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3話 酒場でエルフに誘われた



 陸戦艇の修繕には一週間かかるということだったので、乗組員には1週間の休暇を与えていた。


 マノック自身はというと『俺の陸戦艇』の修繕の打ち合わせと、新しく砲塔に取り付ける武器の選定と忙しく走り回るのだった。


 しかし、折角の休暇を返上して忙しく動き回ることに、彼は全然苦痛と感じていなかった。


 逆に楽しみで楽しみでしょうがない気持ちの方が強かった。


 自分の中にもまだこういった感情が残っているのだと、自ら関心するマノックだった。


 そして今はボール商会で修繕についてジョージ・ボールから説明を受けているところだった。


「レイ、船底がだいぶ傷んでいるんで補修している最中だよ。それから船体の外板も張り替えようと思う。今のじゃ魔物の一撃で船体がひしゃげちまうからな。それと船首砲塔の40㎜砲だがな、だいぶガタがきてるんで倉庫にあった37㎜砲に変更する予定だ。ただし中古だけどな。ま、口径こそ小さくなるがアレシア製の速射砲なんで、性能は今まで以上と保障する。それと……」


「ちょっと待ってくれよジョージ、こういっちゃあなんだが、そこまで修繕しちまったらボール商会として赤字になっちまうだろう。ありがたいんだがそこまでしなくてもいいぞ」


「レイよ、前に飲んだ時にも言ったけどな、俺はあの魔石で大儲けしたんだよ。これぐらいはしてやれるから安心しな」


「ジョージ、おまえはどれだけ儲けやがったんだよ…」


「はははは、内緒だといったろうが。企業秘密ってやつだよ」


「ああ、それから後部の砲塔にとっつける武器なんだがな、あの砲塔の大きさだとあまり選択肢がなくてな。このリストから選んでもらえるか」


 ボールはなおも話を続け、カタログのような紙を3枚机に広げた。


 1枚目は15㎜重機関銃、2枚目は20㎜自動砲、3枚目は50㎜曲射砲、それぞれが簡単な図解と性能が書かれている。


「どうだレイ? なかなかの掘り出し物ばかりだろ」


「ああ、確かにな。それだけに怖くなってきたよ。俺の陸戦艇が強くなっていく……」


「あほか、良い武器も操作する人次第ってな。ま、おまえらなら強くなるか」


「おだてて、また大物魔物を持ってこさせて、さらに儲けようって根端だな」


「ありゃ、見透かされたか!」


「「はははははは」」


 商談の最中でもあるのだが、2人は大笑いしながら話を進めていた。


 大まかな改造仕様が決まると、今度は改装の工場へと出向いて細かい現場レベルでの話し合いになる。


 そんなこんなで1日はつぶれる。


 マノックもそうだが、陸戦艇の乗組員は全員この街には住んでいない。


 今回は獲物の売買で立ち寄り、話の流れで陸戦艇の改修作業になったというだけで、このレタシアの街に住処はないので宿屋暮らしとなっていた。


 大抵のこうした砂人のハンターは安い宿屋に集まる傾向があり、そういったとこには魔物の情報やサルべージ情報や、パーティーメンバーの募集などとあらゆる情報が交差していた。


 マノックはレタシアに来るといつも同じ宿屋に泊る。


 『ヤドカリ亭』と呼ばれるところで、一階が飲食店で2階が宿屋を営んでいる。


 他よりもちょっとだけ価格が高いので、主に陸戦艇のオーナーやパーティーのリーダークラスが泊るようなところだった。


 そのため情報もそういった人達向けの内容が多く、マノックもその情報のためにもいつもここに泊る。


 泊らない場合でも食事をとったりしてわざわざ立ち寄ることが多い場所であって、今回も艇の改修作業が終了するまで宿は予約してあった。


 マノックは予約した部屋に荷物を置いて、一階で食事をとるために階段を下りていく。


 カウンターにドカッと腰を下ろしシチューとパンのセットとエールを注文する。


 他の客は比較的少ないようでマノックを含めて8人だけなのだが、その中でも馴染みの顔は半分くらいで、残り半分は初見の顔だった。


 その中から馴染みの1人がマノックに声をかけてきた。


「あら、お久しぶりじゃないのマノックゥゥ~~」


 そんな甘ったれた声で話しかけてきたのは、エリスというエルフの女性だった。


 マリンブルーの美しい瞳をキラキラさせながらマノックの横の椅子に座ると、その椅子を引きずりつつマノックの横にぴたりとつけ、色っぽく赤毛の長い髪の毛をかき分ける。


 そしておもむろに両腕をマノックの肩に乗せて妖艶な笑みを浮かべる。


「ふふふ、何にも言ってくれないのかしらぁ?」


「ああ、久しぶりだな。今は俺忙しいからまた今度な」


「ちょ、ちょっとそれはひどいじゃないのよお。いい情報持ってるのにぃ」


(やっぱりそうか)


