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43話 装甲多脚機は空を飛ぶのか




 突入部隊も落ち着いたらしく、敵陸戦艇内の残敵も準滅したようだった。

捕虜も多数となり、管理も大変になりそうであった。


 だいぶ破壊してしまったのだが、なんとかゴブリンのデストロイヤー級陸戦艇を曳航して、サルベージ場所まで戻る。


 「いやあ、これでまた陸戦艇1隻ゲットしちゃったぜ。ただ持って帰るのが大変だな。サルベージしている艇は無理だとしても、護衛艇とデストロイヤー級の2隻を曳航していかなきゃいけねえからな」


 艇長席に座るマノックが嬉しい悲鳴を口にする。

 その両脇にはミルとレラーニも機嫌よさそうな表情で立っている。

 というのも、ちょっと前に今回の戦闘での活躍をマノックから褒められた時、2人して頭をガシガシと撫でられたのがよほど嬉しかったのか、その時は2人で目を見合わせて涙ぐんでいたぐらいだ。

 それで機嫌が良い2人なのだが、マノックは「こいつら何か企んでやがる」と、自分が原因とは知らずに勘違いしているのだった。




 なんとかサルベージを再開することが出来、ついに装甲多脚機サンドウォーカーが眠る船倉を空ける段階まできた。


「全員準備は良いか」


 マノックのその問いかけに、各部署からは次々に準備完了の声が上がってくる。


「よおぉし! 開けろぉ!」


 ミルが召喚した魔物が船倉の扉を開く。

 大分歪んでしてしまっていて開けずらい様だったのだが、それを力任せに強引に開こうとする。

 すると扉は無残にも船体から外れてしまい、魔物はその扉を砂海に投げ放つ。


 それと同時に中から魔物が何匹か出てくるのだが、すべてミルの召喚した魔物達があっという間に倒してしまう。


 そして船倉内に放置されていた装甲多脚機サンドウォーカー2機が引っ張り出される。

 早速整備班のドワーフを呼んで、いろいろと調べてもらう。


 調べてもらった結果は、ドワーフの国ではごく一般的な2人乗りの機体で、装備は用途に合わせて40㎜砲か、20㎜機関砲のどちらかが積めるそうだ。


 整備用の機材や予備のパーツまで残っていて、ちょっと整備すればすぐに動かせるということだ。

 

 それを聞いたマノックとレラーニは大喜びで、それとは反対にそこまで嬉しがる意味が解らないミルだった。


 さすがにイエロースパイダー2匹を船倉に積んでいる“俺の陸戦艇”には積むことが出来ずに、拿捕した護衛艇に積んで持ち帰ることとなる。


 サルベージした陸戦艇は曳航できるレベルの状態ではなく、持ち帰るのは断念したのだが、船倉や内部をすべて探索して、使えそうなものはすべて回収した。

 中には魔力溜まりということもあって、マジックアイテムに変化したものもいくつか回収することができだ。

 中でもエールの樽を発見して大喜びだったマノックなのだが、結局中身を調べると、マジックポーションに変化していることが分かり、微妙な表情をしていたのだった。

 1樽マジックポーションならば、効果にもよるが相当な値が付く事は間違いない。それを売るのか有効利用するのかはまた別の話だが。


 また、士官室でリボルバー拳銃を発見したのだが、これが見事にマジックアイテムへと変化しており、それを手にしたマノックは数時間艇長室から出てこなかったそうだ。

 部屋の中からは時折、「おお」や「すっげぇ~」や「なんじゃこりゃあ!」や「マジか!?」といった言葉が聞こえてきたらしい……


 あらかた作業も終わり片付けもしたところで、拿捕した2隻の陸戦艇を曳航した“俺の陸戦艇”は出航するのだった。


 私掠許可証しりゃくきょかしょうは持っているのだが、その契約上報告が必要なのと、得た品々は基本的にトレシアの街で換金するなり売りさばくというのが契約の一つでもあった。

 そのため現在トレシアの街を目指して陸戦艇は進んでいる。


 燃料は拿捕した陸戦艇のがあるので、十分すぎるほどの量があるのだが、2隻を曳航しているとあって、その速度は通常の半分以下で燃費も悪い。


 帰る道すがら魔物が出現でもしなければ特にやることもない。皆が暇を持て余している頃、ある程度走行可能に整備した、装甲多脚機サンドウォーカーの試験走行が行われることになたった。


 ドワーフの整備員がそれぞれ操縦してくれるそうで、1機目には40㎜砲を装備、2機目には20㎜機関砲を装備。それぞれの武装には練習用の模擬弾を装填してあった。

 そして40㎜砲装備の機体にはレラーニが砲手として、2機目の20㎜機関砲装備の機体にはマノックが砲手として乗り込んだ。


 早い話、試験走行と聞いて2人は黙ってられなかったのだ。

 

