ローゼンクイーンへ挨拶
「ありがとうございます」
厨房でメイドにローゼンクイーンの朝食をボックスに詰めてもらう。
「それはこちらのセリフで……って、いいんですか? お嬢様方への給仕は私たちの仕事ですのに」
「初日ですのでまずはコミュニケーションを、と思いまして」
「なるほど。でも、気を付けてくださいね。ローゼンクイーン様はとても気難しいお方なので……」
「御忠告、痛み入ります」
厨房を出てスフィアの案内通りに屋敷を進むと、他の部屋とは違うひと際豪華な扉があった。間違いなくここがローゼンクイーンの部屋だろう。
一呼吸おいて、ドアをノックした。
「……誰かしら」
「本日付でお嬢様方の執事を務めさせていただくレオンです。朝食をお持ち致しました」
「はぁ……マグダ、開けて頂戴」
「かしこまりました、お嬢様」
マグダ、と呼ばれた老齢のメイドが扉を開ける。
中はソフィアの部屋と同じく非常に広い。だが、インテリアはそれほど多くないように見える。
「で、何?」
その部屋の窓際。朝日を受けて艶めく長い緋髪を掃いながら、俺に問いかけてくる。
お前はなんだ? と。
ここで臆してはダメだ。
「まずはお嬢様に挨拶を、と思いまして。メイドの代わりに朝食をお持ちした次第にございます」
「そう。じゃあマグダ、お願いね」
「かしこまりました」
マグダが給仕の準備を始める。
「私が給仕も、」
「その必要はないわ。だって、貴方の用事はもう済んだでしょう?」
つまりもう出ていけ、ということか。
とりつく暇もない。
「……かしこまりました。失礼します」
持っていたモーニングボックスをマグダに渡し、一礼して部屋を出る。
初日ならこんなものだろう。
部屋に入れてもらえただけでも進展だ。
「さて、次は……」




