68話 女王様の怒りにロック鳥は爆発する
「おお、なかなか順調じゃねえか。これなら楽勝っぽい気がしてきたぞ」
ロックランド連合軍が押している戦況に、マノックは余裕を見せる。といっても敵陸戦艇はまだ2隻のデストロイヤーが奮戦している。さらにその後方にはマザーシップが2隻控えているのだ。
そして今だライトクルーザーが所構わず乱射中ではある。
戦況はかなり押している状況ではあるのだが、なぜか苛立ちした様子の人物が一人いた。
女王様である。
自分の陸戦艇であるハニークイーン号の機関銃砲座をお気に入りの部下ごと吹き飛ばされてしまったのだ。エリスが怒り心頭になるのも無理はない。
その怒り心頭のエリスは現在『イーグルアイ』という魔法を使って、巨大な魔物鳥の目と同化してその行く先を見据えていた。
『イーグルアイ』というのがエリスが使える由一の魔法であった。
魔物や動物の目を通して映像が見れるという魔法。残念ながら音は聞こえないのだが、この魔法によってあらゆる場所の秘密を見たり、重要施設などのスパイ行為をしてきたわけだ。
これによってエリスはあらゆる情報に精通しているのであった。
この魔法が使えるという事はエリスの側近の者や、親族しか知らないトップシークレットな内容である。
当然のことながらマノックも知らない。
現在エリスは魔物の巨大鳥の目を通して大空を飛んでいる映像を見ていた。ハニークイーン号に砲撃を撃ち込んだデストロイヤー艇を目指すべく。
この魔物の巨大鳥とは、以前にミルが召喚したまだ子供の『ロック鳥』である。
1匹だけ売らずにとって置き、迫撃砲弾を敵の真上に落とす訓練をしていたのだが、まだ訓練中であって仕上がっていなかった。
つまりは落としたい目標の上に上手く落とせないのだった。
エリスはその訓練不足を補うために、現在『イーグルアイ』を使ってロック鳥を誘導している。
お目当ての敵デストロイヤーのほぼ真上まで来ると、ロック鳥が突然急降下を始める。
それを発見したミルが装甲艇から首を出して空を見上げながらつぶやく。
「あっ、あれ私が召喚したロック鳥ちゃんだ」
その同じ時、マノックも空を見上げていた。
「おっ、あの魔物の鳥は確かミルがエリスに渡した奴だよな。あっ、急降下始めやがった」
急降下するその先には1隻のデストロイヤーがいる。
ロック鳥に気が付いたのか、必死で回避行動をとっている。機関銃も激しく迎撃を始める。
しかし空からの攻撃はあまり想定していないのか、真上に銃口を向けられるほどの仰角をとれる機関銃があまりないらしい。ほとんどの機関銃弾は目標からほど遠いところを飛んでいく。
時折機関銃弾が体をかすめるのだがそんなこともお構いなしに、ロック鳥の急降下速度がグングン上がって行く
「おいおい、あの勢い大丈夫なのか!?」
マノックがそう口にした時、ロック鳥がデストロイヤーの船体中央部に激突した。
一応ギリギリで迫撃砲弾を手放して、切り返したうえで逃げようとはしたのだが、速度が出過ぎていた為それができずに激突したのだった。
そしてロック鳥が掴んでいた2つの120㎜迫撃砲弾に呪符されていたエクスプロージョンの魔法が発動する。
迫撃砲弾の中身は通常の砲弾よりも多くのポーションや魔石粉が入っている。そのため広範囲での破壊力、つまり点よりも面での攻撃力が高い。
2発分の120㎜迫撃砲弾の爆発はデストロイヤーの船体の半分以上を爆炎で包んだ。
その頃ハニークイーン号のブリッジでは、エリスが部下に戦果を確認させていた。
「報告します! 我々を砲撃したデストロイヤー轟沈確実。しかしロック鳥は敵デストロイヤーもろとも……」
報告された内容を黙って聞いているエリスなのだが、口元がわずかに緩んでいた。
「報告ありがとうぉ。ロック鳥は残念だったわねぇ。でもおかげであの憎たらしいデストロイヤーを撃沈できたわぁ」
「エリス様、敵の陸戦艇の数が合いません。どこかにまだ潜んでいると思われます」
「あらぁどういうことかしらぁ?」
「はい、最初にライトクルーザーを含む5隻を確認。そのうち2隻撃沈。その後6隻を発見しまして2隻撃沈です。残りは7隻のはずですが5隻しか確認できません」
「それは困ったわねえぇ。どこに隠れているのかしらぁ」
「現在確認しているのは中破しているライトクルーザー1隻、デストロイヤー2隻、マザーシップ2隻の合計5隻です」
