84話 ビッチは迫撃砲弾に何を見た
マノックが乗るマザーシップ2番艇から「雷空」作戦開始の信号が送られる。
時を同じくしてガンビア正面に対峙していたラッセニア街軍が時間通りに動き出す。
ついにラッセニア街軍とガンビア街軍も正面からぶつかることになる。
ラッセニア街軍は動き出してすぐに、突撃艇を発進させる。
といっても大型陸戦艇に対する有効な武器は搭載していない。何隻かが57㎜速射砲を搭載しているのだが、せいぜいデストロイヤークラスまでにしか効果は期待できない。
といってもガンビアに残された陸戦艇のほとんどはフリゲートやコルベットの小型のものだ。
それならば小口径の砲でも当たり所によっては有効な打撃を与えられる。
ラッセニア街軍の突撃艇は敵の砲撃の雨を掻い潜って、その有効打を与えられるであろうフリゲートやコルベットに向かって突撃していく。
それに対抗するかのようにガンビア街軍からも、なけなしの巡視艇を出撃させる。
ラッセニア街軍とガンビア街軍の中間くらいの地点であろうか、双方が正面からぶつかり合った。
速度と数で上回るラッセニアの突撃艇に対して、そこそこの防御力と複数の武器を搭載したガンビアの巡視艇が激しい銃砲撃を繰り広げる。
その時、初撃で多くの被害を出したのはラッセニアの突撃艇だった。
双方が猛射撃をしながらすれ違うと、防御などないに等しい突撃艇が次々に炎を吹き出しながら隊列から離れていく。
敵巡視艇も何隻かが被害を出しているが、圧倒的に突撃艇の方のダメージが大きい。
しかしラッセニアの突撃艇はその攻撃にも怯まずさらに前へと進む。
彼らの標的は巡視艇などではなく、あくまでも陸戦艇だ。
突撃艇は4隻単位でそれぞれの目標に対して攻撃を掛けるようで、その中の1つの部隊が砲撃を掻い潜って搭載している砲の射程内に捕えた。
この部隊は唯一最新式の57㎜速射砲を搭載している突撃艇であり、他の部隊はすべて古い型の37㎜~47㎜砲であった。
ラッセニアの中でも精鋭部隊のようで、こなれた動きで回避と射撃を繰り返す。
標的となっているフリゲートは57㎜砲の反復攻撃で、徐々に傷ついた船体から煙を吐き始める。
船体に赤いラインが入ったちょっと目立つ突撃艇が、そのフリゲートの船尾に回り込む。この部隊の隊長の乗る指揮艇らしい。
どうやら船尾にある機関部に、57㎜砲弾の直撃を浴びせようというのだ。
そしてピタリと船尾に張り付き狙いを定めた時だった。
激しい衝撃がその指揮艇を襲う。
20㎜クラスの機関砲弾が船体に命中したらしい。右舷の外板が大きく破壊されている。
「くそっ、どこから撃ってやがる!」
標的にしているフリゲートには後方に向かって射撃できる機関砲など搭載されていない。目の前のフリゲート以外からの攻撃というわけだ。
しかし周りにはフリゲート以外は城壁があるだけだ。
隊長はキョロキョロを辺りを警戒しつつも回避行動に移る。
「あそこか!」
隊長が見つけたのは高さ20mはある城壁の最上部にある機関砲塔だった。
その高位置から20㎜弾を喰らったのだ。
そしてさらに逃げる指揮艇の後を追う様に20㎜機関砲弾が飛んでくる。その20㎜砲弾も右舷船体に吸い込まれていく。
再び激しい衝撃が指揮艇を襲う。
20㎜弾が弾着してすぐ火災が発生。
「もはやこれまで……」
隊長は弱ったエンジンに魔石燃料の過剰投与を試みるため、燃料コックを解放した。
するとエンジンは即座に唸りを上げて速度を増すのだが、風にあおられて炎も激しさを増す。
そして隊長の乗る指揮艇はフリゲートの船尾へと突っ込んだ。
その刹那、隊長艇の魔道エンジンは魔力暴走を引き起こして大爆発を起こした。無論、敵フリゲートもそれに巻き込まれて船尾を喪失、砂海に船底を横たえた。
それは執念の撃沈であった。
