カティアとソフィア
「ありがとうございましたレオンさん~」
アンをベッドへ寝かせたカティアが部屋から出てくる。
俺への様付けも取れたようだ。
「怪我がなくて本当に良かったです」
「あはは……お恥ずかしいところをお見せしました」
「仕える者として最善の行動だったと思いますが……アン様は普段からあの調子なのですか?」
正直あの足の速さには驚いた。
ボール遊びにしても、あの歳の女の子が大人が投げるボールと遜色ないスピードで投げてくることには正直参った。
「そうなんですよ~。ちょっと前までは全然平気だったんですけど、今じゃこの屋敷の中でアン様のお世話をできるのは身体強化を使える私くらいしかいなくて……」
確かにあのレベルの子供を相手するには身体強化でも使える人じゃないと面倒を見切れない。若しくは……
「でもレオンさんも身体強化を使えるんですよねっ!」
小躍りして喜びを全身で表すカティア。
揺れてる揺れてる。何とは言わないが。
「確かに身体強化も使えなくはないですが……今回用いたのは風魔法です」
「風魔法? 身体強化って地の魔法ですよね?」
「ええ。ですので一般的に言われている身体強化とは少し違いまして」
魔法には火、水、風、地、空の五属性があり、基本的に身体強化は地魔法の部類だ。
「風魔法ってどういう魔法かご存知ですか?」
「えっと……風を起こしたり……」
「概ねそんな感じです。なので、こんな風に……」
袖口のナイフに魔力を籠め、詠唱する。
「『天翔ける風よ。我が足に纏いて、その力を宿せ』」
すると足に小さな風が渦巻き、俺の体が少し浮く。
「この状態で地面を蹴ると……」
軽く走ってみる。走るというかホバー移動なのだが。
「わっ、早いです~」
「と、まぁこんな感じです」
カティアの前に戻り、魔力を籠めるのを止め、魔法を解除する。
「そんな魔法初めて見ました~。魔法が上手なんですね」
「それなりに、ですけどね」
「私に比べたら全然です~」
「あら、もう仲良くなったの?」
廊下で他愛のない話をしているとソフィアがやってきた。
「これはソフィアお嬢様。挨拶が遅れて申し訳ございません」
「いいのよ。それよりも、早速動いてくれてるみたいね?」
もうある程度の事は耳に入っているらしい。抜け目がないな。
「はい。出来る範囲で善処しております」
「レオンさん凄いですよ~! アン様の相手を出来ますし、魔法も上手ですし!」
「ふふっ、カティアはレオンを随分と気に入ったのね?」
「ちっ、違いますよ~! ソフィア様ったらもう!」
ソフィアとカティアの和気藹々としたガールズトークが始まった。
この屋敷の住人はどこか壁のような物を抱えているように思ったが、ソフィアにはあまりその壁がないように思える。
「そうだ、レオン。この後時間あるかしら?」
「ええ。次はどうしようかと考えていたところです」
「なら丁度よかった。少し魔法を見ていただきたいのだけどいいかしら?」
いい機会だ。是非見せてもらおう。
「ええ。喜んで」
「ありがとう。それじゃあ行きましょう。またねカティア」
「魔法の勉強、頑張ってください~」
カティアと手を振って別れる。
……ところで、行くってどこへ?




