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92話 スケルトンになったゾンビを倒せ



「轟雷」


 マノックが轟雷魔法を発動させた。


 雷鳴が響き空から一筋の稲光が地雷原に落ち、まるで1本の線を引くかのように稲妻は地面を移動する。


 すると地雷が次々に爆発していく。


「よし、ソニアにレベッカ、道を作ったから頼むぞ」


「レベッカ、行きますわよ。マノック男爵、援護はお願いしますわね」


「ああ、任せろ」


 ビッチ姉妹は短機関銃を構えながら、地雷の爆発でデコボコになった場所を小走りで進んで行く。


 そして司令部の建物まであと20mというところでビッチ姉妹は立ち止まる。


 そして低い姿勢で短機関銃を構える。


 それを見たマノック達も狙いを定めようとするのだが、建物の銃眼はいくつもありどこへ狙いを付けていいのか銃口が定まらない。


 そこへあるひとつの銃眼目掛けて、ビッチ姉妹は短機関銃の弾丸を叩き込み始めた。


「あそこかっ」


 マノック達もビッチ姉妹にならって弾丸を叩き込み始める。


 しかしそれはすでに遅し。


 マノック達が撃ち始めた時にはビッチ姉妹はすでに撃ち終えた後であり、銃を背中に担いで建物に近づき始めたところだった。


「なんだ、俺達の出番ねえじゃねえか」


 マノックは若干ふて腐れたようにつぶやくと、立ち上がって司令部に向かって歩き出すのだった。


 司令部に到着すると、まだ建物の中には数対のゾンビが徘徊しているらしく、内部の探索とともにそれらを逐次順滅していく。


 その掃討に約2時間も費やすこととなる。


 ため息をつきながら指令室の椅子にドカッと座るマノック。


「ふ~、意外と疲れたな。動きは鈍いけど武器を使ってくるのは面倒くさかったよな」


「マノック男爵、夜には戻るのですからさっさと探索を済ませましょう」


「おお、それもそうだな。裏の水源に行くか」


 ソニアの言葉にマノックが腰を上げる。


 司令部の建物の裏手には、頂上方面へ向けて1本の細い道路が伸びている。


 その道路を歩いて頂上を目指す。


「かぁ~、まだ歩くのかよ」


 マノックのぼやきにハンス・ラルが答える。


「マノック男爵、地図によると後5分くらいだと思いますから、もう少し頑張ってください。女性2人も文句言わず歩いてるんですから」


「いやな、歩くのはいいんだがな……」


 マノックが持っていた空になった水筒を逆さにして振って見せる。


「ったく、しょうがないですね」


 ハンスが自分の水筒をマノックに差し出す。


「いや、水はあるんだよ――なんというか、その、違う水だな」


「へ? もしかしてお酒持ってきて飲んでたんですか……」


「い、いやね。いつもと違って軽めの酒を入れてきたもんでね。つい、そのね、ぐいぐいといっちゃってね」


「男爵! そんなの我慢してくださいっ!!」


「ううう、わーった。我慢するよ」


 そこで先行していたビッチ姉妹から声を掛けられる。


「マノック男爵殿、どうやら到着したみたいですわね」


 頂上には石造りのトーチカのようなものが建ててあった。


 その頂上まで上り詰めた一行は驚きで声を詰まらせる。


 その建物のすぐ後ろには大きな噴火口の跡らしき大穴が空いていたのだ。その噴火口は高さ10mほどの崖で囲まれていて、広さは直径100mほどの大きさがある。


 ただ、それ位では誰も驚かない。


 彼らが驚いたのはその噴火口跡の中には池があり、畑が広がっていたからだ。

 しかし畑の農作物はすべて魔力溜まりの影響で巨大化している。そしてその中の巨大化した麦の陰に、1体のゾンビ化したホブゴブリンがひっそりとたたずんでいた。


 そのホブゴブリンの手には軽機関銃が握られている。


「伏せてください、凄いのがいますっ」


 いち早くハンスがそれに気が付き皆に注意を喚起する。


「え、凄いのって酒か?」


 マノックの疑問にハンスが指差して答える。


 マノックがその指差す方向に目を向けると、そこにはこちらを見るゾンビホブゴブリンの視線があった。


「うわっ、やっべ。目が合ったぞ!」


 マノックがそれを口に出した突端、ゾンビホブゴブリンが持っていた軽機関銃が火を噴いた。


 マノックも遅れながらも慌ててその場に伏せる。


「くっそ、軽機関銃なんか持ってやがるのか。またやっかいな物を……」


 弟のヘルマン・ラルが様子を見ようと顔を出す。

 すると即座に弾丸が放たれて、再び顔を引っ込める。


「ひゃ~、顔も出せないですね。でも奴は10m下にいますから地の利はこちらが有利です」


「そうだな、ラル兄弟はあそこにある岩のところから援護してくれ。ソニアとレベッカが逆側のあの木の下から援護、よし、行けっ」


「「「「了解」」」」


 マノックの指示により右方面にラル兄弟が、左方面にビッチ姉妹が移動する。


 そして合図と共に3方向から一気に射撃を開始する。


 ビッチ姉妹とマノックは短機関銃で、ラル兄弟はライフル銃で猛射撃を繰り返す。


 この猛射撃によりゾンビホブゴブリンは撃ち返す事が出来ず、軽機関銃を杖代わりにして立って銃弾に耐えているのがやっとだった。

 

