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62話 ビッチの振動弾で抜けたのか




 マノックは信号弾を空に打ち上げる。


 すると待機していた陸戦艇が陣形を組み前進する。


 俺の陸戦艇Ⅱとグリーンスキンから接収した突撃艇が3隻、そしてマザーシップがその後方を進み始める。マザーシップは装甲多脚機サンドウォーカーとイエロースパイダーを回収すると、艇内は慌ただしい動きとなる。


 まだ動ける灰色の装甲多脚機サンドウォーカーは燃料と弾薬だけを補充して、再び砂海へと出撃しようというのだ。


 レラーニの砂上ハバイク(サンドスクート)も、マザーシップに回収されると、急ピッチで補給作業を始める。


 敵の陸戦艇はもうロックランドのすぐ近くまで来てしまっている。

 ここで防がないと街に被害が及ぶのは目に見えている為、作業は必然と急ピッチとなる。


「ああ、じれったいわね。私がやるわ!」


 レラーニも不慣れな作業員を押しのけて補給作業に加わる。


 それとは正反対にダークエルフの姉妹はというと、脚を組んで機体に腰掛けながら自分達は何もせず、汚い言葉で作業員に指示を飛ばすだけであった。


「ほら、そこ遅いわよ。それでも男? そんな物1人で持ち上げなさい。持ち上げられないならその股の間に意味なくぶら下がっているお粗末な物、プレス機で潰して多脚機のエンブレムにするわよ!」


 やり方は違うのだが補給作業が終わって再出撃するときは、2機ともほぼ一緒だった。




「ミル、マナポーション飲んでおけよ。それとヒールポーションも持っておけ。奴らがあれだけの傷ついた戦力でまだ攻撃して来ようとするのが腑に落ちない。何かまだ隠し玉があるのかもしれねえ。用心に越したことはねえからな」


 マノックは偵察艇に武器弾薬を補充しつつ、ミルに注意を促す。

 それに対してミルが笑顔で言葉を返す。


「レイさん、大丈夫です。今回はすごいの用意してますから任せてください!」


「そうか、それは頼もしいな。はははは」


 マノックはその時ミル言った事をいつものように軽く笑い飛ばす。しかしそれは後々後悔することになるのだが、それを彼が今知る由もない。


 マノックとミルは偵察艇から装甲艇に乗り換えて出撃した。

 装甲艇というのは突撃艇に装甲を施したもの。見た目は戦車のキャタピラ走行を反発石での走行に変えただけのものだ。

 突撃艇よりも重い分機動性が劣り、速度もかなり遅くなってしまい、それに敢えて乗ろうという者は少ない。


 マノック達が乗るその装甲艇は、操縦手、砲手、装填手、偵察手の4人乗りであった。


 マノックは砲手席に着き、ミルは偵察手席に着く。装填手にはゴブリンが、操縦手にはドワーフが役を担っている。


 即席チームなので連携は期待できないのだが、砲撃して敵陸戦艇を撃沈するのが目的ではない。敵に気付かれないように近づいて、ミルが召喚魔法を使うというのが目的。

 

 いくら魔物といえども、大口径の砲撃を喰らえば致命傷だ。なので大口径砲が使えないほどの至近距離まで近づいて、そこで魔物を召喚をするというのが作戦だ。



「なあミル、さっきすごいのを用意したって言ってただろ。それって何なんだ?」


 ちょっと気になったのかマノックがミルに声を掛けた。


「あ、すごいんですよ。いつもよりもおっきい紙に魔法陣書いてきましたから」


「ああ、よく分らんが期待しておくぜ」


「はい、まだ試してないんですけど期待してください」


「それからな、前から思ってんだけどな。ミルさ、召喚魔法を紙に書いてるよな、自分で」


「はい、それが?」


「おまえすげ~な。術式を書ける奴はそうそういねえぞ。それだけでひと財産稼げるじゃねえか。スクロールが1本幾らするか知らね~のか?」


「はい?」


 ミルはあどけない表情で首を傾げる。


「ああ、わりぃ。この話はいいや。今度そのスクロー――メモ用紙?を俺にも貰えるか?」


「はい、いいですよ。はい、どうぞ」


 ミルは惜しげもなく魔法陣が書かれた紙片をその場でマノックに手渡す。


 話を聞いていたであろう乗員のドワーフやゴブリンは、言葉にはしないが表情から察するに、マノックと同じ感情であったようだ。



 そしてついに敵陸戦艇2隻と接敵する。


 初めに砲撃を仕掛けてきたのはゴブリン軍のライトクルーザー級の陸戦艇だった。


 マノック側の砲射程の届かない位置からの砲撃だ。


ライトクルーザーの14cm砲弾が俺の陸戦艇Ⅱ目掛けて落下してくる。


 激しい爆発が砂海を揺るがす。


 ブリッジ内では伝わってくる衝撃に、乗組員達は動揺している。


「パット艇長、このまま撃たれっぱなしだとそのうち命中弾を受けるんじゃないですか?」


 士官クラスの乗組員がたまらずパットに意見する。

 しかしパットは全く慌てるようなそぶりも見せず、一言放ってその乗組員を黙らせてしまう。


「大丈夫だ。こっちには轟雷のマノックがいるんだぞ。泣き言いってんじゃねえよ」


「た、確かに……そうでした……」


 マノックがかつてどんな修羅場だろうが切り抜けてきたのは悪運の強さだけではなく、一見何も考えてなさそうに見えて実は策略家であったりと、その実力は本人よりもまわりにいる人達が良く理解していた。