「その情報を皆にも伝えなさいぃ」
「はい、マノック士爵の陸戦艇にも伝えます」
こうして味方の陸戦艇やロックランドには信号で伝わったのだが、動き回っている装甲多脚機や装甲艇や砂上バイクにはそれが伝わっていなかった。
ハニークイーン号が前に進みだす。
それに合わせて俺の陸戦艇Ⅱも前進する。
敵デストロイヤ2隻も前に進んできた。
敵マザーシップは雷神部隊のマザーシップ同様にあくまでも後方待機のようだ。
デストロイヤー2隻が申し合わせたように一斉に主砲の12㎝砲を斉射してくる。
ハニークイーン号と俺の陸戦艇Ⅱの中間あたりに砲撃が集中して着弾し、激しい爆炎がいくつも立ち昇る。
お返しとばかりにハニークイーン号から主砲が一斉射される。
俺の陸戦艇Ⅱからも80㎜連装砲が火を噴く。
お互いの陸戦艇が砲撃した後、次弾装填の為に砲塔内では怒号が響き渡る声と汗の戦闘になる。
いかに命中させるかも重要なのだが、いかに早く多くの弾を撃ち込むかも非常に重要である。
そのため装填手達は力の限りを尽くし、指揮官はそれを鼓舞する。
「ゴブリン共に負けるんじゃないわよ! エルフの優位を見せつけてあげるわよっ!」
ハニークイーン号では乗組員全員が女性である。しかもほとんどがエルフであるがため、力で劣勢を強いられる。重い砲弾を運ぶのは力のないエルフ女性にとっては重労働である。それをなんとか気合でカバーしようというのだ。
反対に筋肉ムキムキの獣人男性で組まれた俺の陸戦艇Ⅱの砲塔内では、非常にスムーズに次弾装填が完了する。
「よおし、てめえら上出来だ! 装填完了!」
どの陸戦艇よりも早く次弾を発射した。
先ほどは大きく外したのだが、今回の砲撃は違った。
先頭を行くデストロイヤーの船首付近に2発とも着弾。大きな爆発を巻き起こし、煙が消えた頃には船首部分を大きく失っているのが確認できた。
そこへハニークイーン号から放たれた砲撃がブリッジを襲う。ちょうど指揮所にあたる場所だ。
指揮所に着弾した砲弾はブリッジの装甲をたやすくぶち破り内部に侵入する。そして砲弾はちょうど指揮所で備え付けの望遠鏡を覗いていた指揮官の足元へ転がる。
そこで遅延魔法が発動した。
一瞬青ざめた表情をするゴブリン指揮官だが、次の瞬間爆風で指揮所も一緒に消し飛んでしまう。
指揮所を失ったデストロイヤーは命令系統が破綻して大混乱に陥る。
その頃になってやっともう一隻のデストロイヤーからの2斉射目の砲撃があった。
しかし砲撃のほとんどは全く見当違いの方向へと飛んで行った。
デストロイヤーが砲撃する直前に3つある砲塔にそれぞれ攻撃が命中したため、狙いが狂ったようだ。
攻撃をしたのはマノック達だ。
装甲艇と装甲多脚機の砲撃とレラーニの魔法攻撃だ。
「はははは、よっしいけるぞこれは!」
マノックは勝ったも同然とばかりに歓喜する。
だがレベッカからの報告でマノックの表情が変わることになる。
「轟雷殿、ロックランドから砲煙が見えますわよ――それと着弾? 砲撃をうけているようですわね。どこからかしら」
「ああ? どういうこった。なんで砲撃を喰らってんだ! そこどけっ!」
マノックは強引にレベッカを押しのけてハッチから這い出す。
するとレべッカが言う様にロックランドが砲撃を受けていた。
装甲多脚機を高台の眺めがよいところに移動する。
マノックは胸の前に吊る下げた双眼鏡を覗きこむと、地平線ずたいに双眼鏡をゆっくりと移動させていく。
そしてある個所でマノックが手にした双眼鏡が止まる。
「いやがった! 3時方向に船影2。1隻はかなりでけえぞ」
ロックランドからも応戦しているのだが、砲撃が届いていない。ロックランドには最大で14㎝砲を装備した砲台もあるというのにそれさえ届かないとなると、撃ってくる相手はそれ以上の砲をもつ陸戦艇だ。
つまりライトクルーザー以上。
だがロックランドに着弾している砲撃の爆発規模はクルーザーレベルではない。
となればバトルシップ級しかない
バトルシップには14㎝砲では歯が立たない。
タフィーアップルや45㎝低進弾くらいで沈むほど軟ではない。
災害級魔物でさえも主砲の一撃で終わるほどの威力。
マノックの頭の中で警笛が鳴り響くのだった。
今後ともよろしくお願いいたします。