 短機関銃の弾丸はゾンビホブゴブリンの肌に当てってはその腐敗した肉片を飛び散らせ、ライフル弾はさらに広範囲の肉片をこそぎ落としていった。


 しかし倒れる様子がなく、耐えたまま時間と弾丸が消費されていく。


 最初に弾切れを報告してきたのはビッチ姉妹だった。


 続いてラル兄弟も弾丸が残り少なくなったと報告。


「銃弾じゃダメみてえだな。しょうがねえ、最後の1本をお見舞いするか」


 マノックは腰に挿してあった柄付き手榴弾の点火紐を引き抜くと、ゾンビホブゴブリンへと投げつけた。


 投げた柄付き手榴弾はクルクルと回転しながら飛んでいき、ゾンビホブゴブリンの頭にコーンと音をたててぶつかかりその頭上で火炎魔法が発動した。


 あっという間にゾンビホブゴブリンは炎に包まれて見えなくなる。


 炎の熱によって軽機関銃の弾丸がパンパンと音をたてて暴発を始める。


 しばらくするときれいに骨と化したホブゴブリンが、軽機関銃を杖にしたそのままの状態で立っていた。


「よおし、下に降りるぞぉ」


 マノック達は噴火口跡である下へと降りていく。


 そして巨大化した麦畑の間を縫って骨と化したホブゴブリンのところまでやって来た。


 それを珍しそうに見つめるビッチ姉妹。

 視線はやはり一点を見つめて離さない。


「なあ、見るとこってそこしかないのか、お前達は」


 マノックの呆れ言葉にレベッカが返す。


「轟雷殿、逆にどこを見ろと言うんでしょうか?」


「それはこの年代ものの軽機関銃に決まって――」


 マノックがそう言いかけた時、骨が突如動き出した。


「危ないですわよっ」


 誰よりも早く反応したソニアが護身用の回転式拳銃で頭蓋骨に9㎜の弾丸を2発撃ち込む。


 しかし「カツカツーン」という音を発してその弾丸は跳弾する。


「ちっ、下がりなさいレベッカっ」


 そしてなおもスケルトンと化したホブゴブリンは止まらない。

 持っていたボロボロになった軽機関銃を棍棒代わりにして大きく振りかざす。


 そこへ今度はハンス・ラルが抜刀して切りかかり、弟のヘルマン・ラルがライフルに付けた銃剣で切りかかる。


 しかしこの攻撃も「キィィン」という音を発して跳ね返される。


 そしてスケルトンの軽機関銃が振り下ろされる。


 レベッカがこれをかろうじて躱す。


 重さ12㎏以上もある軽機関銃が地響きを発して地面に突き刺さり、小石や砂を撒き散らした。


 そこへ横からひょこっと笑顔でマノックが現れる。


「お・し・ま・い・だ」


 マノックの手には愛用の大型拳銃の「スピリット」が握られていた。


 拳銃の発射音とは思えない轟音が響いて対魔物用弾丸が発射される。

 スケルトンと化した頭蓋骨にその弾丸がめり込むと、呪符されたエクスプロージョンの魔法が発動する。

 

 通常の拳銃弾の大きさでは不可能な呪符も、この大型拳銃の専用弾丸では可能にしていた。


 頭蓋骨に食い込んだ弾丸が小さな爆発を起こすと、辺りに骨の破片を飛び散らせる。


「いてててててっ」


 至近距離からの発射で、その破片を自ら浴びて苦しむマノック。


