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97話 ピザという食べ物に心奪われた



 洞窟ダンジョンから一番近い街というと、『マカロー』という街がある。


 この街は人属領の中では有数の緑地を持っている。それだけ水が豊富な場所ということなのだが、それに比例して工業力が低い。

 この街の収入源はというと食料品、とくに植物商品の輸出が圧倒的であった。


 この街は人口は少ないながらも街の各所には、砂海へと向けた強固なトーチカがいくつもあり、外部からの攻撃には王都並みの防衛力があるとされていた。


 そのかわり治安部隊の兵力は少ない。

 元々犯罪が少ない街らしいのだが、外に向けての防衛に兵力を削っているので、内部に持ってくる兵力が薄くなってくる。

 その為、やむを得ず治安部隊には外部からの力を借りているらしい。

 つまりは傭兵で街を守っているのだった。





 ミルやビッチ姉妹は初めて来る街のようで、遠くから見ても分かる緑で覆われた街に驚きの様子であった。


 港で入街税を支払って手続きをしていると、突如税関が慌ただしくなる。

 税関の役人が慌てながらマノック達に対応する。


「ご、轟雷男爵……す、すいません、す、少しここで、待っていてもらえますでしょうか」


 血相を変えて奥へと下がる役人を見送りながらマノックがその後ろ姿に声を掛ける。


「まったく、なるべく急いでくれよな。腹減ってんだから」


 マノックの言葉に後ろ姿の役人の背中が震えるように見える。


「なんなんだよいったい。俺の番でいつもこうなるんだよな。どうせまた『轟雷が来たけど入街どうする?』とかって裏で話してんだろうな~、やんなるよ」


 先に入ったビッチ姉妹もラル兄弟も全く問題なく入街したのだが、マノックとミルを残して詰まってしまった。

 後ろにいたミルもまたかと言った様子だ。


 しばらくして奥から先ほどの役人の上司らしい人物が慌てた様子で出て来る。


 そして深呼吸した後、マノックのすぐ前まで来ると深く一礼して口を開く。


「マノック男爵様、ようこそマカローへ」


「ああ、それはいいんだが、なんか不備があったか? 足止めを食ってんだがな」


「申し訳ございません。通常は爵位持ちの方がご訪問されるときは連絡があるものですから。まさか突然訪問されるとは思っても見なかったものでして。しかもロックランドの領主様とは思いませんでして、大変失礼しました」


「なんだ、そういうことか。てっきりまた轟雷が来たとから通すなとか言われるかとおもったぜ」


「いえ、そんな事はございません。ロックランドとは交易もございますんでよくしていただいています。来賓としてお迎えいたします。申し遅れました、わたくしアドネと申します」


 アドネと名乗った役人はその後、マノック達を来賓として至れり尽くせりで手厚く街へと招待してくれた。


 その扱いに一番驚いたのはビッチ姉妹だ。

 元々上から目線の姉妹なのだが、彼女らは元々奴隷である。それが今や貴族のお付きの者として扱われている。


 しかも汚い砂人の恰好だったのに、あっという間に余所行きの恰好に着替えさせられている。


 しかし馬子にも衣裳で、ビッチ姉妹はちゃんとすればそこそこの美人姉妹である。ちゃんとした化粧でもすれば見違えるのではと思うほどだ。


 その自分達のお嬢様姿に動揺が隠し切れないビッチ姉妹。


「こ、こういうのは、ひ、久しぶりですわね。レベッカ、あなた顔が引きつってますわよ」


「そ、そう言うソニア姉さまこそ、左手と左足が同時に前に出てますわよ」


 街中を歩くぎこちない2人にミルとマノックとラル兄弟の4人は笑いが止まらない。


 マノック達には護衛の兵士が6人と案内人として先ほどのアドネが付いてきてくれているのだが、彼らそんな事はお構いなしに自分の役割に徹する。


 真っ先に食事がしたいという事を伝えたところ、お勧めのレストランへと案内されているところだ。

 

