39話 お姫様抱っこにエルフは轟沈した
「俺の陸戦艇がやっとお出ました。もう少しここで耐えるぞ!」
マノックはしゃべりながらも、短機関銃の銃口は扉に向けたままだ。
ミルは最後の1枚だという魔法陣の紙片に魔力を通している。
ゴブリンのブエラ3等陸戦兵は、切り詰めショットガンのチューブ弾倉に弾を込めている。
獣人のシルテ1等陸戦兵はライフル銃に着剣して、接近戦の準備をする。
エルフのレラーニは魔法の弓矢を撃ち込もうと、魔法詠唱に取り掛かる。
召喚した魔物は死ぬと消滅してしまうので、咀嚼しても腹が膨れる前に消えてしまう。つまりはミルの召喚した魔物を飲み込んでも腹は膨れない。
「腹を空かせた青蛇が来るぞ! ありったけの弾丸をお見舞してやれ!」
マノックの言葉が合図かのように、扉のバリケードを破って青蛇が侵入してきた。
そしてマノック達の一斉射撃が青蛇を迎え撃つ。
激しい銃弾の音と硝煙がブリッジ内を占拠する。
「撃ち方やめ~、撃ち方やめぇ!」
マノックが手を振りながら射撃停止を皆に伝えるのだが、青蛇の姿が見えない。
「青蛇がいないぞ? 逃げたのか?」
レラーニが魔法の弓から腰の魔剣に持ち替えて、警戒しながら扉に近づく。
「ひえ~~!!」
レラーニが悲鳴を上げた。
階段まで下がって退避していた青蛇が、扉に接近したレラーニに襲い掛かかったのだ。
レラーニは持っていた魔剣で青蛇の顎を突き刺し、咬み付かれまいと必死で魔剣に力と魔力を込める。
「マノッキュ~~~ッッ!!」
レラーニが再び叫び声をあげる。
「くそっ、まってろ!」
マノックは短機関銃を脇に置いて、青蛇へ向かって走りながら腰の短剣を抜く。
そして至近距離まで接近すると、その短剣を青蛇の目に渾身の力を込めて突き刺す――しかし「キンッ」とまるで金属に攻撃しているかのような音を立て、短剣は根本から刃が折れてしまう。
青蛇は短剣が刺さる寸前で瞼を閉じたのだ。
折れた短剣を見ながら唖然とするマノック。
「マノッキュゥゥゥゥ……もう耐えられん!」
レラーニに限界を訴えられて、マノックは我に返る。
一瞬どうしようか迷って目が泳ぐのだが、すぐに何かを思いついたようだ。
すると今度は、魔剣を握りしめるレラーニの手の上に自分の両手を添えて、念じるように魔力を込め始める。レラーニとマノックの魔力を帯びた魔法の剣は、一段と明るく輝きながら、青蛇の体内へと深く刃が刺さっていく。
チャンスとばかりにマノックは、力任せにその魔剣で青蛇を切り裂いた。
青蛇は痛さのあまり、激しく暴れ出す。
その隙にマノックはレラーニをお姫様抱っこして、ブリッジの隅に退避する。
そこへミルの召喚した魔物、「グリーンスライム」が青蛇に襲い掛かった。
グリースライムは青蛇の顔面に向かって張り付こうと襲い掛かるのだが、予想以上に大きな口を開けられたため、逆に飲み込まれてしまう。
だがグリーンスライムは弱い毒性を持つ。しかも飲み込まれても、マノックが広げた傷からグリーンスライムの一部が体外に抜け出してきて、消滅せずにしぶとく毒を送り続けていた。そのおかげで青蛇はブリッジ内でのたうち回っていた。
「全員伏せろぉ~~!」
ブリッジの外を見たマノックが、突如大声で叫ぶ!
