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ーーーと、まあそんなことを一介の悪役に過ぎない私が考えたところでわかる筈もなく。
何だか城内が良くないことになっているらしいが、それもこんなところに居る私にはどうにも出来ない。
まあつまるところ、滅茶苦茶暇なのである。
やることも出来ることもなく、そうそう運よく情報が手に入るものでもない。
一応貰える食事も必要最低限ギリギリの量なので、あまり運動するわけにもいかない。
............暇だ。
「......おい、飯だぞ。」
私が牢屋でぐだぐだしていると、またウィルがやって来た。
「まあ、御苦労なことですわね。」
私は取り敢えず憎まれ口を叩きつつ、いそいそとお粥っぽいものを受けとる。
空腹は何よりのスパイスとは、よく言ったものだ。味付けどころか素材すらろくに使われてなさげなほぼ水のお粥でも、何だか美味しく感じる。
「......おい、クラウディア=オストカーレ。」
「?なんですの?」
ウィルが妙にためらった様子だったので、私は割りと不思議に思った。
「......いや。何でもない。」
「そう?もしかして私の死刑執行の日でも決まったのかと思いましたわ。」
するとウィルは、ガタッとランタンを落とす。
「ち、ちょっと危ないじゃない!......え、まさか......?」
「いや違う!余りに平然と言うから驚いただけだ!......何なんだお前。」
なんか珍獣でも見るような目で見られるんだけど。失礼な!
「知りませんわ!貴方何と比べて驚いてるのよ。」
「.........いいや。何でも、ない。」
「貴方そればっかりね。」
私は呆れたように言いながら、とにかくゆっくりと丁寧に、味わってお粥を平らげた。
「ふう。ごちそうさまでした。」
ウィルは黙ってお椀を受け取り、ランタンを持って牢屋から去っていく。
「......なんだったのかしら。」
私は呟きながらも、鉄格子から離れ、所定の位置に座り込んだ。
「......ん?」
その日の夜。
私がふと目を覚ますと、微かに降る月の光に反射する、黄金色が視界に映り込んだ。
「あれ。りあん......どうしたの?」
寝ぼけ眼の目を擦りながら言うと、リアンはちょっと笑った。
「いや、ちょっと様子を見に来たんだけど。寝てたから起こすのもどうかなって。」
「あら、ごめんなさい。でもそんな気を使わなくていいわよ?」
「ははっ、そう?」
「そうよ。......と、言うかリアン!呪いってどうなったの!」
私は完全に覚醒し、がばっと起き上がってリアンを見つめた。
「ああ、もう大丈夫。解呪がそんなに複雑なのでもなかったし。」
「そ、そう。良かった......。」
思わず胸を撫で下ろした。
「......まって貴方、もしかして怪我してない?」
「あれ、よくわかったね?」
「よくわかったね、じゃないの!こんなとこに来てる場合!?ちゃんと手当てはした?」
こんなに血の匂いがしたら誰でもわかるっていうの!焦って捲し立てると、リアンはまた私の頭を撫で、落ち着けと言った。
「落ち着けって、だって......!」
......どうして私はこんなに慌てているんだろうか。多分腕が少し切られている程度は、リアンにとっては怪我に入らない。きっとそれが、日常茶飯事だから。それに、手当てだってちゃんとしてある。私のところの依頼でついたであろう傷に、文句を言う資格など、私にだけは無いだろうに。
「......泣かないでよ、頼むから。」
「......、あ、え?」
気がつけば私の目からは、何故か涙が溢れていて。
「え、あ、あれ?お、おかしいな......?
な、何でもないの、ごめんねリア......ン?」
またまた何故だか、気がつけば私は、リアンの腕の中にいた。
「え、え?どうしたの?リアン!?」
慌てる私に構わず、リアンは腕に力を込めた。
「......ごめんね、クラウディア。」
その言葉で、何故だろう。必死に堪えようとした涙が、止まらなくなってしまって。
その言葉に込められた響きが、悲し過ぎたせいだろうか。
私は結局そのまま泣き続け、いつの間にか眠ってしまったのだった。