この突撃部隊の奮闘で、フリゲート2隻撃沈、コルベット1隻中破、デストロイヤー1隻小破という戦果を上げた。
だがこの攻撃で突撃艇の半数を失うという被害を被ることとなり、その代償も小さくはなかった。
ちょうどその頃、ロックランド街軍のデストロイヤー2隻が船体損傷を装って、ガンビアへと接近していた。
ラッセニア街軍が戦う戦場とは反対側、裏門と呼んでいる場所だ。
混乱に乗じて接近して、なんとか門を開けさせようという作戦だ。
人間の街だとそう簡単に門を開けるはずもなく、下手をすると接近する前に城塞砲を喰らって撃沈させられる。
一か八かに近い作戦なのだが、ロックランド街軍のゴブリンの兵士曰く「いやあ、開けてくれると思いますよ」と誰もが答えた。
「門を開けない理由ってなんですか?」という者や「なんでその場面でゴブリンの陸戦艇を攻撃するんですか?」という意見まで続出。
全くもってゴブリンの思考が分らない。
ただこれを聞いたマノックは、ゴブリンだけの見張りはヤバいなと心の中に留めるのだった。
そしてゴブリン達が言ったように、いとも簡単に2隻は裏門まで接近する。ここまで城壁に接近すれば、城壁に設置された城塞砲の射界から外れる。
あとは門を開けさせるだけなのだが、そこで問題が発生した。
門番と思われる敵兵士と信号でやりとりしているのだが、この街で作られた陸戦艇ではないと言って開けるのか開けないのか混乱している様子だ。
確かに目の前にあるデストロイヤーはゴブリン製であり、乗組員もゴブリンが見受けられる。しかしガンビアで製造したものではない陸戦艇が今このタイミングで来た事に悩んでいるらしく、結局は上官に連絡するからしばらく待てと言われてしまう。
彼らは少しゴブリンを舐めていたのかもしれない。
門が開けられなければこの作戦は頓挫してしまう。
艇内に隠れているゴブリン以外の種族は、いつでも攻撃できるように準備だけはしている。しかし射撃レバーに手をかけながらも乗組員達の緊張状態は続く。
そこへ雲の切れ目から突然、空を飛ぶ魔物達が現れた。
突然の襲来にそれを攻撃する者はいない。
空飛ぶ魔物達はガンビアの内部に次々と降り立ち、木箱のようなものを地面に置くと再び空へと飛び立っていく。
時折ライフル銃や拳銃の射撃音が聞こえるのだが、空飛ぶ魔物達にはかすりもしない。
そして地面に置かれたその木箱からは一斉にロックランドの陸戦兵たちが飛び出してくる。
小さな木箱だと4人、大きな木箱となると6人ほどの陸戦兵が隠れていた。その木箱がいくつも裏門の内側に置かれていく。
ただ一つの木箱だけは他と様子が違った。
それは少し大きめの木箱であるのだが、蓋が開いて兵士が出てくるのではなく、木箱が中から壊されて茶褐色の肌の亜人が出現した。
しかも木箱に入っていたのはたった1人だけ。
木箱からでるなりその亜人は天高く雄叫びを上げる。
彼は「擲弾者」の2つ名を持つゴブリンキング種である元傭兵であった。
降下してきた陸戦兵達は、それぞれの目標を制圧するためにその場からいなくなるのだが、グレネーダーだけは裏門の監視所へと1人歩いてゆく。
ここへきてやっと監視所のゴブリンが警笛の鐘を鳴らし始める。
グレネーダーは軽く舌打ちをすると、腰に挿してある81㎜迫撃砲弾の1つを抜き取る。そしてそれを右手に持って大きく振りかぶる。
どうやら監視所に向かって投げるらしい。
しかしその重さもさることながら、常人では決して届く距離ではない。
しかし彼は擲弾者の2つ名を持つ。
81㎜迫撃砲弾はいとも簡単に宙を舞い、監視所の窓をぶち破って中へと飛び込んだ。
物凄い大きな爆発のあと、その瓦礫と化した監視所へとグレネーダーは足を踏み入れる。
そして監視所の奥の制御室へと続く金属扉を蹴破ると、中にいたゴブリン兵を素手で叩き潰す。