全員が伏せた途端に、15㎜重機関銃の重い銃撃音がブリッジ内を掃射する。“俺の陸戦艇”が到着して、青蛇に向かって攻撃を加えたのだ。
硬い鱗に覆われた青蛇もライフル弾には耐えても、15㎜弾には耐えられなかったようで、掃射が終ると穴だらけになった無残な姿で横たわっていた。
「終わった……」
ミルがポツリとつぶやくと、へなへなとその場に座り込んでしまう。
シルテ1等陸戦兵は恐る恐る青蛇に近づき、銃剣で突き刺して息がない事を確認している。
「レラーニ、わ、悪い気はしないんだがな、いい加減にその、お、俺から離れてくれるかな」
レラーニは両腕をマノックの首に回して抱き着いたままの自分に気が付き、慌ててマノックから離れる。
「す、すまん、マノッキュ……」
まるで少女の様に顔を赤らめたレラーニが、うつむき加減でボソッと謝罪する。
「あ、ああ、いいさ。でも危ないところだったな」
マノックも何故だか動揺して、返す言葉も上ずっていた。
「もう! 陸戦艇に戻るまでが探索ですよ! 気を抜かないでくださいっ!」
ミルがツカツカとマノックの側まで来ると、両手を腰に当て大声を張り上げて2人に注意をしてきた。
そこへ“俺の陸戦艇”から掛けられた梯子を渡って、壊れた窓からブリッジ内へと突入班の陸戦兵が何人も入って来る。
そしてその内の班長らしい人間の男が口を開く。
「マノック艇長、ご無事でしたか? 他の隊員もお怪我はありませんか?」
「ああ、良いタイミングで来てくれたよ。いろんな意味でも危ないところだった、礼を言うよ」
こうしてマノック達はひとまず“俺の陸戦艇”に戻り、事のあらましと、船倉に眠る“装甲多脚機”について話し、なんとか掘り起こせないか思案するのだった。
そして話し合った結果、“俺の陸戦艇”と拿捕したゴブリンの護衛艇を使って、砂の中から船体ごと引っ張り出す作戦で話はまとまった。
また、ミルが召喚した魔物と、ゴブリンの護衛艇の船倉にいたイエロースパイダーにも手伝わせるということになり、ゴブリンの乗組員の中からイエロースパイダーを扱ったことのある者を探しているとところだ。
「マノック艇長、イエロースパイダーに騎乗できるものが4名、世話をしたことのある者が6名が見つかりました」
マノックが“俺の陸戦艇”のブリッジの艇長席で、エールを飲みながらウトウトしてると、いつのまに来たのかゴブリンの隊長がマノックの前で敬礼しながら報告した。
「おお、そうか。ご苦労。明日の朝までにイエロースパイダーを使えるようにしておけ」
「了解しました、そのようにいたします!」
マノックの命令に、ゴブリン隊長は姿勢を正すと、再びブリッジを下りて行く。
「ゴブリンも育つ環境が違うと人間と変わりないじゃねぇか?」
独り言のようにつぶやくマノックに、副長のレフが答える。
「私もそう思いますよ。ゴブリンをもっと採用してもいいと思いますよ。仕事にあぶれているゴブリンや安い賃金で働いているゴブリンなら、喜んでこの陸戦艇にくると思いますよ」
「そうだな、検討するか」
ゴブリンの有用性を話し、少なくてもこの陸戦艇では今後ゴブリンへの差別がなくなっていきそうであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝になってマノックが目覚めてブリッジに行くと、すでに作業は始まっており、ミルが召喚したであろうサイクロプスと巨大な角トカゲが、一生懸命に砂を掻きだしているところであった。
「滅多にお目にかかれない光景だな。魔物が陸戦艇のサルベージしてるとはな」
マノックは呆れた表情で思わず声に出した。
その声に副長のレフがマノックに気が付き声を掛ける。
「おはようございます。昨日はお疲れ様でしたね。日の出前から作業開始していますが、ちょいちょい陸戦艇の中から驚いて魔物が飛び出してきますので、その都度倒して回収していますよ。あとは特に不都合などなく順調に進んでいますよ」
「そうか、それならいい。しかし周りにも気を付けろよ。魔力溜まりの真っただ中に変わりはないからな」
「はい、抜かりはないですよ。小型偵察艇を2機とも発進させていますからね」
「そうか、それなら大丈夫かな。俺もちょっと見学してくるからここは頼むね」
マノックはまたしてもレフにすべて任せて、どこかへ消えて行ってしまった。
「相変わらずだよね~」
レフは苦笑するのだった。
そんな中でもサルベージは着々と進み、埋まっていた陸戦艇は徐々にその姿を現すのだった。
次回はサルベージした陸戦艇の全容が明らかになる?!
次回投稿は19日火曜日を予定しております。
今後とも宜しくお願い致します。




