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「......さてと。それじゃ、クラウディア様。」
リアンは調子を元に戻し、そう言った。
「その様っていうの、いらないわよ?」
「......一応今、君は俺の主なんだけど。」
「あら、それは違うでしょう?私達は約束をしたのであって、契約をしたのではないわ。
だからこれは完全に、私の我が儘なの。」
「......何て言うか、君って本当に貴族らしくないよね......猫被るのは上手いのに。」
くつくつと笑って、リアンはそんなことを言う。
「う、まあ、そうだけど。......ちっとも否定出来ないのがちょっと悔しいわ......。」
私が大分悔しげに言ったのが面白かったのか、この黒髪の青年はまた笑い、私の頭に軽く手を置いた。
「まあ、貴族には傲慢な者も多いから、たまにはクラウディアみたいなのがいてもいいと思うよ?」
「......何だか複雑だわ......。っていうか猫って!貴方まさか見て......!?」
「あはは、どうだろうね?......あ、そうだ。手を出してくれる?」
「え、うん......どうして?」
私が何の気なしにそう尋ねると、彼は思わずぞっとするような笑みを浮かべた。
「ちょっと、ね?はい、これ。持ってて。」
リアンは懐から何かをとり出し私に持たせる。
「......これって?」
それはちょうど、私の瞳と同じ蒼色の石のペンダント。星のような光が幾つも浮かび、まるで星空を切り取ったような、神秘的な石だった。
「......きれい......。」
私が思わず呟けば、リアンは何故か不敵に笑む。
「これは魔除けの石。貴重なものだから、大切にしておいて。害意や悪意のあるモノから、必ず一度守ってくれるよ。」
「......そんな凄いものなの?ほんとにこれ、私が貰って大丈夫?」
確かに凄く高そうだし!
「良いんだよ。俺、依頼は完璧に達成する主義だから。手抜かりはしない。絶対に。」
そう言ったリアンの黄金色の瞳が、どこか暗い色を宿していたような気がして、私は何となく、何も言えなくなった。
「それじゃあ俺は消えるとするよ。......人が来たみたいだからさ。」
リアンは元の、飄々とした雰囲気に戻って、そう言った。
「......あ、まって!貴方顔色が悪いのって......!」
「あぁ、大丈夫大丈夫。ちょっと今、呪いにかかっててね。」
「いやそれ大丈夫じゃ......!?」
そうこう言っている内に、リアンはふわり、と空気に透け出した。多分、何かの魔法だろうけど。
「時間があればちゃんと解けるし、問題ないよ。それじゃまたね?クラウディア。」
「あ、ちょっと......!」
リアンは完全に、姿を消してしまった。さらりと人の名前を呼んで。色々言いたいことはあるけど、ともかく。
人生初魔法だ!!?すごい!!
......いやそれよりリアンの心配かもしれないけど、何となく大丈夫なような気がする。
まあ、なんてったって天才魔導士だしね。
「......おい。」
「......、え、あれ?」
「あれ、じゃあねえよ。飯だよ飯。」
そこには、茶髪の......ウィル、だったかな。が、いた。そう言えばリアンが誰か来たとか言ってたっけ。
「何一人で百面相してんだよ。さっさと受けとれ。」
「......ええ、言われなくても。」
と、受け取ったお椀の汚さと中のお粥らしきものについては、もう何も言わないとして。
「......そう言えば、貴方。」
「あ?」
「貴方は確か、王太子付きの近衛兵団の制服を着ていなかったかしら。城内では結構エリートのはずなのに、何故こんなところに?」
するとウィルは、思いっきり苦虫を潰したような顔をした。
「............左遷されたんだよ、あのレイラとか言う女のせいで。」
何か思いの素直に答えてくれた。え、て言うか。
「......え?レイラって......あの子にはまだ、そんな権限ない筈でしょう。」
「確かに無い、が。王太子殿下が、レイラが気にくわない者や失態を犯した者を城から追いやったり降格させたり......あれじゃ完全に.....いや、何でもない忘れろ。」
ウィルは慌てて発言を取り消した。
こんな場所で私なんかにそんなことを言ってしまうとは、大分不満が溜まっているみたいだった。
......まあ、そうだろうけれど。これは、何か良くない方向に向かっている気がする。
......よく考えれば、あの小説のハッピーエンドの後には、何があったのだろうか。
悪役が断罪され、ヒーローとヒロインが結ばれ幸せになって......そのあとは?
本当に拙すぎる文にお付き合い頂きまして、有り難うございます!