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59話 精霊はロックランドに胸揺らす




「おう、帰ったぞ!」


 そう声を張り上げたのはマノックだ。


 トレシアの街まで引っ越しの為にわざわざ帰ってきたのだ。トレシアの街を出るに当たり、トレシアの領主が引き留めにかかったりと、かなり時間を取られてしまっていた。

 しかしそこはエリス・マッカーデンの根回しのおかげで、『ロックランド』の街との友好条約を結ぶという条件で、辛うじて難は乗り越えられた。


 そして久しぶりに精霊の住まう樹木の家に帰ってきたのだった。


「おかえりなさいレイ」


 木の精霊であるドリュアスが応える。


「ドリュアス、今から引っ越しの準備をおっぱじめるんだがな、大人しくしていてくれよな」


「レイ、引っ越しをするの?」


「ああ、そうだ。すべてひっくるめて引っ越しするから騒がしくなるけどな」


「ひっくるめてとはどういうことかしら」


「この巨木ごと引っ越すんだよ」


 マノックのその言葉にドリュアスが驚愕の表情でマノックに返答する。


「レイ、それは無理です! 私はこの樹木と共に生きて樹木と共に朽ち果てます。移動など無理です」


「ああ、俺も最初はそう思ったよ。だけどな、この巨木の位置を考えるとな、いけそうなんだよな。ここって防壁際にあるだろ。だから防壁のすぐ外にブリック艇を持ってきてクレーンで根ごと積み込んじまう作戦だよ。ミルも連れてきたから大型の魔物を召喚して手伝わせればあっという間だよ。移動の最中もミルがいれば水を幾らでも魔法で補充できるだろ。どうだ? これなら枯れる事もなく移動できるだろ」


