ウィル視点1
ウィルの視点です。
長くなったので2つにわけました。
よろしくお願いします!
俺の名はウィル。
極々一般的な平民の家庭に生まれ育ち、そして今では鍛練を重ね王城の、しかも王太子殿下付き近衛兵団の末端に加えて頂けるまでに至った。
......筈だった。ほんの数日前までは。
「おぉいコラなにやってる新入りぃ。」
「.........床の掃除ですが。」
俺はあのレイラとか言う奴の不興を買い、見事なまでに左遷された。城の兵の中でもお祓い箱となった者が行くと言われる、地下牢が俺の新しい職場。
「だったらいつまでちんたらやってやがる!」
唾を撒き散らしながら、新しくセンパイとなった男は怒鳴った。最早これもいつものことである。
「すみません、すぐ片付けます。」
俺は逆らうでもなく淡々とそう返し、まだまだ綺麗とは言えない床を少し気にしつつ、片付けに掛かろうとした。
「......っち、そういうとこがうぜえってんだよっ!!」
男は吐き捨て、殴る......のを反射で避けた俺の腹に、蹴りをかましてきやがった。
「っ、ぐ、ぅ......。」
思わずうめき声が漏れる。
ふらつきながらも踏ん張り、だがどうにか冷静になろうとする。
「な、なにを......。」
「っは、気に入らねえからに決まってるだろーが。こんな負け組の集団にエリート様が落っこちてきたら、そりゃあ歓迎したくもなるってもんだ!」
男の後ろの方で、複数の笑い声がきこえた。
俺は新人だからと、あらゆる雑用が回ってくるため、皆が不気味がって近寄りたがらない地下牢の奥の方まで食事を届けに行ったりもする。
そんな、人気がなくかつ奥まった場でのこと。
これはちょっと、助けを期待出来そうもない。
「......あ?なんだ連絡か?......オイ、新入りぃ。」
「......は、い。」
「しっかりかたづけとけよなぁ?いいな!!」
「はい。」
どうやら呼び出しがかかったようだった。
正直助かった。反撃を一切せずしてこの状況を乗り切るようなスキルは、俺には無い。
俺は段々マシになってきた気がする腹をかかえ、掃除道具を片付けた。
そして、その日の夜。
「......なんでお前いるんだよ?リアン。」
「ウィルがそれ言うときは大概機嫌悪いときだよね。どーしたの?」
自室に戻ると、少し久しぶりな気がする友がさも当たり前かのようにそこにいた。
「どうしたって?あのクソ上司ならどうもしねえよ。」
と言いながらも、全力で不機嫌面になっていくのを自覚する。
「あぁ。まあ、ここの兵はちょっと柄悪いのがいるからねー。」
リアンは大方何があったか検討をつけたようで、納得したふうに頷いた。
「と言うか上下関係盾にされたぐらいで大人しくしてるとか、ウィルも成長したなあ。」
「は、うるせえよ。」
「まあ多分、今回の左遷が効いたんだろうけど。」
「......分かってんならそっとしとけよな。」
不貞腐れてそう言えば、リアンは可笑しげに笑った。
「......お前の方こそ、何かあったのか?なんか、今日は表情が明るい気がする。」
「え?そう見える?」
「ああ。どうした、女でも出来たか?」
「あはは、まさか。」
「へえ?じゃあどうしたんだよ。」
「主ならできたけど。」
「っはあ!?おまえが!?」
基本一匹狼で仕事してきたこいつが......?
誰の力を借りずとも、命の危険を伴う裏社会で、飄々と独り生き抜いてきた、あの、リアンが?