36話 雀蜂は毒針を刺す
ダンジョンという言葉に静まり返っているブリッジ内で、それをぶった切る発言をマノックはする。
「ダンジョン化してるってことは、その陸戦艇の中には魔物が住み着いていたりしてるってことだろ。面白そうじゃねぇか! インドアコンバットできるじゃねぇか! そうだな、ショットガンはやっぱ必要だよな。それから短機関銃にハンドガンに棒状手榴弾も必要だな。これは忙しくなりそうだな」
嬉しそうにはしゃぐマノックを見つめるパッドが、操舵をしながら呆れた様子で口を開く。
「マノック艇長、あの陸戦艇のダンジョンに潜るつもりですか?」
「当り前だろ。砂人の前に現れたダンジョン、潜らないでどうするよ」
「うぐ、確かにそうなんですけどね。この辺りは危険ですぜ。待機している陸戦艇も大型魔物に補足される可能性もありますぜ」
「なあにその辺は大丈夫だ。待っていなくていいから」
「はぁ?」
「指定した時間に拾いに来てくれればいい。それまでは安全なところ陸戦艇を移動させてくれていいよ」
「ん~それなら大丈夫かぁ……負けました、いってらっしゃい!」
パッドは諦めて降参のポーズをとる。
「あの~その話なんですけど~」
いつの間にブリッジ内に上って来たのか、マノックのすぐ後ろからミルが発言する。
レラーニもそのすぐ後ろにいて、まだ眠そうに欠伸をしている。
「お、お目覚めかお二人さん、で、どうした?」
マノックが振り返り見ると、レラーニとミルに交互に視線を送ってから答える。
「そのダンジョンなんですけど~私も行きたいんで連れてってもらえますか?」
「おお、ダンジョン行きたいか! いいぞ、でもミル、船内で召喚魔法使ったとしてだ、それがでかい魔物だったらダンジョン化した陸戦艇でも吹っ飛ぶぞ?」
「はい、それは大丈夫です。その環境にある程度適応しないと呼べないみたいですから。何度か狭い場所での召喚経験あります」
「そうか、それなら安心、というよりも心強いじゃねぇか、ははは」
マノックは機嫌が上昇中だ。
「マノッキュよ、私もいることを忘れるでないぞ! 私は良い仕事をするぞ!」
眠そうにしていたレラーニも参戦を表明する。
「そうか、それならこれで3人だな。あとは突入部隊の隊員から2~3人選んで連れて行くか」
話はトントン拍子に進み、それぞれがダンジョン装備の準備をするのだが、ミルに関してはダンジョンというところへは1度も入ったことがないとのことで、全くのダンジョン初心者のようだった。
マノックは突入部隊の隊長のところへ行き、ダンジョン経験者を募ったところ何人かが挙手をした。簡単に質疑応答をした後、その中から2人を選抜して準備をさせる。
獣人のシルテ1等陸戦兵と同じくゴブリンのブエラ3等陸戦兵だった。
この5人でパーティーを組んでのダンジョン化した陸戦艇の探索となる。翌朝各々が装備を整えると、早速ダンジョンのすぐ側に“俺の陸戦艇”を横付けし、装備を整えた5人がダンジョン化した陸戦艇のブリッジの窓から侵入する。
5人全員が無事に侵入すると、“俺の陸戦艇”はダンジョンから徐々に離れて行く。
「さてと、これで少なくても今日の夜までは逃げるところがないからな。最低限の荷物だけ持って侵入する。あとはここに置いて行くぞ。何かあったらここへ戻って来て最終防衛ラインとする、それがたった1人でもだ、いいな」
マノックの問いかけに全員が黙って頷く。
「よし、それじゃあ突入だ!」
陸戦艇の通路なので、1人もしくは2人が並んで通るのが精一杯のような広さだ。なので1列縦隊での侵入となる。
カンテラ代わりに魔法のライトを使って行く手を照らす。
1番手はゴブリンのブエラ3等陸戦兵だ。ゴブリンは身長が低く、狭い場所でも行動できるのに加えて、人間よりはだが暗闇にも強い。それで先頭を行くことになった。取り回しがしやすいように、切り詰めて短くしたしたポンプアクションショットガンを装備する。薬室内1発とチューブ弾倉に3発のショットシェルが入る4連発だ。
2番手はマノックが進む。
愛用のサブマシンガンを手に、ニヤニヤが止まらない。
マノックのすぐ後ろにはミルが控える。武器はハンドガンのみであるが、各種ポーションを持ち、医療担当兼後方支援が役目である。
そして4番手に行くのが獣人のシルテ1等陸戦兵だ。獣人であるので鼻が利く利点を活用して真ん中に陣取ってもらい、魔物の接近を前後臭いで警戒してもらう作戦だ。手には総弾数5発のボルトアクション式のライフルを構えている。やはりライフル銃は威力的に言っても必需品だ。ピストル弾やショットガンの散弾では抜けない魔物の皮膚も、ライフル弾ならば抜ける可能性はある。
そして殿はレラーニだ。
砂人の経験が長くダンジョン経験もあり、臨機応変な対応ができる優れもの。最後尾でも適切な行動をとってくれると考えての配置だ。
