96話 洞窟で火花散らした
ドーム状になった広間にトロルが入って行くと予想通り、壁から一斉に槍が降り注ぐのが探照灯の光によって照らし出される。
しかしナイトゴブリンのひ弱な力での投げ槍など、トロルの肌の硬さの前には傷をつけることはできない。
すべての槍はトロルの肌にぶつかるも、ポトリと力なくその場に落ちていく。
ナイトゴブリン達は焦り始める。
そしてトロルが動き出す。
壁に近づくとその太い腕を壁に打ち付ける。
すると硬い岩盤は砕けて、砕けた岩と一緒にナイトゴブリンが落下する。
地面に強く体を打ち付けて苦しむナイトゴブリン達をゆっくりと踏みつぶしていくトロル。
しかしそれも長くは続かなかった。
マノック達に暗い広間の中で閃光と砲撃音が聞こえた。
それは広間の一番奥の壁際からの砲撃だった。
発射された砲弾はトロルの顔面に命中し、激しい爆発を広間中に轟かせる。
先ほどまで逃げ惑っていたナイトゴブリン達から歓声が上がる。
先頭のビッチ姉妹のガレアス号の探照灯が閃光の場所を照らし出す。
するとそこにはガンボート級の小型陸戦艇があり、その主砲である40㎜砲を操作しているナイトゴブリン達を照らし出した。
砲座に入っていたソニアがすぐに20㎜機関砲弾をその40㎜砲座に叩きこむ。
20㎜砲弾は砲座の防盾を突き破り、操作員であるナイトゴブリン達をなぎ倒す。
ナイトゴブリンは悲鳴を上げながら逃げ惑うのだが、逃げ込んだ先に新たなガンボートがある事を探照灯が照らし出す。
ナイトゴブリンの何人かはすでに砲座に入っているのだが、発射準備に手間取っているようで、重そうに砲弾を2人がかりで装填しているところだ。
そこへ再び20㎜機関砲が掃射する。
数発発射したところでその砲座は動くものがいなくなる。
気が付けばトロルはというと、壁に寄り掛かったまま虫の息となっている。
顔面の直撃を受けたのだが、もはやそれが顔だったのかもわからないほどになっている。
しかしさすがトロルである。
ゆっくりと傷が再生している。
砲撃はなくなったのだが、今度は銃弾が探照灯めがけて飛んでくるようになる。
ナイトゴブリンの体格では人間サイズのライフルは反動が強すぎて撃つことが出来ない。拳銃に関しても小口径の反動が比較的少ない拳銃しか扱えない。しかしそれを使っても反動が強くて当てられないのがナイトゴブリンだった。
通常はゴブリンが作ったゴブリン用のライフル銃や拳銃を使用するのだが、彼らにそれはなかったようだ。
そしてビッチ姉妹のガレアス号が遂に広間へと侵入していく。
マノックも俺の陸戦艇Ⅰでその後に続いて侵入していく。
広間に侵入するとまだ止まぬ戦いの最中に、マノックは大きめの『ライト』の魔法を天井近くに出現させる。
その明るさは広間の中を明るく照らし出した。
驚いたナイトゴブリンの生き残りは、壁にいくつも空いた横穴に逃げ入って行く。
そこへ俺の陸戦艇Ⅰの船尾15㎜重機関銃とガレアス号の20㎜機関砲が、手当たり次第に穴の中へと弾丸を叩き込む。
15㎜の弾丸は横穴の中を跳弾して奥に潜むナイトゴブリン達を肉片へと変える。
20㎜砲弾は狭い穴の中で爆発して、爆風と衝撃によりナイトゴブリン達を殲滅していく。
もはや虐殺となっていたのだが、そこへガレアス号に向かって火球が飛んできた。
ソニアがいち早くそれを察知したのかレベッカに緊急回頭を指示するのだが、時はすでに遅く火球はガレアス号の側舷に命中した。
火花が広範囲にまき散って、乗っていた奴隷ゴブリンとビッチ姉妹にも火の粉が降り注ぐ。
「奥からファイヤーボール攻撃ですわよっ、応戦!」
レベッカの叫びにソニアが20㎜砲身を徐々に旋回させていく。
「ここからだとガレアス号が邪魔して攻撃できねえっ」
ガレアス号の影で火球の発射元に攻撃できないとマノックが悔しがる。
その代わりにガレアス号越しに探照灯で奥の洞窟を照らす。
