24話 幽霊は自爆を誘う
本日2月目の投下です。
砂上バイクは煙幕の際を通って迂回していく。
距離700まで接近できたのだが、それ以上は隠れる岩場もなく、煙幕から距離をとっているので煙幕に紛れて接近も出来ず、岩場の陰からどうやって敵陸戦艇に近づこうか悩むんでいるところであった。
「ミル、何かいい手はねえか?」
マノックは背中越しに顔を若干後ろに向けて、後部座席に跨る魔物召喚魔法が使えるミルに意見を求めた。だがこの距離で魔物召喚しても、陸戦艇の砲撃ならあっという間に排除されてしまうであろうし、だからといって遮蔽物も何もないところから接近すれば、すぐに気が付かれるだろうしで、良い案が思い浮かばないまま時間だけが過ぎていった。
「しょうがねえ、最後の手段を使うか」
「最後の、手段ですか?」
「ああ、そうだ。一か八かともいうがな」
「何をするんですか?」
「堂々と隠れず突撃だ」
「え、え、えええええぇぇぇ!」
敵陸戦艇は煙幕の中に隠れている俺の陸戦艇の方を注視しているはずだから、煙幕とは反対側から進んで行けば、こんな小さな砂上バイクならば気が付かれる可能性も少ないという無茶苦茶な理屈だった。
反対するミルを放っておいて、マノックは煙幕の反対側にでると、敵陸戦艇の船尾から砂上バイクで接近を開始する。
走り始めてすぐ気が付かれると思っていたミルであったが、マノックの言う様に全く気が付かれずに、あっという間に距離300まできてしまった。もう少しで召喚魔法の射程距離内だ。
しかしそう甘くはなく、あと少しというところで敵陸戦艇に発見され、敵船の甲板上が騒がしくなるのが分かった。
「ミル、立ち上がって笑顔で手を振れ! 急げ!」
マノックが咄嗟に出た言葉だった。
一瞬冗談かと思ったミルであったが、余りにも怖い表情で言うマノックに押し切られて、ミルは後部座席で恐々と立ち上がって、笑顔でゴブリンたちが乗る陸戦艇に手を振りだした。すでに敵陸戦艇の船尾の砲塔はこちらへ向いており、いつ射撃されてもおかしくないはずだったのだが、何故かゴブリンは撃ってこない。しきりに双眼鏡でこちらを観察しているのだった。
ゴブリン達にしたら、戦闘中に突然砂上バイクが接近してきて、しかもそれが手を振っている状況だ。一瞬対応に困ってしまったのか、呆気にとられて対応が遅れたのか、それは彼らに聞かないとわからないのだが、一つだけわかることは大きな隙を与えてしまったという事実だ。砂上バイクに乗るマノック達なので、一瞬でも時間が稼げればすぐに魔法の射程内に入ることができた。
「ミル、ここからなら届くぞ。召喚魔法だ!」
ミルがポケットから出した2枚の紙を掲げると魔力を通し、2枚の紙は青白く光を放って燃え尽きた。するとゴブリン達の乗る陸戦艇の甲板上には、空間に亀裂が2つ生じ、その亀裂からは2体の魔物が這い出してきた。その魔物は2体とも半透明の姿をしていて空を飛び回り、ゴブリンの体を通り抜けるたびに、通り抜けられたゴブリンは生気を吸い取れれて、カラカラに干乾びて倒れて行った。
ゴーストとかレイスと呼ばれる、物理攻撃が効かない魔物であった。
船尾砲塔の砲手が慌てて砲塔の向きをレイスに向けると、その76㎜砲弾をレイスに向けて撃ち放った。
ドンッ!
ガンッ!
しかし、物理攻撃が効かないレイスは、砲弾など体を通り抜けてしまい、後ろにあった艦橋に76㎜砲弾が突き刺さった。
砲弾は艦橋の底部に命中すると、その硬い砲弾は内部へと侵入しそれでも勢いは止まらず、艦橋の反対側から突き抜けて岩山に突き刺さってやっと止まる。
その衝撃で周りにいたゴブリン達に大分被害がでたのだが、さらに大きな被害が彼らには待っていた。
バズ~~~~~ン!!