 そしてそんなマノックに絶大な信頼を注いでいる人々は非常に多い。





 一番に敵艇に取りついたのは真紅の砂上バイク(サンドスクート)に跨るレラーニだった。


 デストロイヤー級陸戦艇からは近づけまいとして、激しい砲火をまき散らす。


 少し遅れて灰色の装甲多脚機サンドウォーカーが砂塵を舞い上げながら前進する。もちろん踊るように砲火を避けながらの接近だ。


「カメレオンに乗員を食われて人員不足なのか。砲火が手緩いな!」


 レラーニはひとりつぶやくと距離100のあたりで急に車体を反転させる。

 そしてレラーニが叫ぶ!


「喰らえ!」


 レラーニの声とともにスピガット・モーターが発射される。

 もちろんタフィーアップルだ。


 発射するとすぐに車体を立て直し、一気に加速して敵艇から遠ざかる。


 タフィーアップルは放物線を描きながらデストロイヤー級の第一砲塔に着弾。


 すぐさま轟音と共に爆発が起こる。


「よっし! 狙い通りだ!」


 レラーニは後ろを振り返りながら拳を握る。


 タフィーアップルの直撃を喰らった第一砲塔は、一瞬で紙屑のように消し飛んでしまった。


 デストロイヤー級くらいの装甲であるならば、このタフィーアップルでも十分であった。


 敵艇が爆発で一瞬の怯んだ瞬間に後続の灰色の多脚機が20㎜砲を連射しながら突っ込んで行く。



「レベッカ今よ!」


 ソニアの合図と共に、多脚機は急に軌道を変える。


 その瞬間にレベッカは発射レバーを引く。


 スピカッド・モーターの発射音が響く。


 灰色の装甲多脚機サンドウォーカーには2機のスピカッド・モーターの発射機が設置されていた。装填されているのはもちろんタフィーアップルだ。

 2発のタフィーアップルがデストロイヤー級陸戦艇に向かって、なだらかな放物線を空中に描く。


 そのうちの一発はデストロイヤー級の第三砲塔に直撃、もう一発は甲板に着弾して大きな爆発を起こす。


 デストロイヤー級陸戦艇はその爆発により、銃火が一瞬静まる。

 その隙を利用して灰色の多脚機は陸戦艇の真後ろに着く。

 

「今よレベッカ! 汚いケツにブチかましてやりなさい!」


「はい、ソニア姉さま!」


 レベッカが20㎜砲の引き金を絞る。


 装甲多脚機サンドウォーカーに装備されている20㎜砲が唸りを上げて、デストロイヤー級陸戦艇の船尾の排気口へと連続して弾丸が発射される。


 15発もの20㎜砲弾を撃ち切ると、レベッカは弾倉を替えてさらに射撃を加えようとする。


「レベッカ、もういいわ、十分よ。これで速度はだせないわ。残りの第2砲塔を潰しましょうか」


「はい、ソニア姉さま。その前に船尾の機関銃手が気になるから一発ブチかましてもいいかしら」


「あら、私もそう思っていたのよレベッカ。2度と夜の街へ行けない様にしてあげなさい」


 レベッカはニコリと笑うと薬室の通常弾を抜き取り、赤く塗られた砲弾を新たに薬室に装填する。


 そしてゆっくりと照準眼鏡を覗き込むと、少し時間を置いた後引き金を絞った。


 20㎜砲の先端から発射による閃光と共に、弾丸が発射される。

 その弾丸は先ほどからしきりに灰色の装甲多脚機サンドウォーカー目掛けて弾丸を浴びせている、1人のゴブリンの機関銃手へと向かう。


 赤い弾丸は機関銃座にある防循へと命中するとその防循さえも貫徹して、その後ろで射撃しているゴブリンのちょうど股間の辺りに弾丸が命中すると魔法が発動した。


 アースシェイクの魔法が発動すると、物凄い振動が股間を崩壊させ、その振動はゴブリンの体をもバラバラにしてしまった。


 『徹甲振動弾』である。


 遅延魔法によりほんの一瞬だけ魔法の発動を遅らせることにより、装甲板を貫徹した後に目標内部で魔法を発動させて内部から破壊しようというものだ。


 しかし今発射された弾丸は明らかに対人様にアレンジされた弾丸であった。


「ソニア姉さま、使い物にならない様にしてやりましたわ」


「さすがレベッカね。それでは第二砲塔へ回り込みますわよ」


 ソニアは操縦桿を巧みに操り、今度は船首にある第二砲塔へと回り込むんでいくのだった。




読んで頂き有り難うございました。


年内投稿は危ぶまれます。


上手くいけばもう1話投稿します。


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