好戦的?
今日のことをソフィアに話しながら、広い屋敷を歩く。
「もう、アンったら……可愛らしいんだから」
「ええ。アン様の天真爛漫な様子を見るだけで私も癒されます」
「でも相手をするのは大変でしょう?」
「大丈夫です。私が子供の頃にもっと大変な人の相手をしたこともありますので」
「ふふっ、頼もしいです……さて、着きました」
ソフィアが少し変わった扉を開ける。
「ここは……」
ガラス張りの壁に、通常より明るい発光スフィア。
そしてなにより、色とりどりの花や珍しい植物。
「温室、ですか?」
「その通り。珍しいでしょう?」
「はい。管理が大変で普及していないと聞いています」
「管理は大変ですけどメイドにも花が好きな子がいまして。今度紹介しますね」
温室を見渡しながら奥へ進む。知っている花もいくつかあった。
というか……あれは俺の故郷の花、か?
「さて、ここです」
温室の奥。そこはあまり植物も植わっておらず、開けたスペースになっていた。
「ここは私の魔法練習場……まぁ、秘密基地みたいなものかしら?」
いたずらっ子のような口調でウインクしてくるソフィア。
不思議と懐かしさを覚える口調だった。
「ではレオンさん。始めましょうか」
さん付け? さっきまでは呼び捨てだったのに、何故だろう。
「いったい何が始まるんです?」
「それは勿論……」
ソフィアが腰に下げていたタクトを右手で引き抜き、魔力を込め始める。
「魔法の勉強、ですよ! 『水よ、我が指示に答え、その力を示せ』!」
ソフィアがタクトを振るうと、水の蛇がこちらに襲い掛かる。
「『天翔ける風よ』!」
袖のナイフに魔力を込め、風の魔法を行使する。
足に風が纏い、身体が軽くなる。そのまま、水の蛇を間一髪のところで避ける。
「そこですっ!」
ソフィアがタクトを捻る。その動きに連動して水の蛇が動きを変え、方向をこちらへと変えた。
「なるほどっ!」
その蛇を俺が避け、それに合わせて蛇もまた動きを変える。
キリがない。
「逃げてるだけですかっ!」
避ける俺にキッチリと動きを合わせる操作制度。
そして魔法を持続させる集中力。かなりのものだ。
「では要望にお応えしましょう。『吹き荒れる風よ』!」
目の前で嵐が起こる。その嵐に巻きこまれ、水の蛇は霧散した。
*
「一撃……!」
かなりの魔力で編んだはずの水の蛇が一撃で霧散してしまいました。
流石センテルム魔法大学校トップクラスの魔法使いです。
ですが、私の攻めはまだ終わってはいません。
すぐに違う魔法へと切り替えます!
「『水よ、無数の刃となりて、降り注ぐ雨となれ』!」
水の刃を相手の頭上から降らせる範囲魔法。
これならレオンさんといえど避けられないでしょう。
ですが、慢心はしません。詰めの一手です。
「これで、どうですかっ! 『水よ、その力を示せ』!」
慣れない二重詠唱で、レオンさん目掛けて水弾を放ちます。
全てがぶつかり、水飛沫が舞いました。
流石にこれならレオンさんに……
「お見事です、お嬢様」
背後から、レオンさんに話しかけられました。
*
「お見事です、お嬢様」
魔法が外れたと認識するや、否や別の魔法を行使する頭の回転の速さ。
そして強力な水魔法。
更に、自身の切り札とも言える魔法だけではなく、しっかりと詰めの魔法を放つ用心深さ。
すばらしい。
「ふぅ……どうやら、届かなかったみたいですね?」
タクトを腰に仕舞い、身だしなみを整え、こちらにちゃんと向き直るソフィア。
「いえ、並みの魔法使いでしたら今ので詰みでしょう」
「しかしどうやって私の後ろに? 魔力はほとんど感じませんでしたが」
「ふむ……お嬢様は空魔法をご存知ですか?」
「ええ勿論。物体を浮かせたり、瞬間移動したり、魔力そのもので力を加える魔法の事ですよね?」
「その通りです」
「ですけど、空魔法は詠唱に時間がかかる使い勝手の悪い魔法だと教わりましたが」
空魔法はとにかく使い勝手が悪い。
他の四属性魔法に比べて制御が難しいだけでなく、魔力の消費も大きい。
一般的には空魔法はほぼ役に立たない、とされている。
「ええ。ですが、空魔法を実用レベルにすることもできるのです」
「と、言いますと?」
「ここから先は秘密……としたいところですが、先ほどのお嬢様の見事な連携のご褒美といたしまして、少しだけ」
袖口のナイフを取り出し、ソフィアに見せる。
「これは……素晴らしい逸品ですね」
「私のお気に入りです。では、このナイフを投げます」
「投げる? 投げてどうするのです?」
「まぁ、見ていてください」
魔力を込め、ナイフをさっきまで俺がいた位置に投げる。
そして、空魔法を行使する。
「『我が魔力よ、この手に』」
目の前が歪み、身体が引っ張られる間隔。
そして次の瞬間、俺の身体がナイフの位置まで移動した。
「……なるほど。それで先ほどの魔法を避けたのですか」
ナイフを袖口に戻し、お嬢様に歩み寄る。
「正解です。すこし卑怯でしたか?」
「いいえ。まだまだ知らないことがある。そう思いました」
「素晴らしいです。では、今回の復習と行きましょう……」
ふと、先ほどの戦闘を顧みて、思ったことがあった。
「どうされたのですか?」
「……お嬢様って、戦闘になると性格が変わるタイプですか」
思い返すと、普段はおしとやかな口調の節々が少し好戦的になっていた気がした。
「ふふっ。気のせいですわ♪ さて、復習をしましょう?」
見るからに作った笑顔のソフィアに、これ以上は何も言えなかった。
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