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9話 隠し扉に少女は眠る




 徐々に砂塵と砲煙が沈静化し、視界がはっきりとしてくる。


 そして視界がはっきりとした時、そこには上半身がなくなったスコーピオンマンが、砂海の上に下半身だけでたたずんでいた。


「スコーピオンマン確認…撃破、討伐完了!」


「「「おおおおお!!」」」


「スコーピオンマンの素材回収は後回しだ、先に小型輸送艇を確認する。だけど気を付けろよ、まだ魔物が潜んでいる可能性もあるぞ。戦闘態勢のまま接近する」


「了解、小型輸送艇に接近する」


 マノックは再び見張り台に登り小型輸送艇を観察し始める。


「マックス、一応散弾を装填しておいてくれ」


「了解です、散弾装填します」


「パット、左舷から微速接近してくれ。左舷の船倉の扉が開いてたはずだ」


「よ~そろ~、接近します」


 陸戦艇は小型輸送艇の後方から左舷に回り込みつつ、ゆっくりと接近していく。


 すると確かに左舷船倉扉が破壊されており、そこからスコーピオンマンが脱走したようであった。


「どうやら大丈夫そうだな。レフは船尾15㎜重機関銃の砲塔に入ってくれ。俺は輸送艇に乗り込むから援護を頼む」


「はいよ、援護するよ」


「マックス、輸送艇への乗り込み準備しろ、俺について来い」


「了解です…ま、魔物いませんよね、さっきみたいの」


 最年少乗組員のマックスはビビりぎみだ。


「ちゃんと対魔物用グレネードも持っていけよ、それとライフル銃も忘れるなよ」


「わかりました、重装備で行きます!」


「マノック艇長、小型輸送艇33型に接近、停船します」


 マノックは防具とお気に入り銃と、各種ポーション類をもって戦闘準備を終えた。


「それじゃあ乗り込むぞ、マックス行くぜ!」


「りょーかい、なんかドキドキします」


 マノックとマックスは、小型輸送艇の左舷にに開いた船倉扉から船内へと侵入する。


 現在船体は砂海に着底している。つまり動力源はカットされている事を意味して船内は真っ暗だった。


 マノックは空中に魔法陣を描き始め、それが完成すると魔法陣が一瞬輝きすぐに消えるのだが、代わりに光の球がマノックの上に現れ、辺りを明るく照らし始める。


 初級に類する『ライト』の魔法、言ってみれば稲妻系の低位魔法だ。


 船倉内が明るくなると、そこには大きなおりが2つ固定されていた。


 1つは鍵が壊されており、扉が開かれている。


 もう一つはというと檻は健在であり、しかも中には魔物が一体生きたまま鎖でつながれていた。


 その魔物とはやはりスコーピオンマンだ。


「魔物がまだ一体いるみたいだな、繋がれているらしいが一応警戒はしておけよマックス」


「はい、マノック艇長」


 マックスは構えたライフル銃を強く握りしめ、初弾を装填していない事に気が付き、慌ててボルト操作をして発射準備をする。


「船倉には人影は見当たらないな、マックス、船室をチェックするから後ろから援護してくれ、ビビッて俺を撃つなよ」


「はい、だ、大丈夫ですよ! 援護くらいちゃんとできますから!」


 1時間ほどかかり、全部を調べ追わるが人影はなかった。


 唯一それらしいのがあったのは、甲板の上で食い荒らされた肉片の数々だった。


 マノック達は甲板上に立つと、辺りの散らばった肉片を見ながら、この輸送艇を奪ったのはゴブリンだと考える。


「この食われた奴らはゴブリンだな、少なくとも人間のではないよな。緑色の肌をしているし、血が赤緑色をしている」


 緑色の肌に赤緑色の血液というのは、ゴブリンの類かオークの類しかいない。


 その中でも盗賊をやるのは大抵ゴブリンだ。


 ゴブリンというのは知能が低く、戦闘的であって、不器用な種族であり、人型種族のなかでも基本能力すべてで他の種族よりも劣っていると考えられている。


 彼等ができる仕事というのは非常に少なく、結局盗賊に落ちぶれてしまうのだった。


 可哀そうといえばそれまでなのだが、この世界で生き残っていく上で盗賊という職業も、れっきとした仕事として成り立ってしまうのもまた事実であった。


「さてと、キースを連れて来てこの輸送艇を動かせないか調べないとな。最低でも浮かせることができないと持って帰れなくなるからな。マックス、キースを呼んできてくれるか」


「了解です、呼んできますんでちょっと待っててください」


「ああ、頼むよ」


 マックスは足早で『俺の陸戦艇』に戻っていった。


 マノックはキースが来るまでの間、旨い酒でもないかと船長室に向かい、その部屋の前に立つと扉を開ける。


 船長室は『俺の陸戦艇』と比べると格段に広いちゃんとした部屋であった。


 中に入るとベットとテーブルと棚が1つあるだけなのだが、先ほど来た時には生存者がいないか確かめるために来たのであって、酒を探しに来たわけでもなかったので誰もいないと分るとスルーした。