穴が開いた艦橋から突如爆発が起きたのだ。
距離100まで逃走した砂上バイクに乗るマノック達の背中にまでも、その爆発の衝撃が伝わった。
「うっわ! なに? 爆発!」
マノックは砂上バイクの速度を上げながらも驚きを口にする。その最中にも次々に爆発が続き、最終的には魔道エンジンが暴走を起こして魔石燃料にまで影響を及ぼしての大爆発を誘発し、辺りにその破片を撒き散らしたのだった。
「誘爆っておかしいだろっ!」
いとも簡単にゴブリンの陸戦艇が消し飛んでしまい、自分たちでしでかしたというのにその所業に驚くマノック達であった。
その頃、俺の陸戦艇では煙幕で真っ暗の中、遠くでの大爆発があった後の威嚇砲撃がなくなったことから、様子を見るために煙幕から姿を現そうとしていた。
レフの指示のもと、俺の陸戦艇は煙幕の切れ目から徐々にその姿を現すと、幽霊船の様に無人と化したゴブリンの陸戦艇が、ゆっくりと爆発した陸戦艇の残骸の中を徘徊しているのが見え、その甲板上から手を振る2人を発見するのだった。
「ゴブリンの陸戦艇を拿捕したぞ~~!!」
マノックは鼻高々に俺の陸戦艇に大声で勝ちどきを上げるのだった。
「いやあ、スライム召喚は大正解。おかげでゴブリンの陸戦艇を無傷で手にできたせ。ミルのおかげだな」
「そんなことないですよ、マノックさんの作戦のおかげですから。私1人だったら何もできませんから」
「んじゃあ、2人力合わせての勝利ってことだな!」
「はい!」
2人はゴブリンの陸戦艇の甲板の上で、俺の陸戦艇が迎えに来るまでの間、たわいもない話で時間を潰すのであった。
俺の陸戦艇がゴブリンの陸戦艇の横に接舷し、そこから武装したマックスとキースが乗り込んで来て、マノックとミルも近接用の武器を彼らから受け取る。
「たぶんゴブリンどもは全滅してるよ。ミルがスライム召喚してるから艇内の隅々まできれいさっぱりだと思うぞ、なあミル」
「はい、艇内ゴブリンすべて除去してくれるように頼んだので、もういないと思います。スライムが異界に帰っているんで契約は済んでるようですし」
召喚された魔物は契約を交わしてこの世界に足を踏み入れるのだが、契約が終われば勝手に帰って行くので、召喚された魔物が帰ってしまったということは、艇内のすべてのゴブリンを飲み込んで契約を果たしたのか、逆に返り討ちにあって異界へ帰って行ったかのどちらかのはずだ。まさか漆黒のスライムを倒せるほどの力量のゴブリンがいたとは思えない。
一応もしもの事も考えて、艇内を簡単に探索することになったのだが、ゴブリンは一切見つからなかった。その代わり、ゴブリン以外に生存者が3匹だけいた。それは指揮官クラスのオーク3匹だった。どうやら軍事顧問でこのゴブリンの陸戦艇に乗り込んでいたらしい将校1匹と、護衛兼補佐役の2匹だった。
ミルは召喚魔物にゴブリンはすべて倒せと命令したが、それ以外の命令はしていなかったそうで、それでゴブリン以外での生存者がでたわけだ。
自分たちの陸戦艇を簡単に戦闘不能にされたオークにしたら、もはや抵抗する気もなく、もろ手を挙げて降伏をしてきたというわけだ。
それに対してゴブリン陸戦艇内でどうせ誰もいないだろうと思い、軽い気持ちで探索していたら、突然オーク達に出くわしたマノック達は、驚いて危なく銃で撃つところだった。いや、実際はマックスが撃ってしまったのだが、その弾丸は幸いにも艇内の壁に突き刺さっただけで済んだ。
こうして3匹の捕虜と陸戦艇を手に入れたマノック達は、オーク3匹を俺の陸戦艇の船倉に縛り付けると、ゴブリン陸戦艇を曳航しながらこの岩山群を抜けるのだった。キースはゴブリン陸戦艇に残ってもらい曳航されながらも色々と機関を調べてもらうことになった。
マノックはというと、縛り上げたオーク1匹づつ尋問をしていた。
オーク3匹とも大陸語が話せる様だったので、急遽尋問を始めたのだった。オークに尋問など初めてであるマノックだったのだが、意外にも聞いたことに素直にぺらぺらとしゃべってしまうようで、恐らくそういった捕虜などの想定がなされていない為、黙秘などの概念もないのであろうと考えた。
「――ってことはだ、迂回してくることを予想してあそこに隠れて待ち伏せしていたわけだな、お前たちは」
マノックがオークの指揮官を連れ出して、尋問をしている最中であった。
「ああ、そうだ。お前たち人属は裏をかくのが好きだからな。そのくらいは予想していた。前の戦いでも、その前の戦いでもそうだったからな」
歴戦の勇士なのであろうオークの将校が答えた。
「ま、そうだよな。今まで気が付かなかった方がよっぽど不思議だよな。それで俺達の仲間の陸戦艇の生存者どうした?」
オークの話によると、待ち伏せしている中に無警戒の陸戦艇がきたので、取り囲んで総攻撃したようだが、ゴブリン側の被害も寛大だっらしく、小艦艇は全部誘爆させられたそうだ。そのかわりルッツ男爵の乗る陸戦艇を含めて、全部が破壊されたそうだ。つまりゴブリン達は2隻残ったがルッツ艦隊は全滅だ。
「生存者だと、そんなものは全部陸戦艇で引き潰したに決まってるだろう」
オークの将校は当たり前のことを聞くなとばかりに言ってのけた。
「はあ? てめえ何を言ってやがる!」
「雌だったら確保するのだが、雄には用などないだろうに」
オークの将校はいたってまじめな話だとばかりに言うのだが、そもそもオークには捕虜の概念がないようなので雌は有用だが、雄は無用、つまりは敵の雄は邪魔でしかないので存在自体がいらないのだとか。
常識というか考え方の違いが人属とは全く違うので、これは議論してもしょうがないとマノックは諦めるのだった。
「ふう、もうその話はいいや。じゃあ、お前らの部隊の規模はどのくらいだ?」
とりあえず聞ける質問は全部聞いておけとばかりに、思いついた質問は全部聞くことにしたマノックだった。
読んで頂き有り難うございます。
もう一発本日投下いたします。
どうぞよろしくお願いいたします。




