表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/173

80話 エルフは戦いの火蓋を切った



 出撃した部隊が続々と帰艦していく。

 

 ほとんど先頭に参加しなかった機体も多数ある中、出撃前よりも出撃後のほうが荷物が多くなっている機体があった。


 ビッチ姉妹の機体である。


 戦闘に参加はしたのだが、装甲多脚機の腹の下に搭載した45㎝低進弾は使わずに帰ってきていた。しかしその使わなかった低進弾には、どういう訳か15人のゴブリンの捕虜が縛られていた。


 ビッチ姉妹曰く

「やつらのような小指の先っぽしかない[自主規制]の持ち主など、この巨大な御本尊に縛り付けておけばきっと[自主規制]な[自主規制]になるに違いないですから」

 などと訳の分からない説明をして周囲を悩ませた。


 これで彼女らは何人の捕虜を確保したのだろうか。

 そしてその捕虜はいったいどんな待遇を受けているのだろう。

 それを知る者はビッチ姉妹しかいない。




 ――そんなビッチ姉妹であるが、実はロックランドに戻れば彼女らは邸宅と呼ばれる住居がある。その場所はロックランドでも高級立地の住宅地にある。


 ビッチ姉妹はロックランドに移り住むにあたり、最初からお金を持っていた数少ない裕福層の内の2人だった。


 そのためロックランドでは、他の居住者よりも大きな家を建てていたのであった。


 しかしそのビッチ姉妹の邸宅に関しての噂が絶えない。


 噂では邸宅から時より悲鳴が聞こえるとか、うめき声が聞こえるとか、それらは奴隷を拷問している時の声だとか、まことしやかに陰で囁かれているのだった。


 彼女らは初めから身の回りの世話をする奴隷を数人連れてきており、どれも元犯罪者であるという噂もある。

 

 そんな奴隷達も、長期間ビッチ姉妹が留守にすることがあっても決して逃げ出すことがないという。「元犯罪者や戦犯奴隷であるのに何故?」という疑問がでてくるのだが、その理由に関してもまた尾ひれが付いて噂が広まるのであった――







 出撃していた機体をすべて収容すると、ロックランド街軍とラッセニア街軍が初めてこの地で合流する。


 ラッセニア街軍はヘビークルーザー1隻、ライトクルーザー4隻、大型マザーシップ1隻、デストロイヤー6隻の合計12隻と、補給艇と上陸部隊を乗せた輸送艇が各1隻それに同行している。


 それにロックランド街軍の8隻が加わり、総勢20隻の艦隊となった。

 

 しかもそれにミルの魔物軍勢が加わるのである。


「おいおい、これならガンビアなんかあっという間なんじゃねえのか」


 そう言うマノックは興奮気味だった。


 マノックはラッセニアの指揮官と簡単に作戦の確認をしてから、戦隊を整えてガンビアへと連合艦隊を進めていく。


 いよいよ決戦のために全軍が進行を開始した。


 しかしマノック達は奇襲に近い攻勢を期待していたのだが、実は早い段階からガンビア側でも着々と艦隊を整えていたという事実を知らなかった。

 ラッセニア近郊でミルが魔物の軍勢を整えていた情報を、早い段階から偵察艇で嗅ぎつけていたのだ。


 マノック達の連合軍がガンビアの街へ出した偵察艇が戻ってきた時の情報によりそれを知ることになる。


 ガンビアから偵察艇が戻ったらしく、その偵察内容がマノックの元へ届く。


「偵察艇より情報が入りました。 敵陸戦艇がガンビア付近で集結中です。その数約30隻です」


「30隻だと! くっそぉ、俺達の侵攻がばれてたって事か」


「数が多いんでクラスは定かではありませんが、少なくてもバトルシップクラスもしくはヘビークルーザークラスが確認できただけで5隻は含まれているとの情報です。それらとは別に突撃艇や巡視艇などの小型艇も20隻ほど保持しているものと思われます。さらに魔物が10~20匹ほどいるとの情報も入っています。以上、偵察艇からの報告です」


「わかった、ご苦労」


「はい、失礼します」


 伝令は敬礼をすると踵を返して去って行く。


 マノックは現在マザーシップ2番艇に乗っている。

 なぜかというと、マザーシップならば最前線ではなく後方に位置するからである。後方ならばマノックがいきり立って出撃しにくいだろうという皆の意見だ。指揮官は後方の安全なところで指揮をしてくれれば良いと、皆に強引にこの艇に乗せられたのだった。


 このマザーシップはレラーニ達の精霊隊の母船でもある。


 伝令からの報告を聞いたレラーニは「相手にとって不足なし」と意気込んでいる。


 マノック達の連合軍はガンビアに比べて陸戦艇の数で見劣りする。しかしそれを補うほどの戦力がある。

 ミルの魔物の軍勢だ。

 先の戦闘で数は減っているが、それでも危険等級以上の魔物が100匹近くいるのだ。


 それに加えて2つ名を持つほどのエース級の人材が多数いる部隊だ。


 ミルにレラーニにビッチ姉妹、そしてマノックがいる。さらに上陸部隊の中にはゴブリンキング種である「擲弾者グレネーダー」もいる。


 「この戦力でたかが30隻程度のゴブリンの泥舟に負けるはずがない」と精霊隊のメンバーが口を揃えて言う。


 それに対してマノックは「それもそうだな」と返して、ガンビア侵攻を再開した。


楽観的といえばそれまでなのだが、今更あとには引けないという思いが強い。


 砲撃戦となると数で不利なことは解っているので、戦法としてはやはりアウトレンジでの攻撃を加える。


 速度の速い小部隊で攻撃を加えてまたすぐに離れるを繰り返す。

 敵は街の防衛の為にそこから離れるわけにはいかない筈。

 