 場所は人属の領内。陸戦艇は止まることなくトレシアへと走行してるなか、遅れない様にしながらの装甲多脚機サンドウォーカーの試験走行兼戦闘試験である。


 試験内容はちゃんと問題なく走行できるか。

 操縦性能はどうなのか。

 機動性はどのくらいなのか。

 武装の性能と戦闘行動中での作動具合。

 こういった事を調べながら、模擬戦闘もすることになっている。



「レラーニ、そっちの機体の準備はいいか!」


 マノックが装甲多脚機サンドウォーカーの砲塔のハッチから顔を出して、レラーニの乗る機体に向かって大声を上げる。

 思った以上に魔道エンジンの音がうるさく、大声を張り上げないと聞こえない。


 レラーニもハッチから顔出してマノックに答える。


「マノッキュ! 待ってくれ、エンジンがなかなか始動しな――あ、かかった!」


「おおし、それじゃあまずは走行テスト、その後合図で模擬戦闘をするぞ!」


「わかったぞ!」


「じゃあ、発進!」


 マノックはハッチの扉を閉めて砲塔内の簡易椅子に座り、まるで興奮した子供の様に視察窓を覗いている。


 6脚の脚が器用に動き始めて砂海へと乗り出す。

 思った以上に速い動きだ。

 巨大な蜘蛛の上に砲塔を乗せたようなフォルムをしていて、動きはイエロースパイダーの様な動きなのだが、金属の塊という見た目。

 初めて見る者にとっては異様な光景でしかない。

 それが砂海の上をカサカサと動き回りつつ、上に乗った砲塔が旋回する。


「ん~乗り心地は予想通り良くないんだな、これ」


 マノックのその言葉に操縦席のドワーフが笑いながら答える。


「ふははははは、一応反発石は使ってはいるが移動にはを使うからな、どうしても振動が激しい。乗り物酔いには気を付けてくだされ、マノック艇長」


 横移動してみたり速度を変えてみたり、回避行動をとってみたりした結果、イエロースパイダーの機動性には届かないが、かなり高い性能であると確認できた。

 操縦しているドワーフが言うには、熟練の操縦士であるならば、イエロースパイダー以上の機動性を発揮できるとのことだった。


 そして次の段階である、戦闘行動と武器性能の試験だ。


 マノックはハッチから信号旗を出して、レラーニの乗る機体に戦闘試験を行う事を伝える。


 するとレラーニはわざわざハッチから上半身を乗り出して。直角に曲げた自分の左腕をパンパンと右手で叩いて見せて、マノックを挑発する。


 マノックはそれを見ると不敵な笑顔を見せ、自分もハッチからもぞもぞと乗り出して、自分の尻を叩いて挑発返しをする。

 そこへレラーニの40㎜砲弾がマノックの尻をかすめる。


「あっぶねぇえええええええ!!」


 危なく転げ落ちそうになるのを必死に耐えて、レラーニの乗る装甲多脚機サンドウォーカーを指をさしながら起こった表情をワザと見せる。


 そして急いでハッチを閉めて20㎜機関砲の重たいレバーを「ガシャン」と引いて、初弾の発射準備をする。


 レラーニの機体は短砲身の40㎜砲を積んでいるのだが、一発撃つたびに排莢と次弾装填を狭い砲塔内で1人でしなければならず、発射速度が非常に遅い。

 しかしマノックの機体の20㎜機関砲は15連発なので、15発撃つごとに弾倉換えとなる。1発の威力は弱いが発射速度で上回る。


 たった今レラーニは40㎜砲を撃ったばかりである。

 マノックは即座に攻撃態勢をとって、レラーニの機体の側面に自機を持っていくように操縦士のドワーフに指示をする。


 「よおおし! もらったぁぁぁあああ!」


 マノックはここぞとばかりに引き金を引く。


「ダンッダンッダンッ」という意外とゆっくりな発射速度で20㎜砲弾が射出される。

 レラーニの機体はマノックの射撃のタイミングに合わせて回避行動をとった。

 マノックが放った3発の20㎜の弾丸は、砂海に着弾して砂埃を舞い上げるにとどまる。


「あ、くっそお、射軸がずれてやがる! あとで調整しなきゃいけねえ」


 どうやら20㎜砲自身にも調整の不備があったらしい。


 続いてレラーニが攻撃態勢に入る。


 マノックの機体の後ろに着こうと、自機に急制動をかけて反転させた。


 マノックの機体も慌てて急制動をかけて、レラーニの機体に追従しようとするのだが気が付いた時には遅かった。

 ほぼ真後ろに近いところから40㎜砲が発射される。


 マノックは視認窓からそれを見ながら「やられた」とため息をつく。


 しかし、40㎜砲の発射に合わせてマノックの機体は脚をつぼめてジャンプした!

 40㎜砲弾はジャンプした装甲多脚機サンドウォーカーの脚元の砂海に着弾。

 着弾した後には再び脚を広げて着地し、何事もなかったようにカサカサと走行を続ける。


「な、なんだあの回避の仕方は! マノッキュめぇえ!」


 レラーニは砲塔内で壁を叩いて悔しがる。


「あの機体の操縦士は、相当な腕の持ち主ですな。あの回避行動はなかなかできる者はいませんぞ」


 悔しがるレラーニに操縦士のドワーフが教えてくれた。


しかしその頃、マノックは砲塔内で強く打った頭を必死に撫でて文句を言っていた。


「そんな回避あるなら初めに言っとけよぉ、痛ってぇぇぇ」


「向こうの操縦士は腕がいい。気を付けてくださいよマノック艇長」


 そう言うと機体を反転させてレラーニの機体に向けて接近する。


「マノック艇長! 今!!」


 マノックは無意識に引き金を引く。


 今度は引き金を引きっぱなしで、相手の軌道を予測しながら射線を描く。


「よおっし! 命中!」


 マノックが放った1発がレラーニの機体の脚に命中する。

 しかし模擬弾なので命中と同時に弾丸は砕け散る。


 命中した脚をどうするかと思ったら、その脚は砂上から引き上げて、使わない様にしている。

 つまりは6本の内の1本がなくなったところで問題ない、戦闘続行だと、私はまだ負けてないというところだろう。

 負けん気の強さではレラーニは断トツだったことを思い出すマノックだった。






次回投稿は5日の予定です。


今後ともよろしくお願いいたします。


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