完全に去ってから、小さくそう呟く。
彼女が言ったことは正論だ。すべて正しい。
まだ初日だからしょうがない? 確かにそう言う見方も出来る。
だが、初日だからと言って、事前に調べなくて良い理由にはならない。
研修等ではなく、正規雇用なのだ。
全力で取り掛かっているつもりではあったが、まだ甘かったのかもしれない。
魔法が多少出来るから、天狗になっていたのかもしれない。
と言うか、面と向かって説教されたのも久しぶり……
「……いや、フィーネには散々説教されてたっけか」
一人の友人を思い出す。
思えば、あの学校でちゃんと俺を叱ってくれたのはアイツくらいなものだったか。
まぁ、そんな彼女の説教を真面目に聞いたことなどなかった気もするが。
「もっと、ちゃんと聞くべきだったかもな」
などと感傷に浸っている場合ではない。
「ひとまず、食堂に行って給仕のフォロー。それから……」
足りない知識は、補えばいい。
夜になったらオスカルのところへ行くとしよう。
それだけ決めて、執事の業務を再開した。
*
「……またあなたはそうやって」
「おや、オスカル。見ていたのかい」
レオンに軽く説教をして、階段を上がり、角に曲がったところでオスカルに話しかけられた。
オスカルはこの屋敷の中でも唯一と言っていい、私が素で話せる人間だ。
「たまたま、ですがね」
嘘だ。オスカルはどこで何を見ているのかわかりやしない。
肝心な場面には居合わせるし、いつも見ている。
恐らく魔法の類なのだろうが、付き合いの長い私でも全容は把握できていない。
「で、また新人を潰すつもりですか?」
「フン。そんなんじゃないよ。ただ正論を言ったまでさ」
「その正論で何人の新人を潰したか、覚えているでしょう?」
「これしきの事で潰れるようなら、そこまでさね」
少なくとも、ここで働くならそれくらいの気概は必要だ。
「一理ありますが……レオンさんは今日入ったばかりですよ?」
「だからこそ言ったのさ。今日一日の仕事っぷりを聞いた限り、最近の新人の中じゃマシな方だったからね」
概ねレオンの行動に間違いはなかった。それどころか、初日にしては出来すぎている節があった。
だからこそ、初日に釘をさす必要があった。
「初日良くできたから明日も同じように、なんて考えられるのが一番困るからね」
「それはそうですが」
「アンタもレオンの事を心配しすぎじゃないかい? ほら、見なよ」
角から顔を覗かせる。
すると、ホールにはもうレオンの姿はなかった。
「アイツはもう立ち直ったみたいだ。なら、もう私が気にすることでもないさね」
「……そうですか」
「さて、これ以上ローゼンクイーンお嬢様を待たせるわけにも行かないし、私はこれで失礼するよ」
形式だけの礼をオスカルにして、ローゼンクイーンお嬢様の部屋に向かう。
少しはレオンに期待してるんだ。
しっかりおやり?




