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「う!噂、で!」
く、苦しい......!我ながらそう思った。
の、だが。
「......ふうん、そう。」
リアンはあっさりと離してくれた。
それはもう、半分死を覚悟しかけた私にあやまれってくらい。......って、あれ?
「貴方、......どこか具合でも悪いの?」
私がまたまた思ったまま、何も考えずそんなことを言えば、リアンは一瞬固まった。
と思えば、次の瞬間には面白そうに笑む。
......何だろうなんかいま、リーナがヤバいことをしようとするときの笑顔と重なった。
嫌な予感しかしない。
「どうしてそう思うの?」
「......何となく、よ。」
今度こそ受け答えは慎重にいかなくては。
そんなことを思った私は、次の瞬間フリーズするはめになった。
「じゃあさあ、クラウディア様?俺と、契約してくれない?」
「.........は?」
かろうじてそう発音するのが限界だった。
リアンはそんな私を尻目に、淡々と言う。
「だからね?思った以上に頭が回るみたいだし、ちょっと協力して欲しい案件があるんだ。
君も、裏の人間の手が必要だろ?」
何か話が逸れたような気がする。
しかも、なんだそれ。そりゃ、稀代の天才とまで言われたヒトの協力が得られるだなんて、今の私には願ってもないことだろう、けど。
「......断る、わ。」
.........本当に何故だろうと、私は自分の感情が、不思議でならなかった。
それだけは、彼に助けて貰うような事だけはしてはいけないと、ただ自然にそう思って。
「貴方に、私の助けがいるだなんて到底思えないもの。......他をあたって。」
少し、沈黙があった。
「......うーん、これは大分難しいね。」
「......え?」
彼の言う意味がいまいちよく解らず、聞き返すと。
「うーんいや、こっちの話だよ。
取り敢えず、今の話をする事にする。」
リアンは曖昧に笑い、話題を替えた。
「今の話?」
「そ。まず、俺がここにいるのはどうしてだと思う?」
「誰かの、依頼......よね?」
「うん正解。じゃあ誰に依頼されて、俺はわざわざクラウディア=オストカーレ伯爵令嬢の牢に居るんだと思う。」
「だ、誰って、......ひょっとして、まさか、私の知っている人ではないわよね......?」
私は、藁にもすがる思いでリアンを見上げた。
ここには、彼の気まぐれかなにかできたのだと勝手に思っていた。......けれど、そうでないのなら。
「さあ、ね?ヒントでもあげようか。
今回の依頼人は、今俺に必要なモノを報酬に用意出来るだけのツテと地位と財力を持っている。」
「......ひとつだけ、聞いておいていい?」
「うん?」
「それは一人の事なの?それともーーー。」
「......多分、ご想像の通りだろうね。」
「.........そう、そっか。」
私は、喜んでいいのか怒ればいいのか悲しめばいいのか、よくわからなくなってしまった。
ただ、私のまわりはちょっと皆いい人すぎやしないかって、泣き笑いみたいな顔になってしまって。
「.........あのね。」
「......うん。」
「私、どうしてもここをでなくちゃいけなくなったわ。」
「うん。」
「お願い、力を......貸して下さい。」
私は誠心誠意、頭を下げた。
......そういえば、貴族になってからは初めてだろうか。
「うん、......いいよ勿論。」
「ありがとう......リアン=ウィスタルホード。」
「......」
リアンは黙って、私の声に耳を傾け待っていてくれた。
「私と......クラウディア=オストカーレと、契約を......いいえ、約束をして。」
「やく、そく?」
「そう、約束。契約は、もうお父様たちとしたのでしょ?だから、ね。」
目の前の、黒髪の青年は暫し黙って。
「......仕方ないな。俺がそれを、守るとも限らないのに。」
「守るわよ。貴方は、絶対に。」
少し前の死客を、私は何故か今、すんなりと信頼していた。色々なことがあって、私もとうとう焼きが回っちゃったかな?......なんて。
「じゃあ、よろしくね?リアン!」
何となく久しぶりに、自然に、笑みがこぼれた。