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4話 武器ヲタは砂海で酔いしれる



 今日は遂に『俺の陸戦艇』が改修作業を終える日だった。


 結局1週間で作業は終わらず、延び延びになって10日間もかかってしまった。その間の乗組員の手当もやはり支払わねばならず、手痛い出費となる。


 マノックは朝一番で作業所に向かった。

 楽しみでしょうがない子供の用に、浮かれた状態だ。

 

「どうだ! 出来上がったか!?」


 作業所に入って開口一番がこれだった。


 それに対して作業所の担当主任が笑いながらその質問に答える。


「ああ、出来上がっとるよ。またせたな、ちょっとまってろよ。今から砂海に出すからな。お~い、お前たち、こいつをドッグから出すのを手伝ってくれ!」


 その声に若い連中が数人出てきて、陸戦艇の船底に下の空間にを次々に入れ始めた。


 結構な量の砂が入り終えると、陸戦艇に魔石燃料が送り込まれ、次に船底と砂の間にあった敷板を一気に取り外す。


 すると陸戦艇は砂に反発して少し浮かび上がった。


 マノックは階段を使って陸戦艇に乗り込むとすぐに魔道エンジンを始動する。


 『ブ~ン』というエンジンの始動音が鳴り響くと心地良い振動が船体から感じられる。


「ひゃっほ~!すげ~ぜ、前よりも振動が減っているし静かになってるぜ! 出航させてもいいか?」


 満面の笑顔で嬉しそうにマノックは聞いてくるが、その表情をみたらダメとはいえないだろう。


「ふははは、おまえさんはまるで子供だな。いいぞ、試運転したら戻ってきてサインしろな」


「ありがてぇ、じゃ、ちょっくら砂の海を走ってくるぜ!」


 マノックはエンジンを全開にして疾走させる。


「まるで新品だな、オーバーホールしただけでこうも違うか」


 街の周りをしばらく走った後、一旦エンジンを切る。


 そして今度は武器やら張り替えた船体装甲などを確認し終えると、やっと作業所へと船首を向けるのだった。

 ニコニコした表情で陸戦艇から降りると、今度はまだ走り足りなそうな顔に表情が変わる。


「いやあ、待たせちまったな。しかしすごい腕してるな。まるで新品の陸戦艇に乗ってるみたいだったよ」


「そう言ってくれると仕事がいがあるってもんよ」


 マノックは礼を言うと受領証にサインをして、陸戦艇に乗り込むと船を港に移した。


 港に係留するとあらためて船の装備を確認しはじめる。


 まずはマノックの大好きな武器、船首砲塔に換装した37㎜砲を確認する


「こりゃすげ~な、中古っていってもさすがアレシア製だな。作りが違う。しかしアレシア製ともなると安い弾は使えなくなっちまったな」


 37㎜m砲身を撫でながら1人つぶやくその姿は、誰かに見られたら赤面ものの光景だったのだが、マノックがそれに気が付くはずもなく、その1人芝居はさらに続く。


 マノックは後部の砲塔に移ると、今度は後部砲塔に新しく取り付けた武器を愛おしそうに撫で始める。


その撫でる姿も去ることながら、マノックの表情は更に危ない物だったことは言うまでもない。


「いやあ、ついに後部砲塔にも武器が取り付けられたか。へへへ、これで小物の魔物の群れだったら対応できるぜ」


 今回一番悩んだのがこの後部砲塔に取り付ける武装だった。


 15㎜重機関銃、20㎜自動砲、50㎜曲射砲の3択だったのが、その一つの50㎜m曲射砲の場合はカタパルトランチャーで代用できるところが多かったので、まずは選択枝から外れた。


 20㎜自動砲であるが自動装填なので、1分間に40発程度の連射ができて便利なのだが、15㎜重機関銃と比べた場合だと、口径こそ5㎜違うのだが1分間に300発の連射性能があり、しかも射程距離が20㎜m砲よりも長かった。