 しかし今回の目的は『酒』だ。


 しかも旨い酒だ。


 マノックは念入りに探し始める。


 まずは棚にお決まりのようにワインが1本置いてあったのを頂く。


 他に隠し棚に高級ワインを隠したりしてないか念入りに探す。


 マノックにとってはお金よりも酒が重要なのだ。


 壁に隠し金庫がないか探していると、壁に違和感を発見する。


「ん、うっすら継ぎ目があるなぁ。ちょっとここ怪しいかな」


 マノックは壁を手の甲でトントンと叩きだし、音が変わるところを見極めだした。


 ざっと怪しい壁を調べ終わると、腰の銃を抜いて銃の回転シリンダーを対魔物用の弾丸の位置に切り替える。


「この辺かな…」


 一見なにもない壁に向かって、マノックの愛銃『スピリット』の引き金を引く。


 銃口からは対魔物用で使う強力な弾丸が発射された。


 ドン!


 その反動はものすごく、マノックは両手で抑え込みながらもなんとか制御した。


 轟音が部屋中に響き渡り壁には大穴が空き、その大穴が空いた壁が扉のようにゆっくりと開き始めた。


「見つけた! 隠し倉庫」


 マノックは壊れた扉を強引に開けきると、隠し倉庫に入り込む――いや、入り込もうとして固まった。


 隠し倉庫と思われる狭い部屋の中に、1人の少女が倒れていたのだ。


「はあ、なんでこんなところに…銃撃で気を失ったか、怪我は…してないようだけど一応…」


 マノックは少女の上半身を起き上がらせると、持ってきたヒールポーションを飲ませる。


 緑色の長い髪の毛をしていて、年齢は15歳くらいだろうか、まだ若干幼さが残る。


「種族はなんなんだ? 獣人? いや違うな、尻尾があるんだけど耳は人間の形だしなぁ……まさか……特異種か!」


 マノックは少女を背負い、隠し倉庫から漁ってきた高級ワインにエール各種と値打ちがありそうな剣をもって、甲板に上がって行った。


 そこにはキースとマックスがライフル銃の準備を済ませて、船内に入ろうとしているところだった。


「ああ、どうした? 何かいたのか?」


 マックスは背中の少女を甲板の隅に下ろしながら、戦闘準備を整えた2人に質問する。


「あれ?マノック艇長、さっき銃声がしたんですけどマノック艇長じゃなかったんですか……って誰ですその女の子は?」


キースが船室に降りかけた階段が出て来て返答するも、視線はマノックが甲板の隅に寝かせている少女だった。


「マノック艇長、もしかして隠し子いたんですか、さすがです!」


 マックスは大盛り上がりで、しかも冗談には聞こえず、『さすが』って何?と突っ込もうとするマノックだが、そこはぐっと我慢する。


「この状況で隠し子ってのも……まあそれもどうでもいいか。ええとだ、船長室の隠し倉庫にひそんでいたんだよ。扉を開けるときの銃撃で気を失っちまったよでな、とりあえず連れてきたんだがな、見ての通り普通じゃない種族の可能性もある」


「普通じゃないってどう言う事ですか?」


 マックスが真っ先に質問した。


「ああ、特異種の可能性もあるってことだ。ま、この状況だと敵か味方なのかも分らないからな。とりあえず『俺の陸戦艇』に連れてって監視しようか」


「そうですか、分りました。俺は機関室に行って動力源が生きてるか調べます」


 キースはそう言うと、機関室へと続く階段を下りて行った。


 マックスもキースの手伝いで機関室へと行ってもらい、マノックは再び少女を背負うとやれやれといった感じで陸戦艇へと戻るのだった。


 俺の陸戦艇に戻ると、またしても背負っている少女について冗談とも本気とも取れる言葉を投げかけられる。


「マノック艇長お帰りなさいね、あれ、新しい少女奴隷ですかね、しかしそんなロリ趣味が…」


「あ、戻ったんですか…艇長、女に相手にされないからってさらってくるのはどうかと…」


「あまえらな、だいたい予想はしていたがなあ、さすがの俺も泣くぞ! しかも号泣するぞ!」


「「めんどくさそうだな」」


「おおおおいっ、そうじゃねえだろう!」


 まるで冗談でやってる会話ののようだが、はたしてどこまで冗談なのか。

 

「んんん…」


「お、起きたようだな、下ろすぞ。何か下に引いてくれるか」


 いち早くレフが布を甲板上に引いてくれる。


 その布の上に背負っていた少女をゆっくりと下ろして寝かせる。


 少女はうっすらと目を開け始める。


「ここ、どこ?」


「やあ、目を覚ましたみたいだな。ここは小型輸送艇を奪い返しに来た陸戦艇の上だよ」


「あなたはだあれ?」


「俺はマノック、これは俺の陸戦艇なんだよ。君はなんであの輸送艇の隠し倉庫にいたんだい? 名前は?」


「わたしは……」


 この後、少女と会話をしてみて初めてこの子の純粋さを思い知ることになる。


 質問するとなんでもしゃべってしまう、まるで人を疑うことを知らない様だった。


 こうしてマノック達はこの少女の秘密を知ることになるのだった。







読んで頂きありがとうございました。


週2~3回の投稿目指していますので、今後ともよろしくお願いいたします。

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