「ふ~、人族はいつもそうですね。言葉で言うのは簡単なんですよ」


「ああ、この話はあくまでもドリュアスが承認してくれた上での作戦なんでな、いやなら諦めるから安心してくれよ」


「いや、私は反対などしないですよ。レイに任せます。あなたとの契約に従いますよ」


「そうか、わり~な。それじゃあすぐおっぱじめるからな。まずは中の荷物を出さないとな」


 マノックが巨木の家から外に出ると、そこには作業開始を待つ大勢のスタッフが待っていた。

 すべてロックランドから手伝いに来てくれた人達だ。


 すでに防壁の外にはブリック艇がクレーンをぶらぶらと動かしながら、今や遅しと作業開始の合図を待っている。


「それじゃあ始めてくれ! 皆たのむぞ!」


 マノックのその掛け声と同時に一斉に作業が始まった。


 その作業を1人心配そう巨木のてっぺんから見下ろす者がいた。

 もちろん精霊のドリュアスである。

 しかしその姿が見えているのはマノックとミルだけだった。


 巨木が召喚した魔物達やクレーンによって根ごと引き抜かれる。


 だがその頃にはドリュアスの姿は消えていた。


 マノックは心配になって辺りに声を掛けながら歩き回るのだが、返答がかえってくることはなかった。


 巨木をブリック艇に積み込み終わると、大急ぎでスタッフを乗せて出航する。

 レタシアに置いていた『俺の陸戦艇Ⅰ』も忘れずに曳航して持ち帰る。


 航行中も心配そうにマノックが巨木に声を掛けるのだが全く返答はなく、ミルと2人で落ち着かない時をすごすのだった。



 ◇  ◇  ◇



 途中魔物に遭遇したりもするが、そこは難なくミルの召喚魔物で蹴散らしてしまい、逆に食糧が確保できて大喜びであった。


 そしてロックランドに到着する。


 到着するとすぐに巨木をブリック艇から下ろし、あらかじめ決めておいた場所へと運び込む。そして穴が掘られた場所へと着くと、その穴へと根の部分を埋めていく。


「頼む、復活してくれよ~」


 シャベルで土をかぶせながらマノックがつぶやく。


 この時点では単なる巨木、つまり居住空間など全くなくなっている。

 大きさが大きさだけに目立つ巨木ではあるが、精霊の力は及んでいない様に感じる。


 巨木のすぐそばには湧水が溢れだしており、その一帯には緑の草木が生い茂っている。

 ロックランドで一番の緑地地帯である。精霊の巨木を植えるのには最も適した場所と判断したのだ。


 ひと段落着いたマノックは、名残惜しそうにその場を後にする。


 マノックが街となる場所まで来ると、だいぶそれらしい形になってきているのが目に入る。


 早くも宿屋兼飲食店も兼ねた酒場が数軒出来ており、まだ明るいというのに飲み始めている人々もいる。

 24時間の交代制での作業の為寝る時間も人それぞれで、朝方になって仕事を終えて飲み始める人、昼過ぎに仕事から帰宅する人、いろんなリズムの生活がここにあった。

 それに加えて多種多様な人種が溢れている。

 ゴブリン、エルフ、ダークエルフ、ハーフエルフ、ドワーフ、獣人、特異種、そして人間。


 ここはあらゆる種族を受け入れる街だった。


 どんな種族でも受け入れる街、そんな噂があっという間に近隣の街に広がると、さらに人間以外の亜人種が次々に移転してきて、人口だけはどんどん増えていく。


 そのためロックランドは急速に発展していくのだった。


 そんな中でエルフ系の住人達は緑を愛する種族であるがために、湧水の近くに植えた巨木に関心を示す。

 そのうち誰が建てたのか、簡素ではあるが巨木の前に社がお目見えする。

 そして毎日のようにその社には、エルフ系住人が祈りをあげに来るようになった。


 しばらくそれが続いたある日の事、いつものようにエルフ系住人が祈りをあげている時の事であった。


「あ、わわわ! せ、精霊様っ!!」


 祈りをあげていたエルフ男性が、驚愕の表情で声を上げた。


 現れたのはしばらく姿を見せなかったドリュアスだ。


 驚いたエルフ男性は全力で丘を下り街にたどり着くと、息を切らしながら「せ、精霊様が現れたぞ~~!!」と騒ぎ始めた。


 通常精霊というのは人の前に姿を現すことはまずないというのが、この世界の常識である。

 そのためエルフ男性が騒いだところで誰も信用しない。そんな中で唯一明るい表情で小型戦車を動かし始める男がいた。

 マノックである。


 途中、建設現場で召喚作業しているミルを強引に連れてきて小型戦車に乗せると、街中だというのにも関わらず戦車で突っ切って丘を目指して激走する。


「レイさん、理由も言わないでいきなりどうしたんですか!?」


「ミル、ついに復活したんだよ!!」


「復活?」


「エルフの男がさっきな、精霊様を見たって街中で騒いでたんだよ!」


「えっと、それって……」


「そう、ドリュアスしかいないだろう!」


「やりましたね!」


「あああ、それでミルにも合わせたくてな――お、巨木が見えてきたぞ!」


 マノック達の乗る戦車が巨木の前まで来ると、そこには巨木の回りを可憐に踊るドリュアスの姿があった。

 

「ドリュアス……さん?」


 ミルがドリュアスの近くまで駆け寄り声を掛けようとするのだが、その変貌ぶりに首を傾げる。


「確かにドリュアスなんだろうけどな、なんていういか成長したのか?」


 ミルにならってやはり首を傾げながらドリュアスを見つめるマノック。


「あら、レイにミルちゃんじゃない♪」


「ドリュアスに間違いないよな」


「何を言ってるのよ、レイ。見ての通りこの樹木に宿る精霊よ」


「そうなんだろうけどな、ドリュアス。お前なんか色っぽくなったよな。トレシアにいた時は10代後半か20代前半くらいに見えたのに、なんだよ20代中盤くらいに見えるじゃねえか。人間みたいに成長した感じだよな」


「うんうん、なんかおっぱいもこう、バイン、バイ~ンって感じで大人の女性って感じで……なんかずるいです」


 マノックに続いてミルが自分の胸を押さえながら、羨ましそうにドリュアスの大きく揺れる胸を指摘する。


「ふふふ、ここの居心地がいいからかもしれないわね。こんな清らかな水は初めてよ。レイ、ミル、ありがとう」


「それはよかったな。それならこの辺にもっと緑を増やしてくれよ」


「任せて。毎日森の子(エルフ)達が魔力を捧げてくれるから、私もそれに応えたいと思うの。この辺を緑いっぱいにするわね」


「ああ、それからドリュアス、俺はあそこに住んでいるんで何かあったら声を掛けてくれ。さすがに社まで建てられた巨木に住むわけにはいかねえしな」


 マノックはロックランドで一番高い位置にある場所を指差した。

 その指を差した場所には大きな建物があり、現在改装中らしい。

 元々はグリーンスキンの統領のゴブリンキングが住んでいたところらしい。そこを改装してマノックが領主として住もうというのだ。


「わかったわ。でも私はここから離れられないから、何かあったら使いを送るわね」


 こうして木の精霊は復活を遂げ、この地「ロックランド」に根を下ろすことになった。これにより木の精霊の噂を聞きつけたエルフ族が、徐々にこの地に集まることになる。


 そんな話をしている時、緊急時に鳴らすことになっている鐘を激しく叩く音が聞こえてきた。


「緊急警報みたいだな。魔物でも現れたか?」


 マノックは地平線を見渡すのだが何も見えない。


 しかし警報の鐘は鳴りやまない。


 マノックは疑問に思いながらもR戦車に飛び乗ると、再び街へと向かって疾走するのだった。


 そのころ街では人々が武器を手にして慌ただしく動き回っているのだった。





読んで頂き有り難うございました。



今後ともよろしくお願いいたします。


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