 レストランにつくとすでに予約がされている事に驚くマノック。


「さっき港に着いたばっかりなのに予約されてんのか?」


「この街では電話が普及していますので、港を出る前に電話で予約しておりましたもので」


「へえ、レストランにまで電話があるのか。王都よりもすげえじゃねえの、驚きだな」


 そしてマノック達はVIPルームへと通される。


 そこは10人は入れるかという広さの完全個室だ。その隅っこに6人が固まって座り全員で1冊のメニューを覗き込む。


 メニューを覗き込みながらマノックが指をさす。


「なあ、なあ、この『ピザ』ってどんな食べ物なんだ?」


 ヘルマン・ラルが少し思い出すような素振りを見せた後に話し出す。


「確か聞いた話ですと薄いパン生地の上にチーズとトマトとかいう野菜がのってるって聞きました。それを焼いたものらしいですよ」


「トマトってどんな野菜なんだ?」


 今まで借りて来た猫のようだったレベッカがやっと口を開く。


「あ、それ知ってますわよ。トマトってソニア姉さま、柔らかい赤い実の事ですよ」


「あら、まあ、それは子供の頃に食べた赤い実の事のようですわね。確かに『トマト』と言う名前だった記憶がありますわね。ですがチーズと合うのでしょうか」


「とりあえず頼んでみようぜ。それと俺はとりあえずビールだな」


 頃合いを見計らっていたのだろうか、注文が決まりかけてきたところでウェイターが注文を取りに個室に入って来る。

 それぞれが注文をするのだが、結局全員が味違いのピザを注文する。

 早い話、メニューを見て理解できたのはピザだけだったのだ。


「ま、とりあえず祝杯ってことで――」


「「「「「「乾杯っ!」」」」」」


 マノックの掛け声とともに乾杯を合唱する。

 明らかにこのレストランでは場違いな乾杯合唱なのだが、彼らはそんな事は気にすることはない。


 しばらくしてピザが次々にテーブルに運ばれてくる。


 そのパンのとチーズの焼ける香ばしい匂いと、トロリとしたチーズに誰もが目を奪われる。


 そして早速マノックが少し大きめにナイフで切ると、フォークでそれを口に運ぶ。


 その時トロ~リとしたチーズが皿とフォークをつなぎとめるのだが、マノックはそれをナイフでチョンと切って強引に口に頬張る。

 ホフホフと熱さに耐えながらもそれを美味しそうに噛みしめた後、一呼吸置いて感想を口にする。


「うっめ~~っ、なんだこれ。初めて食うぞこんなの」


 それを聞いた他のメンバーも我に返り、目の前の自分のピザに頬張りつく。


「ハンス兄さん、王都で食べたホットサンドの比じゃないですね、これっ」


「ああ、ホットサンドこそ至高の食べ物なんて思った自分が恥ずかしいよ、熱っ」


「ソニア姉さま、これは凄い食べ物を発見しましたわ。ぜひ家のシェフにも作らせましょう」


「そうですわね、そうしましょうか。ですが我が家のゴブリンシェフに作れますかしら」


「レイさん、ハフハフ……これ美味しいです! ハグっ……チーズとトマトって合いますね!」


「ああ、ビールに合うぞこれは。お~い、ビールお代り!!」


 そして2時間もすると全員がお腹いっぱいで動けなくなる。動けるようになるまでにはさらに1時間を要することとなった。


 帰り際にピザの作り方を教わるのだが、それを理解したのはマノックだけだった。こう見えても1人暮らしが長いマノックは、そこそこの料理ができるのだ。


 しっかりトマトの種と専用チーズも手配してもらうちゃっかりものでもある。


 さて食事もしたし帰ろうと港へ向かうのだがそれは案内役のアドネに止められる。この街の領主である『フランコ・バラッカ』が会いたいらしい。


 マノックは確かに挨拶もなしに帰るのはまずかろうと、領主の屋敷へと渋々向かうのだった。


 しかしその道中で恐れていたことが起こる。


 それは白昼堂々の襲撃だった。





読んで頂きありがとうございました。


今後ともよろしくお願いいたします。

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