すると今度は洞窟の奥から一斉射撃が始まった。
マノックは叫びながらも慌てて物陰に隠れる。
「全員隠れろ、退避~」
弾丸の威力はかなり弱いようで、俺の陸戦艇Ⅰでも耐えることができている。
拳銃弾のようだ。
そこへ船首37㎜砲座のレベッカが耐えきれずに引き金を引く。
37㎜砲弾はガレアス号の20㎜機関砲座をかすめて洞窟の奥へと飛び込んで行く。
そして奥で炎の魔法が発動して火柱で明るく照らし出される。
20㎜砲座にいたソニアが後ろに顔を向けて不満そうな表情で舌打ちをした後、再び20㎜機関砲を洞窟奥にぶち込み始める。
洞窟の奥では20㎜砲弾の爆発でナイトゴブリンが次々に倒されていく。
銃撃が弱まるとガレアス号が洞窟の奥へと速度を上げて突撃していく。
その洞窟の奥は30mほど進んだ後、右へと90度に曲がって20mほどで再び広間があり、そこで行き止まりのはずであった。
ガレアス号は20㎜機関砲を撃ちながら最奥の広間へと突入していく。
広間に到着するとやはりそこでは投げ槍攻撃が始まった。
ビッチ姉妹はゴブリンに探照灯に付かせると、自分達は艇から降りてソニアは拳銃で、レベッカは短機関銃でナイトゴブリン達を追いかけまわす。
後から追い付いたマノック達は、探照灯の明かりに照らされる可哀そうな光景を見ることになる。
それを見てしまったミルが思わず声を上げる。
「やめてぇぇっ、可哀そう!」
その声により、ビッチ姉妹の動きは止まる。
「はい、そうですわね。これくらいで勘弁してあげましょうか」
ソニアがそう言って動きを止めると、その意味が分かったのかナイトゴブリン達が次々に手を上げて投降する。
それはすべてミルの方に向かってだ。
トロルも先ほどの洞窟の敵を倒しきったようで、マノック達のいる広間まで来たところで異界へと戻って行った。
マノックは洞窟内での戦闘ということで、あらかじめ付けていた耳栓を外しながらポツリとつぶやく。
「終わったな」
そしてマノックは改めてライトの魔法で今いる広間を照らし出す。
そこで照らしだされたのは、何隻かのガンボート級の小型陸戦艇と、壁に掘られた無数の住居らしい穴だった。
こうして20人近くのナイトゴブリンが捕虜としてマノックの手中に収まる。
そしてビッチ姉妹はわざわざポーションを使ってまで治療して、6人の捕虜を召し取っていた。
捕虜のナイトゴブリン達を長い棒に縛り付けながらソニアがぼやく。
「2人のゴブリン奴隷を潰されたからには最低でもその3倍の捕虜を取らないと納得いきませんからね。これでも足りないくらいですわ」
ちなみにビッチ姉妹の捕虜6人の中には、火球を放ったナイトゴブリンが含まれている。魔法が使える同胞をゴブリン達はシャーマンと呼んでいる。
「鹵獲された人間仕様のガンボートが何隻もあるって事は、どうやらこの洞窟に入って来た砂人を襲っていたって事か。元々いた魔物はこいつらに食いつくされたってとこかな」
マノックはソニアの言葉は軽く聞き流してしゃべり続ける。
「折角の休暇なのにこれだもんな。どうするよ。休暇が余っちまうぞ」
ミルが少し悩んだ後「美味しい物が食べたい」と提案。
その意見に他のメンバーも賛成し、近くの街へと立ち寄ることとなる。
「引っ張っていける陸戦艇に捕虜は乗せて行くぞ。それと使えそうな物は忘れずに船倉に入れておけよ」
マノック達が手に入れたのは多数の修理用物資に、生前の人間が保持していた武器やお金、そして修理すれば動きそうなガンボート級が2隻、そして捕虜が20人だった。
一方ビッチ姉妹は6人の個人捕虜の他に、引っ張って行くのもやっとのガンボート級が1隻だ。マノックが置いて行こうとしたのをビッチ姉妹が拾ったものだ。
こうして陸戦艇を牽引したマノック達船団は、近くの街を目指して砂海を行くのだった。
読んで頂きありがとうございます。
今後ともよろしくお願いいたします。