 このエリスという女がこういった行動をとる時は決まって何かを企んでいる時だ。

つまりろくでもない情報とマノックは予想したのだ。


「情報は間に合ってるよ、また今度な」


「つれないのね~、いいわぁ、また今度・・ねぇ。その時はお酒も付き合ってもらうわよぉ、ふふふ」


「はいはい、わかったよ」


 エルフという容姿に加えてこの色気で攻められたら、健全な男性であったならすぐについていってしまうのが普通だ。


 獣人だったらまさに尻尾を振ってついていくだろう。


 実は以前に一度、マノックは痛い目にあっているのだ。


 期待満々で彼女の情報を買ったはいいが、複数人に情報を売っていたらしく情報の現場に到着したが何もなかったのだ。


 しかもその後にどうしてくれるんだとばかりに話をするが、それは冷たいものだった。


 少なからず下心もあっただけにマノックは、酷く挫折感を味わい、それ以来彼女を信用していない。しかし別に彼女が嫌いと言う訳ではなく、むしろ好意さえ持っているくらいだ。


 そんな心情なのだが色恋の挫折感はマノックにとって一番恐ろしかったりする。


 そんなアラサーのマノックが今だに独身なのは、そういった経緯によるものかもしれないのだが、そればっかりはマノック本人しか分からない。

 

 マノックの隣に陣取っていたエリスが立ち去ると、それとは入れ替わりに新たな人物がマノックに話しかけてきた。


「よお、大変だったな。エリスは相変わらずだろ、はっはっはっ」


「ングングング、ふ~。ああ、ハルトマンか、なんだ、景気よさそうな雰囲気だな」


 エールを飲み干し、新たに話かけたきた30歳前半くらいの男をまじまじと見つめると、指輪やブレスレットなど高価そうな貴金属が目を引いたのだ。


 以前あった時には、貧乏ったらしい砂人の恰好をした記憶がマノックにはあったのだ。


 何か掘り当てたとマノックは想像して、探りを入れたのだ。


「ふははは、わかるか、やっぱり?」


 隠そうとしていないようで、逆にそこを突っ込まれたことが嬉しそうだ。


「丸わかりだろ、そんだけ高価なもんつけてりゃな」


「実はな、小型の輸送艇のサルベージに成功してな、大儲けよ!」


 どうやら誰かに話したくてウズウズしているようで、ハルトマンは得意気だった。


 その後もマノックの横に座り、長々と聞いてもいない経緯を話し始めるのを、笑顔でずっと聞き役に徹するのだった。


 実はマノックも、今の陸戦艇は輸送船のサルベージで大儲けしたのが発端だったからだ。


 当時10代の若者だったマノックは、パーティー募集の掲示板を見てとある小型陸戦艇に乗組員として乗り込んでいたのだが、その乗り込んだ小型陸戦艇がたまたま、魔物に破壊された直後の中型輸送船を発見して、サルベージに成功。


 その陸戦艇の船倉の積荷には魔石が多数積み込まれていたおかげで、10代のマノックにも特別ボーナスという大金が転がり込んできたわけだった。


 そして18歳になった時、稼いだ資金を頭金にして中古の小型陸戦艇を購入、日々借金を返済しつつ28歳でどうにか借金も返済して今にいたっている。


 10代で陸戦艇を所有するなど成功者の1人でもあるマノックなのだが、その時借金をした相手はボール商会のジョージ・ボールだったのだ。


 当時何の担保も持たない駆け出しの砂人に金を貸すなど通常は絶対にないのだが、幼馴染というだけで大金を貸したボールがバカなのか、はたまた人を見る目があったのか。


 そういった経緯があるので、マノックはハルトマンの気持ちがよくわかり、ずっと彼の自慢話をウンウンと頷いて聞いているのだった。


 ハルトマンはひとしきり話し終えると満足したのか、マノックに挨拶するとまた別の席へと移って行った。


 単なる自慢話だけかと思ったのだが、一つだけ有用な情報を落として行ってくれた。


 『魔物だまりの岩山』と呼ばれる場所があるのだが、そこで小型陸戦艇が沈んでいるらしいというものだった。


 単なる噂話かもしれないが、事実が少しでも入っているならば有用な話になる。


 一応頭の片隅にでも記憶しておこうと思うマノックだった。


 2杯目のエールを飲み干したところで、マノックは2階の自分の借りた部屋に行き心地よい眠りへと落ちてゆくのだった。




読んでいただきありがとうございました。


週に2~3回投稿を目指していますので今後ともよろしくお願いします。


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