 それで結局15㎜重機関銃に軍配を上げたのだった。


 砂海上で盗賊に襲われることもあるのだが、陸戦艇をなるべく無傷で手に入れたいというのが心情なので、大抵は小口径の武器での戦いになる。


 そういった場面でも今後は役立つであろう武装が今回の15㎜重機関銃であった。


 マノックは恍惚の時間を過ごした後、受領証を持ってボール商会へと向かった。


 扉を開けると人の存在の確認もなく、いきなり大声でしゃべりだすマノック。


「ジョージ、確かに受け取ってきたぜ! 俺の陸戦艇を!」


「おいおい、挨拶もなしにいきなりか」


「ああ、そうだったな、早朝からすまんな。一刻も早く礼を言いたかったんでな」


「礼はもうさんざんしてもらったからもういいよ。そういえば受領証は持ってきたか」


「ああ、これだ」


 マノックは受領証を渡す。


「よし、これで完了だ。狩りに出てもいいぞ」


「よっしゃぁ! 世話かけたなジョージ、それじゃぁ行ってくるぜ」


 マノックはボール商会を飛び出していった。


 港に着くと乗組員たちがすでに陸戦艇の前で待ち構えていた。


「なんだ、お前ら、昼過ぎっていったのに早いなあ」


「皆待ちきれなかったってことだよ」


 そう答えるのは航法士である長老のレフだ。


「ふっ、な~んだ俺と一緒じゃねぇか」


 マノックがそう言うと全員が笑い出す。


「よおし、全員乗り込め、出航準備だ!」


 こうして改装を終えた陸戦艇は再び砂の海へと出航することになる。



「よおおし!エンジン出力上げ、微速前進」


「いやぁ、この年でなんだかワクワクしてきたよ」


 レフが誰に言うともなくつぶやく。



「長老もですか、実は俺もさっき艇に乗った時からなんだかソワソワしてるんですよ」


 そう答えるのは操舵手のパットだった。


 ウキウキしていたのは自分だけじゃなかったと、内心ホッとするマノックだった。


 街からだいぶ離れたころ待望の試射を始めることにした。


 先ずは37㎜速射砲からだ。


 今までの短砲身の40㎜砲とは違い、アレシア製の長砲身37㎜砲だ。


 皆の期待が高まる。


 今、船首砲塔に入っているのは最年少のマックス18歳だ。


「マックス、射撃準備はいいか?」


「はい、マノック艇長、射撃準備完了です。いつでも撃てます」


「よし、第一弾発射!」


 ドンッ!


 重い発射音と共に真っすぐな弾道軌跡を描いて、あっという間に目標の岩に命中する。


 命中するとその岩に深々とめり込んで弾は止まる。


「こいつはすげ~な、初速がはんぱね~。弾道直進性も安定してるし、こいつは良い買い物だよ、艇長」


 操舵手のパットが目を丸くして言ってきた。


「よし、次弾は榴弾を発射する。装填準備しろ」


「了解です、次発装填急ぎます」


「装填完了次第発射しろ」


「了解――装填完了、発射します!」


 ドンッ!

 

 先ほどと同様に高初速の弾は岩に弾着、しかし今度は徹甲弾ではなく榴弾だったので岩に着弾すると爆裂魔法が発動して即座に爆発する。


 激しい爆発音が響き渡り、岩が爆発四散した。


「おお、初速が高いから威力も少し大きくなるんだな。これはいいな」


 マノックはニヤニヤしながらつぶやくのだった。


「よし、次はマックス、船尾砲塔に移ってくれ。15㎜重機関銃を試射する」


「マノック艇長、了解です、船尾砲塔に移ります」


 マノックはマックスが船尾砲塔に入ったところで射撃命令を出す。


「マックス、準備できたら好きに撃て、ただ1連射だけな」


「了解です。あれ?これは…」


「どうした、マックス?」


「マノック艇長! これってグラップ製のじゃないですか!」


「そうだ、驚いたか!ははははは」


 この15㎜重機関銃はグラップという超一流の工房の作品だった。


「心して撃てよ。そして十分に堪能してくれ」


「はい!射撃開始します!」


 ドッドッドッドッドッ!


「凄いっ、重機関銃初めて撃ちました……感動です」


 マックスは嬉しいを通り越して感動してしまっていた。

 ここにもオタクがいたかと内心うれしいマノックだった。


「マックス、整備は怠るなよ。それと弾の値段も張る。撃つときは無駄にするなよ」


 こうして試射を終えると、再び陸戦艇を走らせて目的の場所へと向かうのだった。


 目的の場所とは『魔物だまりの岩山』、やどかり亭でハルトマンから聞いた噂話の場所であった。





読んでいただきありがとうございます。


週に2~3回の投稿を目指してります。


今後ともよろしくお願いいたします。


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