その時、物陰に隠れていた1人のゴブリンが、そのグレネーダーの背中に向かって拳銃弾を撃ち込んだ。
背中に5発の弾丸が撃ち込まれたというのに、グレネーダーは何食わぬ顔をして振り返る。
そこには弾丸を撃ち尽くしてもまだ、カチカチと引き金を引き続けるゴブリン兵がいた。
「うぜえんだよ、雑魚がっ」
グレネーダーがそのゴブリンの頭の上から全体重をかけて踏みつける。
ゴブリン兵はボキボキと音を立てて言葉を発する事もできずに肉の塊と化す。
そしてグレネーダーは何事もなかったように操作板のところまで歩いていく。
そして機械仕掛けの門の開閉装置である大きな歯車を素手で回し始める。
その操作に合わせて裏門はゆっくりと開いていった。
門が開けばこの作戦は成功にかなり近づく。
デストロイヤーの2隻は港に侵入すると、援護射撃をしながら陸戦隊を次々とガンビアの街へと上陸させていく。
街に侵入した陸戦隊は各々の目標へと部隊を進めていく。
陸戦隊が上陸し終わった一番最後に装甲多脚機が船倉から現れた。砂海から上がると反発石での浮遊はできないので、多脚機の動きが遅くなる。
しかしそれでも多脚というメリットは大きく、市街地を縦横無尽に移動する。
ドワーフが操る40㎜砲を装備した装甲多脚機は、20㎝の要塞砲の攻略に乗り出す。
もう一機のビッチ姉妹の装甲多脚機は街の治安隊の拠点へと向かう。
どちらも陸戦兵を随伴しての移動だ。
ビッチ姉妹が治安部隊の拠点と思われる建物に到着すると、そこではすでに激しい戦いが繰り広げられていた。
そこにいたのは擲弾者だ。
腰にぶら下げた81㎜迫撃砲弾を手に掴むと、それを治安隊の建物へと投げつける。
81㎜迫撃弾は弧を描いて建物の正面の壁に命中。
激しい爆裂魔法が建物の壁を吹き飛ばす。
攻撃の命中を確認するとグレネーダーは仁王立ちで笑い飛ばす。
「ふっはははは、脆い建物だな」
治安隊の生き残りがその仁王立ちするグレネーダー目掛けて銃撃を浴びせる。
その内の1発がグレネーダーの胸の真ん中に命中した。
命中したライフル弾は半分ほどが肉に食い込んで止まる。
弾丸が胸にめり込んでいるにも関わらず、出血さえしない。
「んん?」
そしてまるで刺さった棘であるかのようにその弾丸を指先で引っこ抜く。
その一部始終をビッチ姉妹は多脚機のハッチから顔を出して見ていた。
「ソニア姉さま、見ましたか? あのゴブリンキング」
「ええ、もちろん見ましたわよ。かなりでかいもんぶら下げてやがりますわね」
「やっぱりそれですわよね。さすがソニア姉さまです。目の付け所が違いますわね」
「腰にぶら下げた81㎜迫撃砲弾との区別がつきませんわ。ぜひとも屋敷のコレクションに加えたいですわね」
近くにいる随伴兵達にはその話声が丸聞こえだ。
会話が進めば進むほど兵隊達の表情は難色を示す。
「でもソニア姉さま、あのゴブリンキングは味方ですわよ」
「あら、あら、まあ、まあ、それは残念ですわ。でも味方ならば少しくらいあの[自主規制]な[自主規制]を拝見させてもらえないかしら」
『命を懸けた戦場で何の話してんだ!』
ビッチ姉妹の多脚機に随伴してきた陸戦兵の誰もが思った心の叫びだ。
しかし実際には誰もそれを口にする者はいなかった。
いや、敢えて言葉に出さないだけだ。
口にしたが最後、きっと『もがれる』
この言葉が今ここにいる随伴兵の全員の脳裏を過ぎっていた。
己の股間が何よりも大切なのは皆一緒だった。
こうして戦場での恐怖の時間は過ぎていく。
読んで頂きありがとうございました。
たくさんのブック魔悪ありがとうございます。
誤字指摘もありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




