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47話 30代の10代エルフの許可下りた



 盗賊から奪った陸戦艇を曳航しながら“俺の陸戦艇Ⅰ”が砂塵を巻き上げながら疾走する。遅れた時間を取り戻すため、通常よりも早い速度で走っている。

 当然燃費は悪くなるのだが、盗賊の根城には備蓄燃料があったので、それをごっそりと頂いてきたのだ。

 盗賊の捕虜達は、解放した女性達の目に触れないように、奪った陸戦艇の船倉に縛りつけてある。見張りにはやはり男であるキースがあたっている。

 つまりは“俺の陸戦艇Ⅰ”に現在乗っているのはマノック以外すべて女性だった。

 ちなみに解放した女性は人間が6人、獣人が2人の合計8人だった。捕まった当初は男性が20人くらいいたそうだが、若い女性以外はすべて殺されてしまったそうだ。

 すべて貨客艇に乗っていた客と乗組員だ。

 敵の被害も結構あったようでゴブリンやオークも戦闘で多数が死亡した。


「マノッキュよ、先ほどからなんか挙動不審だぞ。もっと落ち着いたらどうなんだ」


 レラーニがマノックの挙動不審行動に、ついに我慢できずに指摘した。


「そんな事言われてもな、この艇に男は俺1人だけなんだぞ。しかもみんな素人女なんだぞ。しかも男の俺にちょっと不信感抱いているようだしな。なんか肩身が狭いんだよ」


「んん、素人女? どういう意味なんですかマノックさん」


 すかさずミルが突っ込みを入れる。


「あ、ああ? え、ええとだな、お、俺にもよく分らん……すまんそれ以上は突っ込まないでくれ」


 それを聞いたレラーニが追い打ちをかける。


「何故それ以上はだめなんだ? 私もその意味を知りたいぞ」


 返答にマノックが困っていると、ロレッタ・バッテンダールが話に入ってきた。


「素人女というのはプロの女性ではない、つまりですね、水商売の女性ではない女性のことですよ」


「ロレッタさん! そこははぐらかしてくださいな」


 慌ててマノックが突っ込みを入れる。


「あら、すいません、ふふふ」


 捕虜になってかなり大変な目にあったというのに、ロレッタだけは他の女性と比べて精神的にしっかりしている。ゴブリンやオークの捕虜になったということは、間違いなく生殖活動の対象になったはずだ。その直後だというのに、水商売という話の内容を語るのは、ちょっと普通じゃ考えられない。

 そのことに触れないようにはしていたマノックだが、思わず口を滑らせてしまう。


「いやあ、捕虜になった後だってのに、元気――あ、すまん、つい……」


「いや、私は大丈夫なんですよ……あの私ももう少し落ち込んだ風にしていればよかったですね。すいません、でも、私実は……」


 ロレッタが少し口ごもるのだが、ミルが口をはさむ。


「無理して話すことないですよ」


 ミルの言葉に逆に奮起したようにロレッタは話を始める。


「いえ、これは助けて頂いたあなた達には話しておきます。いや、聞いてください。実は私だけかくまわれていて、ゴブリンやオークとはそういった行為をしておりませんでした。

 あそこにいる人間の女性達5人は、私の御伴おともの者達なのです。王家の遠戚ではあってもその血にゴブリンやオークの血が入ったとなれば、バッテンダール家は貴族として生きていけなくなるでしょう。

 それを回避するために彼女らが私をかくまってくれていたのです。ゴブリンやオークにとって種族が違う人間など6人もいれば区別などできないと思い、うまくごまかしてきたのです。私だけが逃れて……本当に彼女達には辛い思いをさせてしまいました。」


「ロレッタさんの御付の女性達には辛い思いをさせたのは確かだがな、ロレッタさん、あんたもそれをしょい込むんだろ、5人分の辛さをこれからずっと」


「はい、そのつもりでいます」


 船首で寄り添うように固まって座る女性達を見ながら、ロレッタは強い口調で決意を言葉にしたのだった。


「そういえばロレッタさんよ、盗賊の親玉ってオークでよかったんだよな? あの岩山にはオークが2匹しかいなかったんだけどな」


 マノックがふと疑問を投げかける。


「2匹? いえ私達が知る限り6匹はいましたよ。そういえば小型輸送艇を改造した戦闘艇は持ってこなかったんですか?」


「は? そんなのあの岩山にはなかった――くっそ! ミル、見張り台に上がってくれ。盗賊艇はまだ1隻いやがるぞ、警戒態勢だ!」



「は、はい!」


 ミルは急いで見張り台に駆け上がる。


「レラーニ、操舵と航法は任せる。俺は機関室にいるんで何かあったら声をかけてくれ」


「わかった、任せてくれ」


 しかし、彼らの心配をよそに、結局何事もなく王都へと到着するのだった。


 マノックの予想では、盗賊艇の内の主力1隻がたまたま出払っている時に、“俺の陸戦艇Ⅰ”が通りかかったのだろうと。しかもそれに合わずに王都まで来れたのもまた運がよかったと。