装備はなんと短弓だ。一応拳銃も持っているのだがほとんど使わないという。各種矢じりを揃えており、用途に合わせて変えて使うらしい。
また、接近戦では腰にぶら下げたサーベルを使うそうだ。昔ダンジョンで見つけたということで、魔力を込めると輝きだすらしく、レラーニは魔剣と呼んでいる。マノックが「どんな効力があるのかと」尋ねると、レラーニは「それは内緒だ」といって教えようとしない。マノック曰く「あれは輝くだけのまがい物」だそうだ。
ブリッジ内には目ぼしい物は何もないようで、パーティーはまずブリッジから下へと降りる階段を進む。
「うわ、酷い臭い、大分古くからあるみたいだな。なんか骨みたいのも散乱してるし魔物がいる証拠だな」
マノックが鼻を抑えながら話す。
そして特に何も現れることなく、甲板への出入り口扉まで来てしまった。
無理だとは分かっていたが、一応甲板へと出る扉を開けようとしてみたが、やはり大量の砂で開けることは出来ない。
やむを得ずさらに下へと階段を降りることにする。
下へ降りることによって、ブリッジから船内へと移る事になる。
マノックがどうしても艇長室から行きたいと駄々をこねるので、誰も反対することも出来ずに船尾にあると思われる艇長室へと向かうこととなった。
階段を下りて進路を船尾に向けてすぐ、獣人のシルテ1等陸戦兵が何かに反応した。
「マノック艇長、魔物臭が漂ってます。近くに魔物がいるかと思われます」
シルテ1等陸戦兵が魔物の臭いをキャッチしたらしく、警戒を促す。
その言葉に対して先頭のゴブリンのブエラ3等陸戦兵が、前方を凝視しながらマノックに小声で告げる。
「マノック艇長、通路の先になにかいるようです」
それを聞いたマノックは前方に何かいる事をジェスチャーで知らせ、さらに口に人差し指を当てて声を出さないように伝える。
マノックはライトの魔法で作った光球を、徐々に前方の何かに向かって移動させていき、 その光球の移動と一緒にパーティーメンバーも移動する。
すると通路の先の暗闇が徐々に明るく照らされ、通路の途中にある部屋の扉が1つ開いていることが確認できた。
その開いた扉からは、ぴちゃぴちゃと何やら音が漏れていることに一行は気が付く。
マノックはブエラ3等陸戦兵に見てくるように合図をし、他は待機するように手信号を送る。
ゴブリンのブエラ3等陸兵は足音を当てないように、ゆっくりとその開いた扉に近づく。扉のすぐ横まで来ると、壁を背にしてそっと頭だけを扉に覗かせる。
ブエラ3等陸戦兵はすぐさま顔を引っ込めると、マノックへ合図を送る。
それを見たマノックはすぐにブエラ以外の3人を集めて作戦を伝える。
「どうやら魔物は1体らしい、俺とブエラとレラーニで突入する。シルテとミルは後方警戒と援護を頼む。できれば音を立てずに仕留めたい」
マノックは小声で手早く伝えると、レラーニを連れて扉に近づく。
マノックはレラーニとブエラ3等陸戦兵に目で合図を送ると、一斉に突入する。
突入と同時に魔法の光球も一緒に扉の中へと侵入し、部屋の中を照らし出した。
部屋の中央には1.5mほどもあるネズミのような魔物がいて、何かをぴちゃぴちゃと貪っていたところだった。
そこへ先頭で突入したブエラから、刃渡り30cmほどの短剣というよりも小剣が投げられ、それと同時にレラーニも短弓から矢を放つ。
マノックはというと、突入してすぐに左側に移動して短機関銃を構え、最悪射撃して仕留める体勢だ。
ブエラの小剣がネズミ型の魔物の首筋に刺さるのだが、数cmほど刺さっただけで抜けてしまう。レラーニの矢もかろうじて突き刺さるのだが、分厚い毛皮に阻まれて深くは刺さらない、かろうじて矢じりの先が肉に食い込んだ程度だった。
思った以上に頑丈な皮膚に、音を立てずに倒す作戦は諦めて、マノックは短機関銃を構える。しかしそれをレラーニが制止する。
「マノック、待て! 見てみろ、毒が効いてきたようだ」
レラーニの放った矢にはどうやら毒を塗っていたらしく、ネズミ型魔物が痙攣を始めたのだ。
レラーニは腰のサーベルを引き抜くと、ゆっくりとネズミ型魔物に近づいて行く。サーベルに魔力を流しているらしく、刀身が輝き始める。
「すげっ、本当に魔剣みたいだな、そのパチモン」
マノックが思わず口に出してしまったのだが、構わずレラーニはその輝くサーベルで痙攣を続けるネズミの首を一刀両断する。
ネズミの頭がボトリと床に落ち、数秒遅れて鮮血を吹き出しながら胴体がドサッと横倒しに倒れた。
「これでもパチモンだと?」
レラーニは不敵な笑みを浮かべながらマノックを見るのだった。
読んで頂き有り難うございました。
不敵投稿が続きますが今後ともよろしくお願いいたします。




