61話 エルフの種族は神も恐れる
ゴブリン軍のデストロイヤー級陸戦艇の第一砲塔に1発、船体に1発ずつのタフィーアップルが命中した。残念ながら1発は外すこととなり、砂塵をまきあげるにとどまった。
「よし、逃げるぞ!」
レラーニが合図すると2機の砂上バイクは回避行動をとりながら敵陸戦艇から遠ざかる。
それと入れ替わるようにドワーフが搭乗する装甲多脚機が現れる。
それに気が付いた機関銃塔から激しい銃火が装甲多脚機を襲う。
しかしドワーフの装甲多脚機は回避をしようとはしない。いや、装備が重すぎて思う様に行動がとれないというのが本当のところだ。
だから敢えて回避もしない。
ドワーフらしい選択であった。
重機関銃の弾丸が装甲多脚機の正面装甲を激しく叩く。装甲板に当って跳ね返る弾もあれば、装甲板に突き刺さる弾もある。
しかしなんとか貫通は免れている。
そしてギリギリまで接近したところで腹に抱えたその重い武装を解き放す。
一気に軽くなった機体を反転させて、20㎜砲で応戦しながら遠ざかる。
装甲多脚機から放たれたその重い装備は、砂海すれすれのところをわずかに浮いた状態で敵陸戦艇へと直進する。
それは45㎝低進弾だった。
陸戦艇に発射管を装備してそこから発射するのが普通なのだが、マノックの発案により装甲多脚機から発射できるようにしたのだった。
「遠くから撃って当らないならば、近くまでいって撃てば当たるだろ」マノックの言葉である。
その言葉通り至近距離から放たれた45㎝低進弾は、敵デストロイヤー級陸戦艇のどてっぱらにめり込んだ。
こんな攻撃されたことがない敵ゴブリン乗組員達は、何が起こっているのかわからずどうしていいかも分らず、ただただその衝撃に耐えた。
呪符されたエクスプロージョンの魔法が発動すると、敵陸戦艇のどてっぱらは大爆発を起こす。
その威力はすさまじく、その一発でデストロイヤー級の陸戦艇は真っ二つになってしまった。
装甲多脚機から顔を出して戦果を見たドワーフは、ガッツポーズをして撤退していく。
その頃、第1班のダークエルフ姉妹の装甲多脚機とイエロースパイダー達も果敢に敵陸戦艇に攻撃を加えていた。
攻撃しているのはライトクルーザー級の陸戦艇だ。
ビッチ姉妹達は初めから主力陸戦艇を狙う作戦だったのである。
敵ライトクルーザー級はさすがに強力な武装をしており、14㎝単装砲4門、37㎜速射砲4門、13㎜重機関銃6丁と、近接武器も充実していた。しかもクルーザー級ともなると、船体に施してある装甲板もデストロイヤー級とは比べ物にならないほど分厚く、並大抵の攻撃では装甲さえ撃ち抜けない。
しかしライトクルーザー級がいるとわかった時には、ビッチ姉妹自ら名乗りを上げた。マノックは自分の股間がキュッと締まるのを感じながらも、黙ってそれを了承した。
突撃して早々にイエロースパイダー2匹に命中弾があり脱落。命からがら2匹とその搭乗するゴブリン達は撤退した。
「ソニア姉さま、ゴブリン共が早くも脱落してしまいましたわ」
「それは初めから分っていたこと。気にすることは無いですよね。私達は私達の仕事をしましょう、レベッカ」
「そうですね、ソニア姉さま、今までそうしてきたように」
彼女らの専用機である灰色に塗られた装甲多脚機は、45㎝低進弾を腹に抱えているというのに、見事なまでの操縦技能で致命傷になりそうな攻撃はきっちり回避していく。
さすがにアクロバティックな行動はできないようだが、それでも彼女ら操縦は異常なほどの軌道を描いていく。そして搭載している20㎜砲が火を噴くたびに機関銃塔が確実に潰されていく。
その灰色の機体の出現に、敵ライトクルーザーのブリッジでは大騒ぎとなる。
「艦長! 右舷から敵が急接近します」
「37㎜砲と機銃で至急迎撃しろ」
「それが先ほどから全く当たりません。着弾を踊りながら避けています!」
「なんだと、もしかしてそれは灰色の機体に弓矢のマークの多脚機じゃないだろうな……」
ゴブリンの艦長が慌てて双眼鏡を覗き込むと、弓矢マークが描かれた灰色の機体から45㎝低進弾が発射されるところだった。
「なんで股間キラーがここにいやがるんだ――」
ゴブリンの艦長が言葉を言い終わるか終らないかの時、45㎝低進弾はライトクルーザー級陸戦艇の右舷船体後方に命中して大爆発を起こした。
「レベッカも腕を上げたわね。見事だわ」
「ソニア姉さまの操縦のおかげですわよ」
ダークエルフ姉妹が喜んでいると、もくもくと立ち込める煙の中からライトクルーザー級陸戦艇が再び姿を現した。
「あああああああ! しぶとい遅漏野郎の陸戦艇だことね!」
「ソニア姉さま、低進弾はもうないですから作戦どおり一旦ひきましょう」
「そうね、しょうがないわね。一旦見逃して差し上げましょう。やはりクルーザー級には1発じゃ無理だったのかしらね」
ビッチ姉妹は諦めてというよりも、あらかじめ決められていた作戦通りに後退していった。