 王都へ到着するとまずは港で入港審査が行われるのだが、そこでの事の成り行きの説明にかなりの時間を取られることとなる。ロレッタが自ら説明してくれたおかげで、話はスムースに進んだのはいいが、街に入るまでに半日を要した。

 盗賊の根城のあった岩山へは早速討伐隊が編成されて、強力な戦闘艇が向かうようだった。

 そして盗賊達も無事に引き渡し、女性達も保護してもらい、やっと街へと入ることを許されるのだった。

 ロレッタともここで別れたのだが、何度も礼を言われるのはいいとして、しまいには抱き着かれて泣かれてしまい、それにはマノックも困惑するのだった。



 いざ街へと入るときに、門兵に受け取った手紙をみせて授爵の為に来訪したことを伝えると、横柄だった門兵の態度が急に変わる。

 しかも専属の担当官を付けてくれることになり、宿泊場所も確保してくれて急に待遇が良くなる。


「おおすげ~ここで俺達が泊まるんだ」


 担当官が案内してくれた宿泊施設は、もはや宿のレベルではなかった。貴族達が宿泊するその場所は「ホテル」というらしい。

 マノックが知る宿といえば1階がレストラン兼バーで、2階3階が宿泊施設という認識だった。

 しかし現在マノック達の目の前にある建物は、彼らが知る建物の名前から言えば宮殿であった。作りが領主が住む様な建物と変わりなかったからだ。食事はすべて部屋に運ばれてくるといい、マノック達が通されたところも部屋数が多く、しかも異常に広い。


 受付も担当官がすべてすませてくれて、早速部屋に案内されて扉を開ける。


「「「「うわあああああああ!!!!」」」」


 4人ともが感嘆の声を上げるのであった。


「す、すっげ~~~ぜ、ヤドカリ亭の斜め上をいくぜこれは」


 マノックが真っ先に室内に入って部屋を見回しながらつぶやく。

 続いてレラーニが感嘆の声を上げる。


「30年生きているが、こんな宿泊施設は初めてだぞ。エルフの国にもこんな宿はなかったぞ」


「レラーニ? おまえの年齢っていくつなんだ?」


「ん、言ってなかったか、30歳になる。エルフ世界ではまだまだ子供扱いだがな」


「30歳か、10代にしか見えねえのにな。エルフは本当に年をとらねえよな」


「マノッキュよ、人間の見た目では10代かもしれんがな、もう中身は大人だぞ。あのぅ、あれだな、もう子作りもできる体だぞ。私はいつでも、その、心の準備というか――」


「わあああああ! この部屋凄い! ベッドがおっきい~~」


 レラーニの言葉は途中、ミルのはしゃぐ声でかき消される。


 マノックとレラーニ間に気まずい空気が流れるのだが、部屋を案内した担当官がその空気を破る。


「授爵の日時が決定しましたらこちらに連絡を入れますので、それまではこちらでおすごしください。何かあったらここの受付にお申し付けください。それでは私は失礼いたします」


 担当官は無表情で立ち去って行った。


 担当官がいなくなったところでマノックが提案をする。


「それじゃあ、王都観光いきますかっ」


「待ってましたあああああっっつつ!!」


 マノックの提案に真っ先に声を張り上げたのはキースである。


「おいおい、キースよ、まだ外は明るいぞ。お前が考えている場所はもう少し待った方がいいと思うぞ」


「うっ、そうですね」


 そのマノックの一言でキースは静かになる。


「まあ、どうせ授爵の式典までには大分あるだろうからな。それまでに俺はいろいろやることがあるんだよなあ。折角王都へ来たんだ、まずは隊員の募集の張り紙を貼らなきゃいけねえし、それとガンショップへも行ってみたいしな。忙しくなりそうだ。ミルとレラーニはどうするんだ」


「私は特に行きたいとこなんてないから、マノックさんについて行きたいです」


 ミルがきっぱりと応える。


「そうか、私は余り持ち合わせがないからな、マノッキュについて行ってたかる事にするぞ」


 レラーニは元々借金返済があるので懐は乏しく、お金を使う様な行動は余りできないのだ。


「そうか、それじゃあキース、夜にでもまた会おう。ちゃんと戻って来いよ」


 マノックは含み笑いをしながらキースに告げる。


「わ、分かってますよ!」


 こうして彼らは王都の街中へと姿を消していくのだった。





次回投稿は18日の予定です。


今後ともよろしくお願いいたします。


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