 頭蓋骨を破壊されたスケルトンは、カラカラとその場に崩れ落ちていった。


「やっぱり護身用の武器はこういうのを持たなくちゃねっ」


 マノックが愛銃を掲げて自慢げにしゃべるのだが、ソニアにすぐに反論される。


「お言葉ですかマノック男爵殿。それは護身用ではなくて、明らかにメインウェポンですわよね?」


 さらにレベッカからも追撃の言葉を浴びせられる。


「そうですわよっ。だいたいなんで初めからその大型武器を出さないんですかっ。隠しておくなんてひどいですわよ」


「い、いや、まて。隠してた訳じゃねえから。これはあくまでも護身用として堂々と腰に吊り下げているから……」


「だからそれは護身用ではないですっって言ってるではないですかっ。さっきの話聞いてましたか?」


「は、はい、すいません……これはメインウェポンですね……」


 こうなってくるとさすがのマノックも言い負けしている。

 ラル兄弟は火の粉が自分達に降りかからない様に、辺りを探索しているフリをする。


「ちゃんと謝ってくださらないかしら」


「はい、すいませんでした……」


「他にまだ隠してるでしょう、お出しなさい」


「いえ……な、何も隠してはおりません、ほんとすいません……」


「うそおっしゃい! それじゃあそのズボンを脱いで証拠を見せなさい、このクソ虫が!」


「はい……なんか分りませんが……クソ虫ですいません……」


ドンッ、ドンッ!


 マノックがズボンをずらし始めた時、俺の陸戦艇Ⅲから「時間が来たから帰れよ」の合図の号砲が鳴り響く。


 その音を聞いたソニアが舌打ちする。


「ちっ、もう少し……」


「あ、今舌打ちしたよね」


「轟雷殿~、時間の様ですから帰らないと。急ぎましょうか!」


「うううむ、なんか次の言葉が出ないんだが……なんか騙されそうになったような、号砲に救われたような」


 そこへハンス・ラルが近づいてきて耳打ちする。


「マノック男爵、そこ、考えたら負けです」




 マノックはブツブツと文句を言いながらも、帰る準備を整えてその場所を後にした。


 その時巨大化した麦を数本担いで持って帰ることも忘れない。植物由来の食べ物は高価であるからだ。

 この巨大化した麦1本から何十食ものパンが作れる。


 また、麦以外にも巨大化した芋類や豆類、そしてビッチ姉妹は巨大なキノコを無理して担いで帰るのだった。


 それら大量の荷物の為に、陸戦艇に戻る頃にはアンデットが活発化する日没ギリギリであった。









読んで頂きありがとうございました。



最近ビッチ姉妹の出番が多くなっています。

本当はミルやレラーニの2人のヒロインが活躍するはずだったのだが、ビッチな姉妹がなぜか出て来てしまいます。

ただ、エリスとビッチ姉妹は合わせてはいけないという事は、薄々わかっております。

きっと世界が崩壊します……




今後ともどうぞよろしくお願いします。



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