そして第三班のマノックとミルが搭乗する重偵察艇はというと、デストロイヤー級の陸戦艇2隻を相手に奮闘していた。
といっても奮闘しているのはミルが召喚した魔物達だった。
マノック達が乗る偵察艇は、かなり離れたところからそれを見物しているだけだった。
あばれているのは巨大なカメレオンがそれぞれ1匹ずつ、敵デストロイヤー級陸戦艇の甲板上に乗っかり、手当たり次第にゴブリンの乗組員に長い舌を絡めて、それを次々に口へと運んでいる。
召喚自体は安全を重視して距離を置いての魔法を発動したところ、出てきた魔物が2匹の巨大カメレオンだったのだ。
すぐさま2匹のカメレオンに攻撃を命令したところ、体の色を砂海色にして陸戦艇にそれぞれが接近。
その体色を変える技能によって、全く敵陸戦艇にばれることなく接近することに成功。
そして不意をついて甲板に飛び乗って、乗組員のゴブリン達を喰らい始めた。
最後にミルは残った魔力をすべて消費して、全力での魔物召喚を試みる。
すると空中に1匹の緑色をした甲虫が現れる。
その1mほどの緑色の甲虫は、羽を使って空中でホバリングをしている。
「ミル、何を召喚したんだ?」
「えっと、腐虫っていうらしいですけど、詳しくは私にも……すいません」
マノックの問いに申し訳なさそうに答えるミル。
「腐虫ってあれか、ピンチになると腐ったような臭い出す虫だろ。ミルの全力召喚の結果がこれとはな。はぁ、今日は失敗だったな」
「失敗みたいです、とりあえず攻撃命令は出しておきます。少しは役に立つかもしれませんし」
ミルが命令を下すと、腐虫は敵陸戦艇の方へと元気よく飛んで行く。
遠くからその様子を双眼鏡で偵察しているマノックなのだが、さきほど取りついたカメレオン2匹は、どうやら撃退されてしまったようだった。
2隻の敵陸戦艇の甲板上では、お互いが倒したカメレオンの首を持ち上げて自慢しあっているのが見えた。
「ありゃあ、カメレオンの2匹も最初だけだったな。攻撃には弱かったみてえだな。くそっ、せめて後1隻ぐらいは沈めておきたかったんだがな」
「あれ、レイさん。腐虫さんが取りついた艇を見てくださいよ」
「はあ、どうした?」
マノックはミルに言われて腐虫が飛んで行ったデストロイヤー級の陸戦艇に、双眼鏡の視点を移す。
すると何やら騒ぎが起きているらしい。
それはあの失敗だと思われた腐虫の仕業だった。
甲板にある扉から腐虫が這い出してきたかと思うと、ブリッジの壁を上へと登り始める。
しばらくすると腐虫が這い出てきた扉から、大量のゴブリンが我先にと溢れる様に出てくる。
誰もが鼻を押さえて苦しそうな表情だ。中には嘔吐を繰り返す者も見られる。
どうやらかなり臭いらしい。
「ありゃ、あの腐虫、結構使えるんじゃないのか。もしかしたら当たりか?」
「ね、ね、ね、そうでしょ! ゴブリンさん達は皆臭そうに……苦しそうにしてる。ちょっとかわいそうな気もするけど」
2人で話している間にも、腐虫はブリッジの指揮所の窓から中へと侵入する。
しばらくするとゴブリンの士官クラスがワラワラと窓からあふれ出し、甲板上に落下して動かなくなっていく。
そこでそのデストロイヤー級陸戦艇は停止してしまい、船底までも砂海上へとべったりと着けてしまう。
完全に機関を停止してしまったようだ。
「おおお! 大成功だ! よしっ! これで敵陸戦艇は2隻に減ったぞ。しかも手負いだしな!」
「やりましたね!」
「よし、ここは一旦後退するぞ」
マノックは信号弾を空に打ち上げる。
するとすかさずマノック達が隠れているくぼみに砲撃が始まる。
「やばっ、ばれたか。急ぐぞ!」
偵察艇を急発進させると、全力で速度を上げる。
先に後退していた第一班と第二班と合流すると、早々に撤退していく。
怪我をしたイエロースパイダーの1匹は、45㎝低進弾を撃って身軽になった装甲多脚機の背中に乗って砂海を進んで行く。
偵察艇は被弾した多脚機を曳航し、さらにもう一匹のイエロースパイダーも運んでいる。
手負いとなりながらも、まだ動けるライトクルーザー級とデストロイヤー級の敵陸戦艇がその後を追う。
「あのライトクルーザー級は45㎝低進弾をまともにくらってるのにまだ攻めてくる気か。やっかいだな。撤退してくれると思ったんだがな」
マノックは偵察艇の中でぼやく。
「どうするんですか、この後?」
「ああ、しょうがねえからこっちも陸戦艇を出して決着をつけるしかねえだろう」
「エリスさんにも手伝ってもらいます?」
「いや~大口叩いちまったからな、そうもいかねえだろう。ま、ライトクルーザー級は船体に大穴空いてるんだし、あのビッチ姉妹とレラーニという神も恐れるエルフ達がいるんだから負けはしないと思うけどな。違うか?」
「納得」
ミルは大きく縦に首を振るのだった。
読んで頂き有り難うございました。
今後ともよろしくお願いいたします。