 もし小部隊で追撃した来たならば迎撃すればよし。艦隊規模で追撃してきたならば逃げるがごとし。


 あとは敵の出方次第である。


 第一陣がロックランド街軍から出撃する。

 出撃したのは小型突撃艇1個中隊12艇と精霊隊に加えてワスプ部隊をあわせた1個中隊18台。もちろんほとんどが対艦装備での出撃だ。


 時間差をつけて第2陣がラッセニア街軍から出撃した。

 ラッセニアから出撃したのは突撃艇が15隻。37㎜~57㎜の砲しか積んでいないのであまり戦力にはならなそうだが、デストロイヤークラスまでならば十分被害は与えられる。


 ロックランド街軍は第一陣を出撃させるとすぐに移動を開始する。どうやら正面の布陣はラッセニアに任せるらしく、マノック達は迂回するらしい。


 ミル達の魔物軍勢も突撃を始めているのだが、移動速度が遅いため第2陣の攻撃が終わる頃になってから最前線に到着といったところだ。つまり魔物軍勢は実質第3陣の攻撃部隊となる。




 レラーニ達の精霊隊がガンビアの部隊を発見する。


 レラーニが各小隊にハンドシグナルを送る。

 すると精霊隊は小隊ごとに別々の目標へと散って行く。

 彼女らが目標とするのはデストロイヤー以下の陸戦艇である。


 精霊隊の第1小隊から第3小隊までの砂上バイク(サンドスクート)にはタフィーアップルが2発づつ装備されているのだが、レラーニ達のワスプ部隊の機体にはそういった重装備は一切なく、小型の60㎜スピガットモーターさえ装備されていなかった。

 しかし通常フロントに搭載されている7.7㎜機関銃はなく、代りに13㎜重機関銃が装備されていた。


 13㎜重機関銃といえどもさすがに小型のコルベットクラス以上ともなると沈めるのは困難である。

20mm以上の弾頭でないと呪符が難しい為、13mmのような小口径では、単なる質量弾に過ぎない。


 しかしレラーニ達3人の目標は突撃艇などの高速小型艇であったので、13mmという口径でも十分な威力だった。


 こういった小型艇は高速と小回りを生かして小中型陸戦艇にヒット&アウェイを繰り返してダメージを与えてくる。また小型艇同士での戦闘も当然起こるので、それに対応するための装備である。


 砂上バイク(サンドヅクート)の部隊が敵陣に突撃を開始すると、近寄らせまいとしてまずは射程の長い砲撃が襲い掛かる。

 

 回避行動をとりつつ砲撃の合間を縫って接近する。もちろん砂海の形状や岩場などの地形も利用しての接近だ。


 一際ひときわ大きな至近弾2発が砂海に着弾して、爆炎と砂塵を巻き上げる。


 爆風に巻き込まれた2台が横転しながら砂海を滑る。

 操縦していた2人は砂海に投げ出されて砂上を転がる。


「あっ、やられたのか! 第1小隊の2人か……ぬぬぬ」


 レラーニは砂海に投げ出された2人を見て思わずつぶやいた。


 しかし投げ出された2人がなんとか近くの岩陰に退避したのを確認すると、レラーニは眉間にしわを寄せて鬼の形相となってスロットルを開ける。


 レラーニの乗った深紅の機体が、独特の排気音をとどろかせて突出する。


 それに必死についていこうとする部下達2台の砂上バイク(サンドスクート)なのだが、カスタムアップされたレラーニの機体のフルスロットルに、ノーマルの機体で追い付こうというのがそもそも間違いである。


 僚機をグングンと引き離すと、最初に目についた小型ガンボートに照準を合わせる。


 敵艇の機関銃の射程にも入り、小口径の砲や機関銃での迎撃射撃が始まる。


 レラーニはその迎撃もかわしながら、13㎜重機関銃の引き金を絞る。


 1連射をお見舞いすると、レラーニは左に旋回して次の目標を探す。


 13㎜の機関銃弾は小型ガンボートの船尾の機関部に集中して着弾する。着弾の衝撃で破片が散乱し、いくつもの穴が開く。するとすぐさま火災が発生。


 レラーニが次の目標を見つけた頃には、そのガンボートは火災が原因により魔力暴走を起こして轟音とともに爆沈した。



 他の小隊の砂上バイク(サンドスクート)はというと、フリゲートクラスを目標にしてタフィーアップルを発射している。


 しかし精霊隊の被害も甚大だった。


 初めに至近弾の爆風で2台やられて、その後にも6台が戦列を離れている


 救急艇が救護に向かってはいるが、今後本格的な戦いとなると救急艇の数も足らなくなると思われた。


 発足して間もない精霊隊の隊員も猛特訓したとはいえ、実戦経験も少なく機体操作技術もまだ未熟だ。

 そう簡単に実戦で戦果を上げられるほど戦いの世界は甘くはなかった。





 読んで頂きありがとうございました。


 前にも書きましたが、文化レベルは地球でいうところの第一次世界大戦前後という設定です。魔法が実在するので電気などの発達レベルが地球と違います。

 

 また空を飛ぶというレベルの発展は非常に遅れています。


 海や水が少ない世界ですので、それらに関しても発達度や考え方も違っていると思われます。


 その辺の細かい設定も今後突き詰めていけたらと思います。




 仕事の関係で投稿頻度が落ちそうですが、今後とお付き合いのほどよろしくお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